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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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40/50

第40話:超大型個体と金銭価値と

「ありゃ……確かにスゲェな……ただデカいだけじゃねぇ、完全に戦闘に特化して進化したって感じだな」


 仮称:干物メスカマキリに見つからない様に、ある程度大きく距離を取った状態で、俺達はチップに搭載された望遠機能を使って奴の姿を確認した。


 軍曹の言葉の通り、ソレはただ単純に宇宙カマキリをそのまま成長させスケールアップさせたモノと言うよりは、繁殖能力を捨て去ることでより戦闘に身体を創り変えたとすら思わせる部分が見て取れる。


 一番分りやすいのはその身体付きの変化だろう、宇宙カマキリは地球の同系統と呼べるだろう昆虫種の大半がそうである様に比較的スマートな体型をして居り、獲物が目の前に来たならば一瞬でソレを捉えられる様に速さと隠密性に特化した身体なのだ。


 けれども視線の先にいるソレは、通常個体を格闘技の中でも比較的速さを重視するだろうボクサーそれもアウトボクシングに特化した者だとするならば、そこに居るのは相撲取りか若しくはプロレスラーのどちらかだろう……と言う太ましい体型をしていた。


 脊椎動物の様に体内に骨格を持ち外部に肉を付ける生き物ならば、成長に必要な分以上の栄養素を取り続ければ、ソレは万が一の飢餓に備えて脂肪と言う形で備蓄される。


 対して外身体の外側に骨格を持つ動物はどうなのかと言えば、多くの場合は成長期を過ぎたならば後は繁殖するだけなので、得た栄養の多くは生殖細胞を増やす方向で使われる……と、中学か高校の生物の授業では習った覚えがあった。


 自然界では無く飼育環境下に置いては、過剰に栄養を接種させてみた……と言う様な実験の類が行われた事も有るのだが、その結果は悲惨の一言で体内に格納しきれなかった脂肪が外骨格からはみ出し、通常個体と同じ様な行動は出来なくなったと言うモノだった筈だ。


 とは言え昆虫と一口に言っても成長の仕方は複数有り、その中でも大部分のモノは完全変態と不完全変態に別けられる。


 完全変態と言うのはカブトムシや蝶々なんかが分りやすい例だが、イモムシ姿の幼虫期には硬い甲殻を持たずモリモリと食事をし続けて肥え太る事だけを至上命題とし、栄養を蓄える時期を終えたならばサナギへと変化しその中で一旦身体をドロドロに溶かす。


 その後サナギを割って出てくるのは幼虫時代の姿は影も形もない成虫の姿である。


 対して不完全変態の方はと言えば、卵から孵った時点で既に成虫をサイズダウンしただけの姿形をして居り、栄養を得て成長していく度に内側から成長した新しい外骨格で、古い外骨格を打ち破り脱ぎ捨てる……と言う事を繰り返し成長していく。


 宇宙カマキリも地球に現存するカマキリも成長の仕方はこちらの不完全変態で、脱皮を繰り返して大きくなって行くのだが、通常は脱皮をしても大きく成るだけで劇的に姿形が変わるなんて事は無い。


 ……にも拘らず、眼前に居るその個体が明らかに他の個体とサイズ以外の部分でも大きく差が出来ているのには、当然そうなるだろう理由が有る筈だ。


「もしかして、アレかもしれませんね。繁殖という選択肢を捨てる変わりに群れを守る為に戦闘特化の姿に進化するポk「ストップ! それ以上は言っては行けない!」」


 シンのゲームの好みは歴史シミュレーションやFPSに偏っては居たが、RPGロールプレイングゲームの類を全くやらない訳では無い。


 特にシンは自分自身でも自覚し自重する様にして居るのだが、本質的には【コレクター】の気質が有る。


 その為一作目時点で151匹のモンスターをゲットするシリーズも相応に遊んで居たのだ。


 ……性別と言うシステムが未だ存在していなかった第一作目の時点で、既に♀と言う特徴を持っていた一種のモンスターは、成長し進化する事で【卵】が産まれなく成ると言う特徴が有った。


 設定として【子どもを守るために繁殖能力を犠牲にし戦う力を得た】と言う事になっている為に、多くのモンスターが卵をプレイヤーの手で産まされる事に成るのに対して、彼女達からは卵を得ることが出来ないと言う風になっているのである。


