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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第43話:酒と戦場と選抜試験

 喉の奥に良く冷えた炭酸混じりの液体が流れ込んでいく、キツイ仕事を終えた後のソレは格別で、アルコール度数の高い酒を【命の水】と称するのも頷ける様な美味さである。


「今夜の編成を考えたファッキン提督にかんぱーい!」


「剣豪連中が居れば俺達ゃあそこまで痛い思いをしなくても済んだらしいじゃねぇの!」


「マジで無いわ―、自分の趣味で編成組んで被害広げるとかソレでも佐官かよ、士官学校からやり直せってんだ!」


 普段自分からアルコール飲料を飲もうとは思わないシンだったが、今夜は久しぶりに泥酔するまで飲みたい……そう思える位には、あの後もハードな仕事をしなければならなかったのだ。


 なにせ人間と言う生き物は、地球上に……銀河連邦共和国全体を見渡したとしても、ありとあらゆる動物と比して同じサイズで戦ったならば、肉弾戦に置いてほぼ100%の確率で負ける程に脆弱な生き物である。


 無論中には武芸を学び無手で得物を持った相手を制する技術を身に着けた者も居ない訳では無いが、そうした者達だって宇宙カマキリの様な人外を相手取る技術なんて持ち合わせている訳が無い。


 それでも人間が住む事の出来る環境下に有る惑星ならば、人間が覇権生物となるのは知恵と言う大きな武器が有るからだ。


 今回だって対宇宙カマキリ用に開発された訳では無いが、実際に宇宙カマキリ対策に使用されている単分子(ブレード)を使って戦っている剣豪と呼ばれるタイプのマーセが一人でも居れば、あの干物メスカマキリはもっと容易に倒せたのである。


 更に言うならば両の腕に有るカマを封じたからと言って、干物メスカマキリは完全に無力化出来た状態にはならなかった。


 何せヒグマに比べりゃ小さいにせよ、ツキノワグマと比べたら同等程度の大きさにまで育ち、更に太く固く肥大化したその身体は重さだけでも立派な凶器で有り、人海戦術に依る肉弾戦で何人が踏み潰されたか数えるのも面倒になる程だったのだ。


 シンも脚を掴み圧し折ろうと試みた者の内の一人で、高校時代に授業で習った柔道をイメージして関節技を仕掛けて見たが、圧倒的なパワーの前では極めるよりも先に吹き飛ばされ踏み殺された。


 その後に再出撃(リポップ)してからは、一人では無理だと判断し同様に考えた者達と協力して、ラグビーの様なスクラムを組んで相対したりもしてみたが、やっぱり踏み潰される結果を晒してしまう。


 とは言え宇宙カマキリも生物である事自体に変わりは無く、培養型生体サブボディを使って無限に湧いてくるゾンビアタックの前には、流石に息切れもして来るのは当然の事だ。


 結果として最後の最後は複数人で一気に掴みかかって、関節と言う関節を無理やりへし折った形になったが、ソレが出来たのも奴が十分に疲れ果てた結果と言えるだろう。


 そうして散々な苦労をした上で数えるのも馬鹿らしく成る程の残機を散らした後、無事に大規模な営巣地を制圧した彼等を待っていたのは、新型宇宙カマキリ遭遇の報告に対してソレが既知の存在だったと言う事実だった。


 アレが世界的に見て初めて遭遇するタイプの個体だったのであれば、自分達の苦労も当然の事だし、痛い思いをした上で撃破したのは十分な成果だと誇れただろう。


 けれども既に同じ日本国内で同タイプの個体が、剣豪系のマーセに依って割と簡単に討ち取られていたと言う事実は、今回の戦場に剣豪を配置しなかった中隊長へと悪意と憎悪に置き換わるには十分な物と言えた。


 今回の中隊を指揮して居たのは比較的若い少佐で、後は参謀本部への配属も有り得ると言われて居た英才だと言う。


 しかし実際蓋を開けて見ればこのザマとなったのは、彼が教科書に準じた作戦を立てソレを実行する分には優秀……と言うタイプだったからだ。


 そんな彼は銃器に準じた扱いが出来る必殺の武器である【ブラスター】が有るのに、危険を承知でクロスレンジまで近づかなければ攻撃もままならない単分子刀は、懐古趣味の変人が使う物で実戦的では無い……と剣豪連中を完全に切り捨てて居たのである。


 普段の小隊規模の配置ならば完全にでは無いが、ソレでもランダムに近い配属がなされる為に彼等を使わざるを得ないのだが、中隊規模の作戦とも成ると中隊長は事前にある程度参加者を選別する事が出来る様になっていたのが今回の災いを招いたと言えるだろう。


 実用的ではない単分子刀(おもちゃ)を戦場に持ち込むバカを真っ先に排除したら、残ったのは良い年をしてゲームなんかにうつつの抜かす間抜けだの、学生の分際で戦場へ出てくるアホだのたったが、おもちゃを振り回して喜ぶバカよりマシ……と言う編成だった。


