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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第37話:宇宙兵器と生命倫理

 小隊規模の動員が行われた事で、前回の様な無理やりでも短期間に制圧しなければならない場所なのか……と、内心ビビって居たシンだったが今回は先日の札幌市内の案件とは状況が違っていた。


 兎にも角にも宇宙カマキリの数が尋常では無く多い、もっと行ってしまえば比較的狭い場所にごっそりと生息して居る状況で、変な言い方だがカマキリ(こう)密度とでも言う様な物が異様に高いのである。


 宇宙カマキリが生息する場所はいつだって静かだ。


 ソレは奴らが地球に在来する普通のカマキリの幼虫サイズで生まれてから、ヒグマすら食らう程に成長する過程で虫から動物に至るまで、地面に生息する動物類の大半を獲物として食らってしまうからである。


 言ってしまえば宇宙カマキリが一度繁殖してしまった場所は、既に生態系が完全に壊滅してしまっていると言って間違いない。


 絶滅してしまった動物を再び自然の状態に戻す事は、現在の地球人類が持つ技術では不可能である。


 けれども銀河連邦共和国が持つ、クローニングやらなんやらのバイオテクノロジーを用いれば、完全に自然のソレと全く同じとは言い切れない物の、ソレに近い状態まで回復させる事は可能だと言う。


 ……そしてそれが銀河連邦共和国と言う国が起こってから開発された技術では無く、古代宇宙帝国時代には既に有った技術だとしたら、宇宙カマキリの生物としてのでは無く兵器としての開発コンセプトにも納得が行くのだ。


 宇宙カマキリと言う兵器は【卵の状態で宇宙を彷徨い生物の生存に適した環境に落ちたならばソコで自動的に繁殖し、地上に居る生物を根こそぎ壊滅させてから再び宇宙へと戻る】と言う物で有り、ソレは要するに【全自動地上げ機】と言うべき存在だと言えるだろう。


 後から好きな様に自分達好みの生態系を作り出す事が出来るのであれば、その星に元来居ただろう生物なんざぁ絶滅させてしまえば良い……と言う極めて傲慢極まりない兵器である。


 古代銀河帝国はその名の通り宇宙規模の帝国主義国家で有り、銀河連邦が地球に行っていた様に、異なる文明を持つ惑星だからと見守り自力で宇宙へと上がって来るのを待つ……等と言う悠長な真似はしない。


 生物が住める環境があるならば全て帝国のモノにするのだ。


 ソコに文化や文明と呼べるモノが有ったとしても、ソレが即座に帝国に対して平服しないので有れば容赦無く蹂躙し、全てを灰燼に帰したとしても自分達さえ良ければソレでヨシッ! と言うのが恐らくは古代銀河帝国のやり方だったのではなかろうか?


 シンが思い描いたその想像が事実だとすれば、宇宙カマキリと言う兵器は自分達より劣る文明を蹂躙するのにこれ以上無い程の便利な道具と言えるだろう。


 恐らくはそうした傲慢のツケが祟って古代銀河帝国は滅び、その後銀河連邦共和国を含めた、幾つもの宇宙規模の国家が誕生した……と考えれば色々と説明が付く様に思える。


「驕れる者久しからず ただ春の夜の夢の如し……」


 そんな事を考えながら数えるのも馬鹿らしく成る程に居る宇宙カマキリにブラスターを撃ち込みながら、シンはなんとは無しに平家物語の一節を口走った。


「……シン殿、何故今その様な寂しさしか出てこない様な事を口にするんですか? え? もしかして自分達このまま全滅するとか、そ~言う嫌なフラグで有りましょうか?」


 ブラスターを撃つ手を止める事こそなかった物の、同じ分隊に配属されて居た【あまなつ】がソレを聞きとがめて妙なツッコミを入れて来る。


 確かに今日のシン達は誰一人として怪我らしい怪我を負う事もなく、順調にスコアーを稼いで居る、この状況で先程の言葉を口にすれば彼の索敵能力も相まってヤバい事の前兆と捉えられても不思議はない。


「いや、別にそう言う話じゃぁ無い、ただアイツらを開発した連中の頭ん中がちょっとだけ気になってな」


 嘘は言って居ない、より正確に言うので有ればシンが考えていたのは、ソレを造った者達の考えでは無くソコにまつわる歴史の類では有るが、今わざわざソレを説明する必要は無い。


