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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第32話:部隊別けと米軍の階級制度

分隊長が視線を動かし瞬きを繰り返すと、シンが身につけているチップに情報共有の申請が飛んでくる。


 ソレをシンは指でタップする事で許諾を出すと、今日の戦場となる場所の地図と各分隊の配置が網膜に直接描画された。


「うし、ソレを見て貰えりゃココに居る連中なら今日の戦闘がどう言う物なのかはもう分かるよな?」


 地形は然程険しくは無いがソレでも多少の勾配のある山岳地帯、鬱蒼と生い茂る木々の間に隠れているであろう宇宙カマキリを索敵し殲滅しつつ営巣地を探す……つまりは何時も通りの駆除作業だろう。


「見た所、ピンと来てねぇ奴は居ねぇな。そうだ、前回の様な無茶な任務じゃねぇ、普段通りにきっちり仕事をすりゃ誰一人怪我すら無く終われる類の仕事だ。俺はココに居るメンツを信頼してる、軍人だとか民間人だとかそんな括りは関係無くな!」


 今日の分隊長はココ最近良くシンが配属されて居るオレンジ軍曹殿だった。


「分隊長、質問よろしいですか?」


 シンは何となくその事が気になったので、まだ時間に余裕がありそうだと判断しそんな言葉を口にする。


 すると分隊長は無言で顎をシャクって続きを促した。


「ここ最近、俺が分隊長殿の下に配置され続けている様な気がするんですが……」


 今までは何処の戦場に配属さるにせよ、毎回違う分隊長の下に配置されて居たのだが、ココ暫くは何故かオレンジ軍曹の下に居る事が続いて居る、その為に出たそんな疑問だ。


「ああ、そりゃドラフトで俺がお前を指名してるからだ。つか分隊の分け方とか説明受けてねぇの? まぁ機密ではなかった筈だから説明すると、俺達分隊長がチップを付けるとその日の戦場に来てる奴の一覧が送られてくる訳よ」


 と、そんな言葉から始まった説明に拠れば、分隊員はその一覧の中から早いもの勝ちでそれぞれの分隊長が取り合うシステムになっており、万が一同じタイミングで複数人から指名が入ればランダムで振り分けられる……と野球のドラフト会議の様なシステムだと言う。


「俺達アメリカ軍人も自衛隊の連中も、もしかしたら警察や消防から来てる連中なんかも、基本的に民間人は守るべき者で戦力として考えるなんざぁ言語道断……って奴が多いんだよ。んでどうしても軍人が足りなけりゃ経験豊富な爺から先に売れていく訳だ」


 自分達は民間人の盾であり鉾である、と言う様な考え方は洋の東西問わず軍務に就く者ならば当たり前に成るように徹底して受ける教育の一部で、ソレが出来ない奴は軍人に成る事すら許されないらしい。


「んで俺はちょっとのミスでくたばるリアルの戦場なら兎も角、死んでも死なねぇココはゲームみたいなモンだと思てる。だから使えると思った奴は軍人だろうと民間人だろうと関係無く使う……ただそれだけだ」


 先日話した熊撃ちの爺さんの様にスコアだけを見ればトップクラスの民間人は実際に居る訳で、そうした者を積極的に分隊に取り入れようと考える軍曹の様な軍人は割と稀で、多くの者は【でも民間人だし】と二の足を踏む事が多いと言う。


 けれども現実の戦場とココとを完全に別物と別けて考えている軍曹の様な者も、若手を中心に相応に居ると言うのも事実らしい。


 ただそうした若手の多くは分隊長として戦場に配置されるのではなく、兵卒として各分隊に割り振られる事に成るため、どうしても民間人よりも軍人や自衛官なんかが優先的に取られていく事に成る訳だ。


 その為、シンの様に軍人では無いが有能な人材と言うのは比較的簡単にゲット出来る美味しいユニットなのだと軍曹は悪びれた素振りも無く笑った。


「つまり自分もそうした使える人材の一人と、見做して頂いたと思ってもよろしいでしょうか!?」


 軍曹の説明を聞いて興奮した様子でそんな声を上げたのは、先程までシンと話をして居た彼のファンだというあまなつだ。


「ああお前さんも前回の大規模作戦の時にゃ良い動きしてたからな、ソレに後からログを確認したが隊を別けた後もきっちりゲームチャンプ指示を聞いて的確な射撃が出来てた、リアルでも俺の部下なら合格点をやれる奴だよお前さんは」