 だが残念ながら結果はご覧の通りである、マーセとしての活動が軍隊での進退に直接関わる様な事は無いだろうが、この結果を何等かの形で見る事になった上司や上層部がどの様な判断を下すかは全く別の話で有る。


 無論、この失敗を糧に反省し躍進すると言う可能性だって無い訳では無いのだ。


 ただ……この戦場に関わった下士官以下の人員は、少なくとも暫くの間は彼の下で使われる事に不安や不満を抱く事になるのは避けられないだろう。


「ぷはぁ……本当に酷い戦場だった。俺も素手での戦闘もそこそこ訓練は積んでたつもりだったが全く役に経たなかったぜ、まぁ関節の構造も違うしパワーも違うからなぁ。とは言えアレを相手にサブミッション決めたレスラーが居るってんだからすげーよな」


 コーラのソレよりも独特な薬草臭のする酒を一気に煽った軍曹が、コーラサワーの様な物を飲んでいたシンの首に腕を回しながらそんな言葉を口にする。


 どうやらオレンジ軍曹としては結果良ければ全て良しと言う感覚の様で、死なない戦場なんだからどんだけ被害を出しても結果としてクリア出来れば良いと言う考えらしい。


「お二人とも美味しそうに飲んでますねぇ。なんでサブボディでもお酒とタバコは二十歳(はたち)からなんでしょう? 成長期の肉体への影響を考慮しての法律ですよね? この身体なら問題ないじゃないですか」


 そんな二人に対して濃い目の柑橘系と思わしきソフトドリンクを手にしたあまなつがそんな文句を言う。


 確かにサブボディで飲酒した所で本来の身体には一切影響は無い、そうでなければ医者に酒を止められているなんて言う老人達が酒盛りなんぞ出来る訳が無いのだ。


「……こっちで飲むのに慣れたら元の身体でも飲むのに抵抗がなくなっちまうだろうが。ここに来てる時点で18歳以上なのは確定なんだ長くてもあと2年だろ? ソレくらいは我慢しろ」


 一応中学及び高校で歴史の教師を勤める事が出来る免許を持っているシンは、実際に教職に就いた事が有る訳でも無いのに学校の先生の様な言葉を口にする。


「やー、ソレがですね。自分はリアルボディでは飲めないっぽいんですよねぇ、持病が有るせいで自衛隊の選別にも落ちてますし、その病気とアルコールは噛み合わせ悪いんですよ」


 曰くあまなつは生まれつき極端に血圧が低い【低血圧症】を患っているそうで、アルコールの類は本気で命に関わるので飲んではいけない……と医者からも口を酸っぱくして言われているらしい。


「幼い頃にその診断を受けてから改善する為に色々努力はしたんですよ? 結構子どもの頃から自衛官になって戦車に乗るのが夢だったので。でも駄目だったみたいなんですよねぇ」


 一昔前には自衛隊への入隊希望者や自衛官の子どもと言うと、一部の教師などから【人殺し予備軍】等と差別的な扱いを受ける事も有ったが、少なくともあまなつの周りではそう言う事はなかった様で憧れを持ち続ける事が出来た様である。


 しかし現実は残酷な物であまなつは試験を受ける前に、改善して居ないかを確認する為、病院で健康診断を受けたのだが、結果は残念ながら改善とは行かず試験を受けても絶対落ちると言う状態だったのだ。


「相応の努力はして来たつもりなので学力も体力にも自信は有ったんですけどねぇ。自覚症状みたいな物は全く無いので試験自体は受けたんですけど結局落ちたんですよねぇ」


 曰く筆記試験の結果は間違い無く合格基準を越え1次試験は無事突破し、2次試験にはコマを進める事が出来たと言う。


 その上で口述試験でもトンチンカンな事を言った覚えは無く、手応えは十分だったらしい。


 問題が有るとすればやはり身体検査の際に低血圧症としっかり記載した事だと言う。


「隠して後からバレた時の方がヤバいですし、募集要項にもきっちり慢性疾患の項目に低血圧症は記載ありますからねぇ……まぁその代わりこっちでドンパチ出来るので、今に不満が有る訳じゃぁ無いですけどね!」


 そう言うあまなつの表情はしっかりと笑顔で有り、マーセと言う仕事が自衛官のソレに代わる物として言葉どおり満喫出来ている様である。


「……20歳を過ぎたら教えろよ。こっちの身体でなら飲ませてやるし初めての酒は俺が奢ってやるよ」


「あ、ずっけー! んじゃそんときのツマミは俺が奢ってやるからな。俺がお前等二人を含めて上手く使ってやるから地球上からクソムシ共を駆逐するまで逃げるんじゃねぇぞ」


 あまなつの境遇を知った二人は、様々な感情を胸の奥に押し込めたままで笑ってそんな言葉を投げかけるのだった。

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