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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第31話:アマチュアから見たプロと、本人の自意識

「あ! シン殿! 今日も同じ分隊ですね! よろしくお願いします!」


 動物園から一度自宅へ帰り洗濯を済ませた後、シンは何時も通り宇宙カマキリ対策センターのタンクベッドに横たわった、そしてサブボディの身支度を整え、分隊に合流した所で唐突にそんな言葉を投げかけられたのだ。


「えっと……ああ、あまなつさんか。同じ分隊になるのは二回目だよな? なんだってわざわざ俺に挨拶?」


 顔の横に浮かんだ識別名の【あまなつ】はシン同様に本名では無いだろう、けれどもプロゲーマーとしてのハンドルネームをそのまま使っているシンは、半ば本名を晒して活動して居るのと変わらないと言っても良い。


 何せインターネットにある巨大百科事典には、元プロゲーマーとして個別ページがある上に、先日の自衛隊前駅近くで起こった市街地での宇宙カマキリ戦に関しても情報が記載された事で、元プロゲーマーのシン=マーセのシンと知っている者は知ってる状態なのだ。


「ええっと、実は自分も結構ワールドガンセッションを遊んでいた口でして、プロ時代のシン殿の動画とかは全部見た事があるくらいにはファンだったんです! ソレがまさかマーセになってサブボディ越しとは言え会って話が出来るなんて感動物であります!」


 お前は旧帝国軍人か? とツッコみたくなる口調でそんな事を言うあまなつに、シンは軽く引きつつも元プロとしての矜持も有ってソレを表面に出す事は堪えた。


「ああ、プロ時代のファンかぁ……つっても俺って活躍したって言えるのは最初の3年だけで後は善戦はしてたと思うけど、トッププロで居続ける事は出来なかった程度の男だぞ?」


 シンがワールドガンセッションと言うFPSファーストパーソンシューティングゲームの世界大会を三連覇したと言うのは事実で、1年目はアマチュア個人勢として一般予選からの参加で、並み居るプロ達を相手どっての優勝劇はネットニュースのみならず地上波や新聞でも話題に出された程だ。


 二年目はプロチーム入りしてからの参戦で、前回優勝者と言う肩書きも有ってそれ相応に注目も集めたし、他の選手達から優先目標として狙われたりした部分も有った。


 ソレでも勝てたのは彼の持つエコロケーションの技術だけで無く、チームメイトが一丸となって優勝を目指した……と言う此れに尽きるだろう。


 初年のアマチュア個人勢からの優勝は、言ってしまえば周囲から【所詮はアマチュア】と舐められていたが故に、その油断や隙を突く事が出来たと言うのも、今を思えば大きな要因だったと理解して居る。


 2連覇後の3年目とも成れば多くのプロチームがシンの挙動や、所属チームの連携なんかをきっちりと研究して来たが故に、決勝ステージではかなりの激戦となったし、正直紙一重の勝利だったと思っていた。


 そして4年目になって新作が発売され大会もそちらで行われる事になった結果、彼の持つエコロケーションが有利に働く事が無くなり、ソレでもトッププロの一角としてファイナルステージに残る事は出来ていたのだ。


 にも拘らず自身を卑下する様な口ぶりなのは、以後ファイナルステージに残る事は出来ても、優勝と言う結果を出すことが一度もなかったからに他ならない。


 正直な所、シンの実力が低いかと言えば決してそんな事は無く、数多のプロがひしめく本戦を勝ち上がりファイナルステージまで毎回の様に残る事が出来て居る時点で、世界有数のトッププレイヤーである事に間違いは無いのだ。


 実際、その大会では優勝者や優勝チームだけで無く、ファイナルステージに残った時点で結構な金額の賞金が支払われる対象に含まれており、収入と言う面で言えば間違い無く【賞金で食っているプロ】の範疇に含まれていた。


 なのに自己評価が低いのは、ソロプレイヤーとして参加した大会で優勝してしまったが故に、自分の価値を通常以上に高い物だと勘違いし、そこに満たない結果では評価に値しない……と言う傲慢としか言い様の無い間抜けさを晒しているからである。


 まぁ当の本人はソレに気が付かないままに、チーム内でも最上位と言っても良い腕前を持っているにも拘らず、自分を卑下する様な物言いをして居たのだから、彼に憧れチーム入りした後輩達が愛想を尽かすのも仕方の無い事だったのだろう。


