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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第44話:日本の政と札幌の交通事情

『おはようございます、お疲れさまでした。取り敢えず今日から3日程は機材のメンテナンスなんかも有って出撃は無いそうなので、橘さんもゆっくりと休んで下さいね』


 タンクベッドの中で目を覚ますと、ガラス張りの蓋が開くよりも早くそんな声が、耳元のスピーカーから聞こえて来た。


「随分と急な話だな、何かトラブルでもあったのかい?」


 圧縮空気が抜ける様な音と共に蓋が開くのを待つ間に、シンはマイク越しにオペレーターを勤める女性にそう問いかける。


『いえ、そうした話では無いそうです。私も未だ詳しくは聞いて無いんですが、今日の戦と……駆除作業で一区切り付く筈だから、様子見のついでにメンテナンスを行うって事らしいです』


 戦闘と言う言葉を言い掛けたにも拘らずわざわざ言い直したのは、平和ボケした日本という国に置いて、戦闘は何が何でも避けなければ成らない物で有り、マーセが行っているのは戦いではなく飽く迄も害虫の駆除作業だと言う建前を守る為だろう。


 正直な話、民間人であるシンとしてはその辺の区別は割とどうでも良いとは思うのだが、警察官と言う職につく者としてそこを履き違えた様な仕事をすると後から怒られたりするのかもしれない。


 いや……ただ上司に叱られる程度で済めば御の字で、下手をすると何等かの懲戒処分なんて話になっても不思議は無い、ソレくらいには日本と言う国の公務員は法律で雁字搦めなのだ。


 世間からはクソ官僚等と揶揄される事の多い外務省や財務省の職員達だって、法に則って雁字搦めの中で最善を尽くしているのだと言う話を何処かで聞いた覚えがある。


 つまりそうしたクソ省庁なんて言われるのはそこに勤めている者達が悪いのではなく、彼等を縛り動かしている法律の方に問題が有る訳で……つまりは政治家が悪いと言う事になる訳だ。


 だからと言って政治家をただただ批判しても全く意味は無い、日本は民主主義国家で有り国民主権の国家なのだから、政治の問題は全て国民の責任だと言える。


 けれども日本と言う国は『政治と宗教と野球の話はしてはいけない』なんて言葉が出る程に、政治に関しての議論を広く一般で行うと言う文化が育って来なかった。


「……結局、(まつりごと)御上(おかみ)の物、か」


 オペレーターに話しかける訳で無く、シンの口から思わずそんな言葉が突いて出る。


 大学時代に近現代史を学んだ事のある彼の見解として、日本は広く一般大衆が民主化の為に動いたのでは無く、武士……つまりは特権階級が率先して『進んだ欧米諸国の制度を取り入れる』と動いた結果で得た参政権で有る事が影響して居るのだと考えていた。


 無論、大正デモクラシーや学生運動等など……歴史の中では数え切れない程多くの政治運動の機運は有ったが、その多くが一般大衆の心に響いた訳では無くごくごく一部の『自称インテリ』の間で流行ったに過ぎなかった様にも思う。


 天下泰平と呼ばれた凡そ300年に渡る江戸幕府の統治は、大多数の民衆に『御上が決めた事なのだから正しいのだろう』と言う価値観を根深く植え付けたのでは無かろうか?


 そして明治維新は確かに日本と言う国を幕府主導の封建社会から、政府主導の民主政権への移行を成し遂げた様にも見えるが、ソレを為した者達は一般大衆では無く外様と呼ばれていた幕府と距離の有った大名達とその手の物達だった。


 結果、新政府はソレまでの建前上のトップに過ぎなかった天皇陛下を実際の頂点に据えた物の、要職の殆どは外様大名とその家臣たちが占め、そうではなかった者達も華族として貴族の地位を得て貴族院を通して政治に参加すると言う形が出来上がる。


 合わせて衆議院が設立され、広く民間からも政治に参加する事の出来る制度自体は当時から存在していたが、学の無い一般庶民が立候補した所で誰に支持される訳も無く、当初は一定の納税額が無ければ投票すら出来ないと言う物だった。


