表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線
6/21

第6話:こうして世界は変わってしまった

カツ丼を主に提供するチェーン店の期間限定メニューで朝食を終えたシンは、その足でススキノに有るスポーツジムで筋トレを中心としたメニューを熟し、シャワーを浴びると今度はサイクルジャージと呼ばれる物に着替えてジムを出た。


 そして大型古書店とアニメショップが軒を連ねる辺りに有る有料駐輪場へと向かうと、其処で半日ぶりに愛車と再会する。


 元プロゲーマーと言うインドア派を絵に書いた様な経歴の持ち主であるシンだが、実の所彼は高校時代にはインターハイを経験した事も有る元スポーツマンでもあるのだ。


 彼がやっていたのは未だとある漫画が人気を博す前の、比較的マイナーだった頃の自転車競技【ロードレース】である。


 ロードレース……と言うかロードバイクは競技で使う様な物とも成ると数十万円を軽く超える値段の物がザラで、高校生が部活動として参加するには少々所では無くハードルの高い競技だ。


 けれども彼は偶々進学した高校に自転車競技部が有った事と、幼い頃からの貯金を全て吐き出して買ったロードバイクを通学の足として使っていた事で、割と強引な勧誘の末に部に在籍し体格等などに恵まれた結果インターハイまで進む事が出来たのである。


 大学進学後も体育会系では無いがロードバイクに乗るサークルでの活動は続けて居た為に、彼は概ねアスリートとしての体型を維持する事が出来ていてたのだ。


 その後、同じゼミの友人に誘われFPSファーストパーソンシューティングにどっぷりと嵌まり込む事に成るが、運動不足が身体にもらたらす悪影響に付いても色々と知っていた為に自転車とジム通いだけは、プロゲーマー時代にもずっと習慣付けて続けていた事でも有る。


 故に三十代半ば近い年回りにも拘らず、彼は未だにビール腹とは無縁のしっかりとした細身の体型を維持出来ている訳だ。


 まぁサイクルジャージの様な薄着に成るとはっきりと分かる太もも辺りのガチムチ具は、普通の人が見れば軽く引くレベルでは有るが……。


 ちなみに彼の乗る愛車は台湾の有名メーカーのハイエンドモデルで、パッとみて総額を素人が答える事等不可能だろうが、総額で100万円を優に超える代物である。


 そんなプロ仕様と言われても不思議の無い物を普段の足として使っていると言うのだから、彼の金銭感覚はやはり何処かズレているのだろう。


 普段ならばそのまま国道36号線沿いを走り、市街地から然程も離れていない場所に有る自宅へと一直線に帰る所なのだが、今日はちょっとした思いつきから札幌市街地を走り抜け手稲方面へと向かう事にした。


 昼前の市街地は3年前から発生した宇宙カマキリとの戦いなんて知らない……とばかりに平穏そのものでプロゲーマーを引退し帰郷した頃を思い出す。


 自分一人ならば一生働かずに暮らせるだけの財産も出来たし、地元に戻ってゆっくりと趣味に没頭して暮らそう……と札幌に帰って来た彼だったが、大きな金銭は家族と言えども人間関係を壊すには十分な威力を持つ物だったのだ。


 両親は幾ら財産があるとは言え良い年をした男が働きもせずブラブラして居る事に難色を示し、弟の嫁と妹は彼の財産を自分の都合が良い様に使って貰える様に媚びを含んだ擁護を口にする。


 幸か不幸か父親の跡を継いで会社を受け継ぐ事に成っていた兄貴は、弟に集る様な恥ずかしい真似が出来るか……と嫁を諌め、一生分働いて稼いだって言うなら此方に迷惑だけは掛けるな、とだけ言って距離を取ると言う選択をしてくれた。


 その為、シンは両親とも兄弟とも少しだけ距離を置く事を選択し、若い頃に父親から贈与を受けた後ずっと賃貸にしていたマンションの一室へと居住する事にしたのだ。


 ソレから然程も経たない10月4日……20時42分、新世紀最初にして最大の天体ショーと報道されて居たエキドナと名付けられた彗星が地球に最接近した時だった。


 テレビのニュースに影響された訳では無いが、なんとなく夕暮れの空を虹色の輝きを帯びながら過ぎ去る彗星を見上げていた彼の目の前で、丸で陽光の如き光を放ったかと思った直後、星が砕け四方八方へと弾け飛んだのだ。


