10月30日、木曜日
昼休み、トイレから出たところで一ノ瀬とぶつかりそうになる。
転ぶ前に腕を掴まれて、なんとか立て直す。
「わ、ごめん」
「ううん、こっちこそ」
一ノ瀬は手を離さない。
掴まれた手が熱い。
「柊、なんか変じゃない?」
「失礼だなー。いつもどおりだよ」
「そうじゃなくてさ……あと40日で、俺ちょっと焦ってるんだよ」
「そうなんだ?」
何を言ってるんだろう。
そんなの知らないよ、もう。
「ねえ、柊。本気出していい?」
「今までは本気じゃなかったの?」
「そうじゃなくて! そうじゃなくて……」
「痛いって。手、離して」
「えっ、あ、ごめん……」
「一ノ瀬って、誰にでも優しいんだよね」
「は?」
「ごめん。なんでもない。私、行くね」
笑って一ノ瀬から離れる。
教室に戻って次の授業の準備をする。
「莉子ち、なんかあった?」
結が私を覗き込んだ。
「なんもないよ」
「んー……なんか、しょんぼりして見えたんだよね」
「してないよ。大丈夫」
全然、大丈夫。
最初から、わかってたことだし。
私がかわいくないのも、一ノ瀬に好きになってもらえるような女の子じゃないのも。
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