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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第42話:ブラスターの特性と生命の多様性

「クソ! 当たらねぇ!」


「兎に角撃て! 数撃ちゃ当たる!」


「無理に狙おうと思うな弾幕を張れ!」


 狙う場所を定めて一斉射撃を行ったにも拘らず、彼等の撃った光線……正確には粒子状の薬剤の塊だが……はそうそう上手く干物メスカマキリのカマに命中しなかった。


 巨大な身体に比例してカマ自体の刃渡りは他の宇宙カマキリに比べると間違い無く大きいのだが、全身の面積から見れば極々一部に過ぎない上に動き回る末端部なのだから、ソレを狙って撃つのは当然難しい。


 漫画やアニメなんかで銃を使う者同士が戦う際に、相手を手を撃って持っている銃を弾き飛ばす……等という描写が良く有るが、アレは創作の中だからこそ出来る芸当で有り、現実にソレが出来るのは極々一握りの【拳銃の達人】とでも言うべき者だけだろう。


 なんせ銃器に限らず飛び道具と言うモノは、振るった通りの起動で攻撃出来る近接武器とは違い、ほんの僅かなズレが遠くへと離れる程の大きな誤差と成る上に、場所に依っては風や湿度等の条件で更に目測とズレる事になるのだ。


 ブラスターは銃弾を飛ばす様な武器では無いが、粒子を纏めて噴射すると言う性質上、遠くへと飛ばす程に粒子が散乱して効果が薄くなる上に、風が強ければ散ってしまうのも速くなる為、通常の銃器に比べれば狙った場所に当たり易くは有る。


 けれども静止目標に当てるのと動体目標に当てるのでは難易度が違いすぎるし、何よりも銃を扱う者の多くは被弾面積の広い胴体か、確実に相手をストッピング出来る頭部を狙う様に訓練をする物なのだ。


 弾丸が6発しか撃てないのが当たり前だったリボルバーの頃には、確実に仕留める為に頭に二発胴体に二発撃ち、それでもダメだった時の為に二発は残して置くと言うコロラド撃ち(ショット)呼ばれるやり方がセオリーだった時代も有ると聞く。


 ……と言うか、銃器の保持が極々一部の例外を除いて禁止されている日本と言う国が極めて特殊な環境で有って、誰でも銃を持っているのが当たり前と言う国では、犯罪者は銃器を持っている可能性が有るとして現場での射殺が認められている事が多い。


 警察官が発砲したからと言って、ソレが大体的に全国ニュースになったり、よほど酷い状況でもなければその結果被疑者が射殺された事に対して司法の判断にまで行くと言う、日本の事情の方が極めて特殊なのだ。


 何せ暴走車両に対して上司の指示の元に発砲し、結果として射殺してしまった……と言う様な案件ですら、わざわざ裁判沙汰にして何年もの時間を掛けて裁判を行い、最終的には無罪となったなんて話すら有ると言う。


 裁判沙汰が日常の一部に有る様な国ならば、ソレもまぁまかり通るのだろうが、日本と言う国は司法に関する感覚も特殊な国家であり国民性を持っている。


 逮捕=犯罪者では無い事を多くの国民が頭では理解して居る筈なのに、感情の部分で理解しないのだ。


 とは言えソレも報道機関(マスコミ)の事実よりもセンセーショナルを……と言う姿勢にも問題が有ると言えるだろう。


 分かりやすいのは有名人なんかが何かの理由で逮捕された時には大々的に報道するが、不起訴になったり裁判の結果無罪判決が出た場合には僅かな時間や紙面しか取る事は無く、当人の名誉を回復しようと言う気概が全く無いのだ。


 ……話が逸れたが、兎にも角にも被弾面積の大きな胴体では無く、手や足と言った末端部分を狙って撃つと言うのは、それ相応に銃に慣れた者でも難しい高等技術と言える。


 今回もブラスターから放たれる光線が干物メスカマキリに当たっていない訳では無い、ただ致命的箇所(クリティカルポイント)である両手の先のカマ部分に対してキレイに命中したモノが無いと言うだけだ。


 近い位置として肩に当たる部位やカマの峰とでも呼ぶべき部位には何発か当たっては居るのだが、そうした部分も苔の様なモノが多いって居り粒子が超硬キチン質にまで届いて居ないのである。


「あんだけ撃ってんのに通らねぇって……もしかして本気で刃の部分以外にはダメージ通らないとかクソ面倒くさい仕様か?」


 この世界はゲームでは無いので仕様とかそう言うのは無い筈では有るが、下手なゲームよりも攻略させる気が無いとしか思えないその状況に、シンは思わずそんな言葉で毒を吐く。


