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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第45話:休みの使い方と自転車乗りの距離感

「3日休みか……どうすっかなぁ」


 ジムでの日課を終えたシンは、何時もの様に有料駐輪場から自転車を引き出しこれからの行動を考えていた。


 基本的にマーセの仕事はシフトの様な物が決められている訳では無く、睡眠を取る際に宇宙カマキリ対策センターでタンクベッドに入るだけである。


 札幌近郊の市区町村まで含めれば間違い無く200万人を超える人口を持つ、札幌圏のマーセは札幌中央警察署の上に増築されたセンターを利用して居るが、人口に対する比率としてマーセは未だ決して多いと言う訳では無く、タンクベッドが全て埋まった事は無い。


 その為、予約と言う様な制度自体はあるもののわざわざソレをしなくても、行けばそのまま泊まれる……と言うのが現状ではある。


 と言うか本来であれば、その地域の対応はその地域の人員でやる事が原則で有り、軍曹やあまなつの様に他の地域からわざわざ遠隔参戦して来ている者が居る時点で、北海道のマーセは足りていないのだ。


 まぁ基本的に幼い頃から【ケンカ駄目ゼッタイ!】と言う様なしつけを受けて育ち、学校教育の中でも【暴力ダメ絶対】と散々に教え込まれる日本人は、ごくごく一部の例外を除いて荒事に向いていない性分に育つ者が多いのだろう。


 義心を抱いてマーセに志願したは良いものの、チュートリアルの際にサブボディで死ぬほどの怪我を負っても死ねなかった時の苦しみを味わい、心が折れてマーセとしての活動を断念する者も数多い。


 一撃で死ねるなら良いのだ、痛いは痛いが一瞬で過ぎ去って新しいサブボディに乗り換えれば、喉元過ぎれば熱さを忘れるでは無いが痛みは即座に過去の物になる。


 けれども即死出来ない程度のダメージを受けた場合に、クラッカーを使って自害する事が出来なければ、誰かにトドメを差して貰うか失血死するまで苦しみ続ける羽目になるのだ。


 コレが【痛い】と言う事に慣れていない今の若者には耐えられない苦痛らしく、高齢者程マーセとして活躍し、若年層が定着しない最大の理由と言っても良いだろう。


 何せ多くの高齢者は身体の何処かに慢性的な疾患を抱え、普段から死ぬ程では無いにせよ、どこかかしら痛いのが当然の事で、サブボディに乗り移る事でその苦しみから開放される喜びの方が大きいのだ。


 シンは今の所そうした疾患の類は抱えては居ないが、長年ロードバイク乗りなんて物をやっていれば、一度やニ度は下手をすれば死んでいた……なんて事故を経験した事の無い者の方が少ないだろう。


 そこまでひどい事故じゃなくても、ロードバイク乗りが普段着ているサイクルジャージと呼ばれる衣類は、可能な限り軽量化を突き詰めた様な代物で万が一にもすっ転んだ時の防御力なんて物は一切無いに等しい。


 流石完全に肌を晒している状態よりはマシでは有るが、全力で突っ走ってるいる状況で自転車から落ちる【落車】と呼ばれる様な状態に成れば、ジャージはズタズタ身体はボロボロになるのは避けられないのだ。


 しかもシンはただ単純にロードバイクを移動手段として使っているだけで無く、高校時代には自転車競技部でロードレースの部門に出場しインターハイまで経験している元アスリートである、大怪我は無くとも小さな怪我は日常茶飯事だった。


 今は身体が鈍らない程度の運動強度を求めてジム通いをして居るが、純粋な筋力は兎も角として持久力と言う点では、一般人のソレを大きく逸脱する位には鍛えられている。


 恐らく同じレベルの運動を帰宅部高校生辺りにやってみろと言っても、先ず間違い無く無理である……ソレぐらいには30代半ばに差し掛かった今でも鍛えて居るのだ。


 鍛えると言う行為は運動に依って筋肉をぶっ壊し、肉体の持つ回復力が同じ程度の運動では壊れない様に超回復を促す事で発展してく物である以上、鍛えられた者と言うのは言い方は悪いが被虐嗜好(マゾヒスト)の気質が無ければ無理だと言えるのかもしれない。