 エキドナ彗星は1200年周期で地球へと接近を繰り返して来た周期性の彗星で、歴史書の類を紐解けばその存在は様々な所で記録されて居た。


 しかしソレが弾け飛ぶ……等と言う事は前代未聞の事で有り、世界中の天文学者がその痕跡や理由を血眼に成って探す事と成ったが……残念ながらその欠片の一つすら地表に到達する事無く燃え尽きた……と誰もが考えるしか無い状況と成った訳である。


 だが……ソレが世界中を震撼させる戦いの始まりを告げるゴングだったのだ。


 エキドナ彗星の消失からおおよそ2ヶ月後、世界中で野生動物の急速な減少が報告され、アフリカで狩猟生活をおくっていた部族の者が何人も帰らぬ人と成る……と言う異常事態が報告されたのである。


 そしてそれから更に半月程の後に、宇宙カマキリの姿が映像として確認され、極々小さな島国を除く、多くの国々でその発見が相次ぐ事と成った。


 当然、地元の治安組織や軍隊がソレをどうにかしようと対処に応ったが、多くの犠牲を払った上で撃破する事が出来たのは米軍等の大戦力と大火力を持つ極々一部の例に留まり、多くの国と地域では人食いカマキリに恐怖するしか無い状況と相成ったのだ。


 そうした状況を変えたのは米国航空宇宙局……所謂NASAだった。


 NASAや米軍が秘密裏に宇宙人とコンタクトを取っている……と言う都市伝説は前世紀から流布されて居たし、ソレを題材として扱った映画なんかも枚挙に暇がない程の存在したが、真逆ソレが本当だと心から信じている者は世の中に少数派だっただろう。


 けれどもソレが実際に謎の危険生物【巨大カマキリ】に関しての様々な情報とセットで公開された時、世界中の人間はどんな感情を持ったのだろうか?


 少なくともシンと言う男に関しては、驚きや怒りよりも圧倒的に【興味】と【好奇心】が疼いた。


 彼の大学での専攻は日本史……日本の近代史を特に強く学ぶ為に進学したと言って間違いない。


 兄が持って居たパソコンに入っていた第二次世界大戦を題材とした戦略シュミレーションゲームに深く嵌まり込んだ彼は、そっち方面の歴史を研究する為に大学を選択したのだ。


 けれども【左翼に非ずは歴史家に非ず】と言わんばかりの学内での雰囲気に辟易し、入学初年度から歴史家の道を諦め歴史科の教員資格を取る方向へと舵を切り、何処をどう間違ったのかプロゲーマーなんぞに成っていたのである。


 彼が活躍したワールドガンセッションと言うゲームが第二次世界大戦をモチーフとしていた事も、ゲームに対するモチベーションを維持出来た理由の一つでは有るのだろうが、シン……橘 真と言う人物は基本的に歴史と言う物自体が好きなのだ。


 そうしてNASAが公開した情報の中に出てきた【宇宙カマキリ】の由来……ソレは【古代銀河帝国が残した負の遺産】だと言う話は、歴史にロマンを感じる彼の興味を大きく惹きつける事となったのである。


 宇宙カマキリ対策事業がある程度形に成るまでは様々な紆余曲折は有り、当初は日本だと自衛官や警察官に駐留米軍と言った戦闘職の者達だけが従事する事に成っていたが、宇宙カマキリの圧倒的な繁殖力の前では戦力不足を露呈する羽目に陥ってしまった。


 幾ら睡眠時間を戦力に変える事が出来るし、他国も宇宙カマキリへの対応で時間も人手も取られるとは言え、国防を疎かにする訳には行かずどうしても限られた戦力しか投入する事が出来なかったのだ。


 故に予備肉体(サブボディ)に依る安全性の確保が確認された後は、大々的に戦力となり得る人物を募集するに至り、シンもまたその中に入ったと言う訳である。


 そして彼は金銭を目的として宇宙カマキリ対策事業に参加して居るのでは無い、宇宙人……より正確には地球が含まれる天の川銀河を含めた宙域を版図として持つ【銀河連邦】の持つ宇宙に広がる様々な国家の歴史を紐解く機会を得る為に戦いに身を投じているのだ。


「っと、良し……思ったより混んで無いな。うし目一杯食うぞ!」


 そんな経緯を思い出しながら結構な速度を出して走ったシンの自転車は、餃子の食べ放題をやっている中華料理屋の駐車場へと入って行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