「ひゃっはー!? 最高だぜぇ!」


 現役の軍人、それも叩き上げの軍曹にそう言われたのが嬉しかったのかあまなつは奇声とも取れる様な快哉の声を上げる。


「おい! 黙れバカ! 周りの連中がこっち見てるじゃねぇか! 前言撤回! てめぇはまだまだ一兵卒にすら成れてねぇウジ虫だドアホ!」


 海兵隊で軍曹と言えば古い戦争映画のあの老人をイメージする人も多いだろうが、こっちの軍曹も中々に口が悪い人物なのは軍隊と言う組織では当たり前の事なのだろうか?


 そんな疑問が首をもたげるが、軍曹の言う通りあまなつが発した叫び声に、周りに居る分隊から刺さる様な視線が飛んできている為、妥当といえば妥当な罵声と言える。


「まぁアホなウジ虫一匹はほっといて……ゲームチャンプお前さんの索敵能力にゃぁ俺はちったぁ期待してんだ、何とか無事に全員が帰れる様に上手く立ち回ってくれよ? お前さんからの意見具申を聞き入れねぇ程俺はバカじゃねぇからな」


 軍人に限らず人間と言う生き物は多くの場合、歳を取るにつれて頭が固くなっていく。


 これは子どもの頃に比べて物覚えが悪く成る……と言う事もあるのだろうが、ソレ以上に多くの経験を積み重ねたと言う自負が、その経験から来る勘から外れる事を悪手と考えがちに成るからだ。


【賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ】と言う格言が有るが、本で覚えた事ばかりを優先する頭でっかちと、現場で経験を積み重ねた叩き上げのどちらが戦場で頼りになるかと言う話になると、恐らくは経験に学んだが愚者の方が生き残る確率は高いだろう。


 とは言えそうした経験則が常に正しいとは限らないのもまた事実で有り、結局の所はバランスの問題なのだ。


 そんな事を考えつつもシンは軍曹がその階級の割には若いのでは無いかと考える。


 戦時任官が横行していた戦争中ならば、手柄を上げれば相応の階級に就く事も有ったとは聞くが、世界を見渡しても紛争らしい紛争が宇宙カマキリの所為で無くなった地球上では任期と試験に上官からの推薦を持って行われる昇進試験だけが階級を上げる手段だ。


 アメリカ軍では基本的に兵卒は入隊後の累計勤続期間と特定の階級における勤続期間だけで昇進が認められるが、下士官以上に昇進する為には下士官訓練プログラムと呼ばれる訓練を受け無ければならない。


 更に言うならば上等兵から下士官最下位の伍長に昇進する為には、班のリーダー等の纏め役としての職務経験が必要とされる為、ただ単純に長く勤めていれば自動的に昇進すると言う物では無いのだ。


 軍隊の階級と言うと尉官や佐官を思い浮かべる者が多いと思うが、彼らは士官学校を卒業したエリートで有り、未来の幹部候補生達で、兵卒入隊の場合には途中で出世の為に士官学校に入るケースを除けば、大部分は下士官にすらなる事は出来ないのである。


 まぁ多くの場合は下士官に成る前の兵卒の段階で十分に金を稼いだら除隊して、大学へ進学するなり警備会社なんかの軍歴を活かせる企業に転職したりするのが普通で、下士官を目指す者の方が珍しいと言えば珍しいのかもしれない。


 なにせ下士官と言うのは席の数が決まっているそうで、成りたい奴が多ければ多い程にその席の奪い合いが激しく成る。


 とは言えソレは足の引っ張りあいの様な暗闘では無く、上官の覚えが目出度いとか日頃の勤務態度が良いとか、推薦を受けて審査が行われた際に誰を昇進させるのかの判断でより良い結果を産む為の努力でしか無い、要するにどこの世界にもある出世競争と言う奴だ。


 強けりゃ偉いなんて言う時代の軍隊ならば兎も角、今の時代は相応に知恵が回る者で無ければならないし、同時に部下を統率する求心力も無ければならないと言う、難しい時代なのである。


 そんな事を思っている内にブリーフィングは思わった様で……


「総員突撃用意!」


「「「サーイエッサー!」」」


 と、何時も通りに掛け声を上げ戦場へと足を踏み入れるのだった。

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