 後に選挙権被選挙権共に納税額の縛りは撤廃されるものの、長い事自分には関係の無い事……と言う時代が続けば選挙に関わろうと言う意識は早々簡単には産まれない。


 ソレでも敗戦を機に貴族院を撤廃し参議院を創設して、大きく創り変えられた後の選挙では80%近い投票率を記録して居た選挙も有るので、その頃は一般大衆も相応に選挙や政治に関して興味を抱いて居たのだろう。


 まぁ……その後の政治的な動きや民衆の政治離れを深堀りし始めると何時まで経っても朝飯にありつけないとでも考えたのか、シンは軽く頭を振って意識を切り替えると何時も通りまずは一旦着替える為にロッカールームへと向かうのだった。




「さて……今日は何を食おう、麺類……蕎麦……有りだな。となるとテレビ塔だな!」


 札幌中央警察署を出て先ずは腹ごしらえ……といつものルーティンになっている行動を取る為に、歩き出したシンは今日は蕎麦の気分だ、と考えお気に入りの店が有る大通公園の方へと歩き出す。


 目的の店は札幌のランドマークタワーであるテレビ塔の真下、さっぽろ地下街直結の場所に有る蕎麦屋で、凄い美味い名店……と言う訳では無いが値段に対してボリューミーで満足感の高い食事が楽しめると言うタイプの店だ。


 ちなみに蕎麦は店名には明記されて居ない物の、パッと見た感じと食べた時の風味から察するに恐らくは更科そばと呼ばれるタイプの蕎麦だと思われる。


 今でこそ大通り公園周辺を含めたエリアは駐輪禁止区域として放置自転車の厳しい取り締まりが行われる様になったが、シンが未だ学生だった頃には大通り公園の木陰なんかは駐輪場じゃ無くても沢山の自転車が止められていた物だ。


 流石にバカみたいな値段のするロードバイクをそうした場所へと無造作に放置する事は憚られた為に、サークル仲間と市街地の店で食事を取るときには札幌市役所の駐輪場でチェーンロックをガチガチに固めて駐輪する……と言う様な対応をして居た思い出がある。


 あの当時の札幌市街地は路地を覗けば放置自転車が溢れ、大きな通りに面した歩道も半分くらいは放置自転車で道を塞がれている……と言う様な一種の無法地帯だった。


 駐輪禁止と書かれた看板にチェーンを繋いで駐輪するアホが山程居たと言うのだから、札幌は田舎である……と言われても何ら違和感を抱かなかった理由の一つだろう。


 まぁあの違法駐輪が常態化してたのには、札幌市街地の公的な駐輪設備が圧倒的に足りなかったと言う問題点が有ったと言うも大きな原因の一つでは有るが……。


 ぶっちゃけ一年の三分の一近くを雪に閉ざされる札幌と言う街で、大規模な駐輪設備を維持するのは、割と無駄と言えなくも無い気もするのだが……中には真冬の雪道を専用車両なら兎も角、一般的なシティサイクルで走るバカも居るのだから需要は有るのだろう。


 なにせ札幌の公共交通機関は高い、バスもそこその値段はするが地下鉄は本当に高い。


 ちょっと隣の駅まで……で220円、最も遠い区間を乗ったとしたら380円が片道が片道料金だ。


 シンの自宅最寄り駅から大通り駅まではロードバイクでは無い普通のママチャリで走っても片道20分かからない距離だが、地下鉄を使うと往復で500円が財布から消えて行く。


 バスを使えばもう少し値段は安く済むが、その分雪の季節には寒空の下で路面状況次第でどれだけ遅れるかもわからないソレを待ち続ける羽目になる。


 地下鉄では無くJR線も走っては居るが、シンの生活圏及び目的地として雪が振っている季節にそちらを目指した事は無いので、JRの使い勝手がどうかを主観的に判断する材料は無いのでココではそれは置いておく。


 兎にも角にも思い出有る店の一つが今でも元気に営業して居ると言うのがシンには堪らなく嬉しかった。


 何せ大学時代にサークルメンバーと一緒に回った店の多くが、新型コロナの波に呑まれて閉店したり営業形態を変えたりして居り、あの頃のままの味を楽しめる店は極めて貴重なのである。


 テレビ塔の根本に有る階段を下った場所に有るその店に着いたシンは、券売機に現金をいれると冷やし納豆蕎麦のボタンを押したのだった。

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