 長々と語ったが要するに痛みに耐える根性があるか、若しくは痛みに慣れて居るかのどちらかが、マーセとして活動していくのには必要不可欠だと言う事だ。


「んー、偶には温泉でも行くかなぁ。洞爺湖辺りまでなら3時間くらいで行けるだろうし、適当に飯食ってから行けば夕飯には間に合うか?」


 洞爺湖はシンにとって幼い頃の思い出が沢山詰まった場所である。


 父親がバブル期に貯めた金で立ち上げた会社は、バブル崩壊後の経済低迷の煽りを酷く受ける様な事も無く順調な経営を続けおり、一年に一度は社員旅行と称して社員とその家族で揃って温泉旅行へ……なんて事が行われていたのだ。


 その際に定宿となっていたのが洞爺湖に有る【宇宙一大浴場】を謳った温泉ホテルで、本当に幼い頃に行った改装前の巨大浴場は、様々な湯船が一つの空間に並ぶ巨大混浴温泉だった。


 とは言え時勢の流れも有ってか改装後には温泉部分は男女別に分かれ、巨大浴場だった空間の大半は巨大プールへと変わってしまったが……。


 当時は未だ幼く異性に対する興味も然程なかったが故に、その環境を純粋にお風呂の遊園地と言う感じで楽しんで居たが、年頃になってから思い返す度に何故もっと……等と不埒な事を考えたものである。


 ちなみにシンの自宅から件のホテルまではおよそ100kmと、普通の人ならば自転車で行くといえば頭がオカシイのか? と言いたくなるような距離が有るのだが……。


【太平洋の海水を日本海に注ぐ】為に日本を縦断すると言う、関東地方のロードバイク乗りならば一度は挑戦すると言う行為に手を染めている為に、その程度の距離は今更躊躇う程の物では無い。


 何せその時は江の島を出発して東松山から藤岡、富岡、横川と進み軽井沢を抜けて長野県を越え、新潟県は直江津まで総走行距離360kmオーバーを走って居るのである。


 その時点で割と頭がオカシイ数字なのだが、峠越えを含めたその距離をシンは流す程度の感覚で走って10時間も掛けずに走破して居るのだ。


 なおブルベと呼ばれるロングライドを主目的とした自転車イベントでは、360kmならば24時間以内が走破の認定時間となっている事を考えると、シンのペースは十分以上にオカシイ人の数字である。


 まぁブルベの場合は女性のロードバイク乗りも普通に参加するイベントなので、ボダ―ラインを男子と同じにする事自体が間違いでは有るが……ソレでもやっぱり変人の類だろう。


 ついでに言うと2020東京五輪ロードレース部門の金メダリストが234kmを6:05:26と言うタイムで走っている事を鑑みるに、360kmを10時間切りと言うのは割とヤバい数字なのではなかろうか?


 とは言え自転車と言う乗り物はアップダウンの様な地形だけで無く、風向きや風の強さ等の天候に大きく影響を受ける乗り物なので、状況次第で幾らでもタイムが変わる物でも有る為に一概にこのタイムはプロじゃなければ無理! と言う物でも無い。


 本当に同じ道を走ったとしても向かい風の日と追い風の日では倍ちかく到達時間が変わる事も有るのだ。


「さて……そうと決まったら先ずは宿を取らないとな、当日予約出来るかなぁ?」


 空きがあれば可能性は有るだろうが、満室ならば無理だろう……そう思って携帯電話(スマホ)で件のホテルの電話番号を調べ、そのまま掛けて見る。


「あ、ハイ、空室ありますか。ハイ、一人です、えっと……ええ大丈夫です。ハイ、ハイ、分かりました、ハイ有難うございます」


 残念ながら電話の向こうからの声は聞き取る事が出来なかったが、シンの応対から察するに無事に一部屋取る事が出来たのだろう。


「うし、んじゃ一旦帰って着替えを持って行くとするか……いや、帰る前に昼飯だな、朝は蕎麦食ったから昼はガッツリ……麺類被りだけども野菜もたっぷり取れるラーメンだな」


 札幌と言う都市は【札幌ラーメン】と言う言葉が全国区になるくらいには、札幌市内全域がラーメン激戦区と言える程に多くのラーメン屋が存在してる。


 その中でもシンが住むマンションの有る平岸と言う地域には、道路を挟んだ両側に【ニンニクヤサイアブラカラメ】やら【マシマシ】やらの呪文が通用する店が存在している場所があるのだ。


 両方を食べ比べた結果、どちらも本家から暖簾分けを受けた【札幌店】とはまた違う、インスパイア系としてそれぞれの特色を出した味付けで甲乙付け難い……と言う結論に至り、どちらを贔屓にする訳でも無くその日の気分で店を選ぶくらいには双方を気に入っている。


 そんな訳で、今日の昼飯は野菜たっぷりのラーメンをニンニクマシで食べる事に決め、自転車を走らせるのだった。

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