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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第33話:索敵技術と殲滅後の処理

 今夜のシンは普段の様にエコロケーションと言う音の反響を読み取る技術だけに頼るのでは無く、先日の打ち上げで熊撃ちの老人から聞いた【宇宙カマキリの痕跡】を見つける事にも意識を向けていた。


 無論、普段の様に音に依る索敵が疎かになっては本末転倒と言うもので有り、その辺もしっかりと弁えて居る彼は、目と耳双方をしっかりと使って索敵を行う事を意識して居る。


 とは言えコレは今更と言えば今更の事で、ワールドガンセッションをプレイしていた時だって、必ずしも聴覚に依る情報だけに頼っていた訳では無く、敵を狙い撃つ際にはしっかりと画面に映った物を目で見て狙っていたのだ。


 医学や生物学と言った分野に明るい訳では無いシンの想像でしか無いが、人間という生き物は確かに五感の中でも視覚に比重が置かれているが、瞬間的な判断と言う点では目で見た物よりも他の感覚の方が優れているのではないかと思っている。


 ゲームを多少でもやっている者であれば、目で見て反応するよりも耳で聞いた音に反応する方がタイミングを取りやすいと言う経験をした事が有る筈だ。


 実際【音ゲー】とか【リズムゲー】と言われる様な類のゲームで、譜面を目で見て攻略するよりも、音を聞いてリズムで覚えるのが正しい攻略法だと言われている。


 人間の目と言うのは確かに多くの情報を一度に取得する事の出来る便利な臓器だが、その分頭脳が情報を処理するのに多くの時間を要するのではないだろうか?


 少し違う話かもしれないが、パソコンなんかで同じ時間の音声情報と映像情報では後者の方が大きな容量を必要とすると言うのも、そんな考えに至った理由の一つである。


 もっと分りやすいのは電話の存在で、音声通話だけならばアナログな電話回線しかなかった時代でも取り扱う事が出来たが、映像付きの……つまりはテレビ電話ともなると相応の通信速度を持ったデジタル回線が必要と成るのが良い例だろう。


「っと、分隊長。彼処に宇宙カマキリの痕跡がありますね。まだ乾いて無い糞です」


 聴覚情報では無く視覚情報で痕跡を見つけたシンは、即座に分隊長である軍曹へと情報共有する。


「ん? ああ、コレが連中の糞なのか。確かに良く見りゃ普通の動物の糞とは違うなぁ」


 灰色のゴロンとした拳程の大きさのソレは、パッと見て一般的な動物の黄褐色の糞とは全く違う物に見えた。


 けれどもソレこそが熊撃ち猟師から聞いた一番わかり易い宇宙カマキリの痕跡だったのだ。


 宇宙カマキリは小さな内は仲間同士で狩り場が被らない様にアクティブに行動範囲を広げていくが、繁殖期に入ると近くに居る仲間と集まって一つの営巣地を築くと言う生態なのだと先日読んだ本には乗っていた。


 今はその繁殖期の後半から少し過ぎた当たりの時期で、ココに新しい糞が落ちていると言う事は、周囲の相応の数の宇宙カマキリが居ると言う事である。


「居ますね……ココから3時方向300m先、4匹集まって獣道で獲物を待っている様だな」


 そうと思って見てやっと分かる様な草場の中に見える踏み固められて、わずかに草が少ない場所が獣道と言う奴なのだろう。


 ソレを挟む位置の木陰にそれぞれ2匹ずつの宇宙カマキリが居ると、シンはエコロケーションの結果として看破して居た。


「おっしんじゃまぁ取り敢えずサクッとそいつ等ぶっ殺すか、4匹って事ぁ何時も通りならココから一気に密度が濃く成るパターンだよな?」


 シンのエコロケーションは何処までも広い範囲を把握出来ると言う訳では無い、室内ならば目を瞑ったままでも生活出来る自信が有るが、野外となると様々な自然の音や風等の影響でその効果範囲は最大でも300m四方を把握する程度の留まる。


 そんな中でも宇宙カマキリをギリギリの距離でもしっかり把握出来るのは、奴等の外骨格が硬すぎるが故か音の反響の仕方が特殊だからだ。


 更に言うならばサブボディの持つ5感が生身のソレと比べると、割と鋭敏だから……と言うのもその索敵制度を上げていたりもする。


 培養量産型サブボディは身体能力と言う点では十分に鍛えた軍人のソレと然程変わらぬ程で有り、5感も味覚は一流のシェフのソレに、嗅覚はソムリエのソレ、触覚は過敏では無いギリギリに、視覚はアフリカ原住民のソレに近い数値に成る様に調整されて居るのだ。