「あーそう言う事でありますか、確かにあんな物騒な生き物をわざわざ造るとか、頭がどうかしてないと無理ですよねぇ……まぁ、地球人だって原爆見たいなヤバいモノ造ってる訳ですし、ヨソの事は言えないですけどね」


 ソコに生きるモノを根こそぎ殺すと言う意味では、確かに原爆も似た様な性質のモノと言えなくもないが、宇宙カマキリが去った後には《《クリーン》》な環境が残ると言う点で、原爆のほうがより凶悪と言えるだろう。


 ただ銀河連邦共和国も【惑星破壊兵器】等と言う原爆が可愛く思える様なヤバい兵器を普通に所持して居る事を考えれば、どっちもどっちと言えなくも無い。


 とは言え少なくともシンが購入し読んだ範囲の電子書籍では惑星破壊兵器の類が、戦争の様な人同士の争い使われた事は無く、宇宙カマキリが大繁殖してこのまま放置すると他の惑星にまで迷惑が掛かると言う様な状況でしか使われる事は無いと書いてあった。


 そうした事案の殆どは古代銀河帝国の負の遺産に始末をつける為だと言うのだから、かの帝国とやらは一体どれ程の事をやらかして来たのだろう。


 想像に過ぎないが少なくとも原爆で国土と少なくない人命を焼かれた日本より、よほど罪深い事をして来たに違いない。


 何せ先日読んだパンフレットに乗っていたデミヒューマンや亜人等と呼ばれる、人間とは少々違う特徴を持った種族は自然にそうした進化をした訳では無く、古代銀河帝国の連中が様々な《《用途》》に使う為に産み出されたのだ。


 極めて個人的なシンの価値観では有るが、生命をいじくり回してもてあそぶ様な行為は慎むべきだと思っている。


 けれどもソレを厳密に言い始めると作物や家畜の品種改良なんかはどうなんだ? と言う話にも行き着くので、余り深堀りし過ぎても面倒臭い話が噴出するだけなので、わざわざ他人に対してどうこう言うつもりも無いのだ。


 自然から離れすぎた生き物は全て好ましく無い……なんて事を言い出せば、野菜や果実に家畜等など食べられるモノはこの世から無くなってしまう。


 自然交配に依る品種改良は良くて、遺伝子組み換えに依る品種改造は良くない……と言う論調も、科学的根拠に乏しい一種のレッテル貼りとしか思えない。


 家畜の多くは人間の手で世話される前提で改良が進んで居り、自然の中に離した所で野生に戻るかと言えば微妙……と言う様な動物だって幾らでも居るだろう。


 代表的なのは競馬用に改良に改良を重ねて産み出された競走馬【サラブレッド】ではなかろうか?


 彼は兎に角速く走る事を追求し続けた余りに野生で生きるには繊細で脆い存在に成り果ててしまって居る。


 サラブレッドの脚を指して【ガラスの脚】なんて言葉が出てくる位には、競走馬の脚と言うのは脆く、育成途中でちょっと柵に脚を引っ掛けただけで脚が折れ、そのまま回復させる事も出来ずに安楽致死……と言うのはありふれた話だと言う。


 要するに話のスケールが違うと言うだけで、地球人も宇宙人もやってる事に大差は無く……所詮人間は人間だと言う事なのだろとシンは想像する。


 結局はいつの時代でもどんなに技術が発達したとしても、生物としての人間が進化した訳では無いのだから、何処かでボーダーラインを引いてソコだけは絶対に越えては行けないと戒めなければならないのだろう、驕る平家は久しからず……とは良く言ったモノだ。


 きっとそうした古代銀河帝国がやらかした様々な事柄が有って、ソレを踏まえた上で自分達はやらかさない様にしよう……と言う戒めが有るからこそ、銀河連邦共和国は地球に対して宇宙カマキリと言うきっかけが無ければ直接的な接触を行わなかったに違いない。


 その辺をもっと深堀りする為にも、セブンスムーンに有ると言う図書館や博物館を目指して、シンは更に多くの宇宙カマキリを仕留めようとブラスターの引き金を引くのだった。

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