9月27日、土曜日
学校内の花壇の水やりを終えて、校庭を眺めている。
陸上部が走ってるし、野球部が紅白戦をしてる。テニスコートからボールの跳ねる音がして、体育館からも走り回る音がした。
「ね、俺の活躍見ててくれた?」
水飲み場から、一ノ瀬がゆっくり歩いてくる。
「見てない。ここに来たときには終わってたから」
「そっか。残念」
「活躍、してたんだ?」
「んー、ごめん、あんましてなかった」
「ふうん。でも見てもわかんないよ、きっと」
「……それでも、見ててほしいな。頑張れるから」
一ノ瀬は私から数メートル離れたとこで校庭を見ている。
サッカー部の女マネが飲み物を配ったり、ストレッチを手伝ったりしている。
一ノ瀬の手にも、スポドリが握られていた。きっと、メイサちゃんが用意したんだろう。
「まだ、ミニゲームするの?」
「うん、もう一回する。……柊は? 部活終わった?」
「終わった。あと用具片付けるだけ」
「……その一回だけでいいから、見ててほしい」
穏やかな笑顔で、こっちを見ている。
なんでか、目が離せなかったし、軽口を叩く気にもならなかった。
さっきまで響いていた歓声や、ボールの跳ねる音がやけに遠くに聞こえる。
「わかった。一回だけね。昼までには帰りたいから」
「うん、ありがと。あと73日だ」
一ノ瀬の手が伸びてきて、私の手に触れる前で、ぴたっと止まった。
手の甲に、指先が一瞬触れて、すぐに離れる。
何も言わずに、一ノ瀬は私に背を向けた。
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