9月18日、木曜日
放課後、来週の苗植えに向けて花壇の土づくりがだいたい終わった。
前より、少しだけ空がオレンジに染まるのが早くなった気がする。
校庭の隅の蛇口で手を洗ってたら、隣に一ノ瀬がやってきた。
「柊、ごめん。今日一緒に帰れない」
「別に約束とかしてないでしょ」
「そうだけどさ。俺は柊と帰りたいんだよ」
「ふーん」
「冷たいなー。見てろ、あと82日したら、柊から『颯くんと一緒に帰りたいな』って言わせてみせるから」
そう唇を尖らせる一ノ瀬は、クラスの王子様でもサッカー部のエースでもない、不貞腐れた男の子そのもので、ちょっとおかしい。
「ふふ、なにそれ。ウケる。がんばって」
「笑うなよ。俺、本気だから」
ジトッと睨まれて、何て言えばいいかわからない。
「……まあ、いいや。部活に戻らねえと」
一ノ瀬が両手を上げて一歩下がった。
私はまだ、言うことが見つからなくて、ぼんやりと一ノ瀬を見ている。
夕陽に照らされた校庭では、サッカー部だけでなく野球部や陸上部も汗をかいていて、その姿が影になって見えた。
「また明日。気をつけて帰れよ」
「……うん。また、明日」
歩き出した一ノ瀬は逆光でどんな顔かわからない。
……自分の顔が、一ノ瀬にどう見えてるのかも、全然わからなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この作品が面白かったら、☆を★に変えていただいたり
ブックマークやお気に入り登録してくださると、
作者がとても喜びますので、よろしくお願いいたします!