 故にシンは盲滅法に連射をするのを止め、息を止める事で少しでも身体のブレを抑え混み、自分達が居る方へと向かってくるカマキリの弱点となるであろうカマの刃に対し、しっかりと狙いを定めてから引き金を引いた。


 ブラスターは実弾を放つ銃器では無く薬剤を噴射するスプレーの様な物である……とは今までも何度か繰り返して来たが、スプレーだって噴射する勢いが強ければ当然反動だって強くなる。


 その為、ブラスターは実弾を放つ程では無いが軽いマズルジャンプは有る、感覚的にはゲームセンターに有る大型筐体で銃型コントローラーを使う様なシューティングゲームのリコイル機能に近い感じだろう。


 実包を撃つ事に慣れた本業の者達からは評判の良くない機能では有るが、ゲームでしか銃器に触れる事の無い日本人にとってはリアルを感じられる程度の衝撃だ。


 それ故にガンシューティングと呼ばれるその類のゲームを学生時代から割と遊んで来たシンの手には馴染む感覚である。


 しっかりと狙って撃った1発目は残念ながら峰を覆う苔に弾かれたが、2発目でカマの一部に薬剤がかかったらしくその部分が赤熱化し、3発目で左のカマが真っ赤になって溶け落ちた。


「ちぃ! 軍曹! カマの部分にゃ身が詰まってないらしい! 両腕を潰したら肉弾戦確定だ!」


 宇宙カマキリの頭部や胸部をブラスターで撃ち抜くと爆発するのは、内部に有る筋肉に含まれる水分が一気に蒸発する事で起こる物である為、甲殻部分の中に身が詰まっていないカマは撃ち抜いても爆発しないらしい。


 それでも片腕を失った事で身体のバランスが崩れたらしく、まっすぐにこちらへと結構な速さで進んでいた干物メスカマキリが体勢を崩した。


「今だ! 動きが鈍った! 撃て撃て撃てぇ!」


 ソレをチャンスと見た軍曹は、自身でもブラスターの薬剤が尽きるまで連続で引き金を引き続ける。


 スプレーの様な物ならば引き金を引きっぱなしにすれば、薬剤を放出し続ける事が出来る様な気もするのだが、残念ながらブラスターは一回引き金を引くごとに一定量の薬剤を放出する構造になっている為、薙ぎ払いレーザーの様な使い方は出来ない様になっていた。


 ちなみに宇宙カマキリに対して過剰にブラスター粒子を打ち込んだとしても、ある程度反応が進んだ時点で薬剤が効果を示すキチン質は分解されてしまった後に成る為、必要以上に連射したからと言って危険が有る訳では無い。


 では何故薙ぎ払いの様な使い方が出来ない様になっているのかと言えば、ブラスター粒子が反応するのは宇宙カマキリの甲殻に含まれる超硬キチン質だけで無く、地球上に……いや生命が生存する殆どの惑星に生息する他の甲殻類のキチン質にも反応するからだ。


 生命の誕生と生存に進化と言う物は多様性に富んでいる様に見えて、実のところ似た様な環境でなければ生息し得ない物で、生物が生きられる環境下ならば細かな差はあれども、概ね似た様な種が反映する物なのである。


 それ故に古代宇宙帝国から現存する様々な星系国家や、銀河連邦共和国の様な複数の星系国家が纏まった連合国でも、覇権を取って生きているのは【人間】と呼称して間違いない種族なのだ。


 なお流石に遺伝子構造自体が完全に同じと言う訳では無い為、古代宇宙帝国にルーツを持たない独立系の星系国家出身者同士のカップルでは、ナチュラルな状態で子どもを作る事は難しく、必要に応じて遺伝子改造治療なんかを行っていたりする。


 とは言えその差も【人間】に区分される系統の種族同士ならば、トラとライオン程度の差で有り第一世代は普通に混血の子どもを作る事は不可能では無いケースが多い。


 ただそのパターンだと子どもの生殖能力に異常が出る為、他星系同士で婚姻する際や婚姻に至らないにせよパートナーとなる場合には、診察と治療を受ける事が銀河連邦法で義務付けられているのだ。


 と……話がそれたがブラスター粒子は地球上に生息する甲殻類にも効果がある為に、拡散放出したり薙ぎ払いを出来なくしたりしてあると言う訳である。


「よし! 両腕が潰れました! あまなつ、吶喊します!」


 バランスを崩し動きが止まってしまえば、其処はプロの射撃手達が集まる場、残った右腕のカマも然程の時間も要さず溶け落ちて行く。


 ソレを確認したあまなつは、誰よりも早くそう宣言すると肉弾戦に突入するのだった。

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