 どうやらあまなつはそのゲームを深く遊んでいた口では無い様で、恐らくはネットか何かでの聞きかじりの知識なのだろう、本来の設定からは少しズレた事を言っていた。


 とは言え彼等の会話や行動は全てチップを通してセブンスムーンに有るサーバーに記録され、必要に応じて開示されたり場合に依っては公開されたりする事も有るのだ。


 それ故にスポンサー以外の登録商標なんかを軽々しく口にしては行けない……と、そんな元プロゲーマーとして身についてしまった悲しいクセが、シンの口からあまなつの言葉を遮る様な真似をさせてしまっていた。


 なお実際にそうした公開が行われる場合には、商標や版権と言ったモノに問題が有る場合には自主規制音……ピーと言う音やズドンやバキュンと言った効果音などが入る事に成るのでシンの行動は割と無駄な心配だったりする。


 と言うかそもそも彼等がチップを付けて行った行動は全て録画録音されては居るが、リアルタイムでの中継なんて事は一切されて居ないので、セブンスムーン側であれば幾らでも編集や加工は可能なのだ。


 まぁ生の記録情報は行政上の機密として扱われる上に、保存義務もセブンスムーンの運行法律上にしっかりと有るので、勝手な改変や加工は総督と呼ばれるコロニー群のトップですら明るみに出れば即座に更迭される程の重罪である。


 罰金に関しては裁判の結果で左右される為、一概に幾らと断言する事は出来ないが最低でも1兆マニゴルドは下らないだろう。


 今現在のレートでは1マニゴルド=1ポイント=1ドル=120円前後なので、日本円ニ換算すれば120兆円と言う国家予算級の罰金を支払わなければ成らないのだから、よほどのバカかそれ相応の事情でも無い限り手を出す事の無い犯罪である。


 銀河連邦共和国に置いてはデータの価値と言うのは、地球人が考えているよりもよほど重たいモノなのだ。


 ちなみに総督の年収は約20万マニゴルドで日本円換算すると2400万円と、公務員の中ではかなり貰っている方とと言う事に成るだろうが、大手企業のトップならば億を超える報酬額も珍しいと言う程では無い事から、公務員はやはり割に合わないと言えるだろう。


 かく言う私も……いや、この情報は未だシンと言う人物が触れる事の出来ないモノなので、今ここで語るべきでは無いか……。


「兎に角、アレは単純に大きく育ったてのとは完全に別物っすね。恐らくは宇宙カマキリを開発した古代銀河帝国の科学者達は、ああ言う干物……と言うよりは女子プロレスラー個体とでも言うべきモノに成長する事を想定して造ったんでしょうよ」


 古代銀河帝国と言う言葉をシンが発した瞬間、分隊長を含めた分隊員の大半が【コイツは何を言っているんだ?】と言いたげな表情を浮かべたが、銀河連邦共和国の存在と共に宇宙カマキリの由来として大々的に報道された為に知らない情報では無い筈である。


 ただ……地球人達の中で、地球の上空にセブンスムーンと言う実物のコロニーを浮かべられた事で銀河連邦の存在自体は信じても、その言い分を100%まるっと鵜呑みにした者は割と少数派だった様だ。


 中にはシンの様に電子書籍や映像アーカイブなんかを幾つも買って、色々と確認した上で矛盾点なんかが有る事も含めて、《《自分で調べたからこそ》》納得して居る者も決して少なくない人数が存在している。


 ここで大事に成るのはそれ相応の少なくない人数が居たとしても、分母が地球人全体おおよそ80億人の中で見れば割合としては少数派になってしまうと言う事だ。


 地球と言う惑星の中で見れば日本という国家は極めて高度な文明を持つ国で、地球上を見渡した場合には識字率がほぼ100%の国の方が圧倒的に少ないのである。


 ……文字が読めると言う事と、その意味をしっかり理解し判断する事が出来ると言うのはまた別の能力では有るが、そもそもとして地球人の圧倒的多数は文字を読むことすら覚束ないと言うのだから、惑星全体で見れば地球が未開惑星なのも仕方ない事なのだろう。


「でも、直接見た事で突破口に成りそうな部分は見つけましたよ。奴の身体は確かに苔かなんかで覆われているが……カマだけは、得物であるその部分だけは綺麗なままだ」


 やはりプロゲーマーと言う人種は侮れない……シンは僅かな時間観察しただけで、そんな事をあっさりと口にしたのだった。

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