 そして肝心の聴覚はと言えば100m先に針を落とした音を聞き取れる……とまでは行かないがソレに近い程度には敏感である。


 ちなみに其処まで全ての感覚が過敏だと、本体との差で色々と問題が出そうな物なのだが、サブボディを動かしている【魂】とでも言うべき物は、本来この程度のスペックを扱える様に出来ているそうで、生身の身体の方がかなり退化して居ると言えるらしい。


 そもそもとしてサブボディは動かすのに生身の身体の様に【頭脳】は使って居らず、肉体に憑依した魂が直接身体を動かす……と言う地球人の感覚で言えば極めてオカルトチックな物なので考えるだけ無駄なのだろう。


「目視にて目標を確認であります、4体間違い有りません」


 慎重に隊列を組んだままで歩を進めた先で、あまなつが宇宙カマキリを刺激しない様に声を潜めてそんな言葉を発した。


 宇宙カマキリは極めて優れた動体視力を持つが、逆に動きの遅い物には余り反応しないという性質がある。


 しかしソレは視覚だけの事で奴等は奴等なりにちゃんと聴覚もあれば嗅覚もあるのだ。


 分厚い甲殻に覆われた身体の表面には殆ど触覚と言って良い物は無いらしいが、触角と足の先はかなり敏感に物事を捉える事が出来ると想像されいてる。


 何故【想像】なのかと言えば、宇宙カマキリを細かく分析する事が出来る様な標本が捉えられた事が無いからだ。


 宇宙カマキリは古代宇宙帝国の生物兵器だが、奴等を倒す事が出来る武器である【キチンブラスター】もまた古代宇宙帝国時代には既に生み出されていた物なのである。


 故に銀河連邦共和国では宇宙カマキリの卵が領有する惑星に落ちた場合には、初期であればブラスターでサクッと対処し、発見が遅れて早期の駆除が難しいと判断された場合には惑星破壊兵器で星ごと抹消して来たのだ。


 極めて例外ケースと言えるブラスターを使わずに物理的手段で撃破されたのは、実は数千年に及ぶ銀河連邦共和国の歴史の中でも初めての事で、中国でのソレやアフリカのソレは現地の者達が食ってしまったらしいが、アメリカの物はNASAが回収したらしい。


 つかあんな意味不明な巨大昆虫を食うと言う神経が日本人的には、割と信じられないと言えばその通りなのだが、世界的に言えば昆虫食は割と普通で有り、大分類として甲殻類と考えれば蟹を食う様な物と言えるのだろうか?


 巨大な蟹と考えれば……うん、


「カマキリの丸茹で……美味いのかな?」


 ついついボソリとそんな事を呟いた。


「お前さんが何を食おうと好きにすりゃ良いけどよ、今は戦闘中だぜ気ぃ抜いてんじゃねぇぞバカ。おし全員配置に付いたな……撃てー!」


 ソレに呆れた様な、ドン引きした様な微妙な声色で注意をしてから、軍曹の掛け声で一斉にブラスターを斉射する。


 4体の内どれを狙うとかそんな事は細かく指示されていないが、この場に居るメンツは誰もが自分の位置ならば、どの個体を狙うのかなど言われずとも理解し、必要以上に狙いを被せる事無く最小限の射撃で宇宙カマキリを殲滅した。


「よし! ゲームチャンプは周囲警戒! 他のメンツは延焼しない様に消火剤だ」


 ブラスターの粒子は宇宙カマキリの甲殻に含まれているキチン質に反応し、ソレを破壊する性質を持つが、その際に高熱を発し内部組織の水分が蒸発する事で軽い爆発を起こす為、後処理を怠ると山火事が発生する場合があるのだ。


 普段通りの後処理とは言えソレを怠った事で火災を発生させた場合には、分隊長が懲罰対象と成る事もある為に何度でも口を酸っぱくして言う必要がある事柄に、周りの皆も余計な反発などするはずも無く、


「「「サーイエッサー!」」」


 と返事を返して行動に移すのだった。

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