 そうして歳を重ねた事で《《全盛期と比べたら》》反応速度や動体視力が落ちた事も有り、ファイナリストとして残る事も難しくなった為に、チームに残って後進の育成をと言う話も有ったのにあっさりと引退を決め込んだのだ。


「確かに優勝こそ最初の3年だけでしたが、その後の6年連続ファイナリスト入りは未だに破られて居ない記録でありますよ? 獲得賞金額の記録もスポンサー企業が増えて、大会の賞金総額が増えなければ恐らくまだ破られてなかった筈です!」


 競輪や競艇などの公営ギャンブルや、テニスにゴルフの様なプロスポーツでは、年間の獲得賞金総額が評価の基準になったりもするし、賞金王として表彰されたり更に追加で賞金が出たり……と言う事はある。


 けれども残念ながらワールドガンセッションとその関連ゲームに関しては、年一回の世界大会やその他オンライン大会なんかで賞金を稼ぐ事は出来ても、その額をカウントしてどうこうと言うのはなかったので、彼は幾ら稼いだと言う事に余り頓着していなかった。


 自転車やゲーミングPCの様な趣味の物を買う以外だと、豪華な食事をしたり高い衣類を買ったりと言った浪費は余りせず、むしろ株主優待目的で長期保有する前提の株式を買ったり、不動産に投資したりと言った形で財産を作る事を優先していたのである。


 その辺の財テクとでも言うべき行為をして居るならば、原資となる賞金額に拘りを見せるのが普通なのだろうが、自身の最低限の生活費は株式の配当や不動産から上がってくる家賃収入なんかでどうとでもなる……と言う考えなのだ。


 故に獲得賞金総額ランキング……なんてモノが有った事すら今の今まで興味がなかったと言う訳である。


「ああ、そうなんだ……じゃぁ君みたいに俺に憧れるファンが居ても、全くおかしくは無いってそう言う事なのかな?」


 シンはプロゲーマーとは言っても個人的に動画配信を行ったりはしておらず、メディアへの露出も取材を受けた時に仕方無く……と言う感じで、人気商売である筈のプロとしては失格と言っても良いタイプの人間だった。


 それでも世界大会3連覇に、その三回を含めて6年連続ファイナリスト入りと言う看板は、そのゲームをプレイする人間ならば誰しもが知っていると言って過言では無い大きな物だ。


 あまなつの言う通り3連覇も6年連続ファイナリスト入りも、今現在も新作に舞台を変えて続いているワールドガンセッションでは破られていない記録である。


 本来ならば引退したとしても大会の中継なんかに解説者として呼ばれていても全く不思議の無い経歴の持ち主で有り、全盛期には劣るとは言えソレでも一流と呼べるゲーマーである彼はゲーム動画の配信なんかでも稼げるであろう知名度もいまだ有しているのだ。


 ……ただまぁ、本人は本気で悠々自適のネオニート生活を決め込むつもりで札幌へと帰って来て居たので、所属して居たチームの運営側にもその手の仕事はしないので、仲介して欲しいと話が有っても断る様に頼んでいたりする。


 そもそもとして彼はシューティングゲームの類は、才能云々は別として純粋に趣味として考えるならば好みのゲームでは無く、自分が楽しむ為に遊ぶのであればどちらかと言えば戦略シミュレーションゲームなんかを好む性質(タチ)なのだ。


 そして最近は余暇の大半を文明を育てて戦う【時間が無限に溶ける】等と言われる事もあるストラテジーゲームの最新作に浪費していたりする。


 恐らくはマーセとしての仕事と銀河連邦と言う未知との遭遇が無ければ、ジム通いの時間と寝ている時間以外の殆どは、そのゲームに吸われていた事だろう。


 その手の幾ら時間が有っても足りない系のゲームを好むからこそ、働かなくても金が入り、自分はひたすらゲームをする……と言うネオニート生活に憧れて居たのだが、世の中ままならない物である。


「おーし、お前等! ミーティングを始めっぞ! 注目!」


 と、そんな事を話している間に、今日の分隊員が全員揃った様で、分隊長と思しき者がそんな声を張り上げたのだった。

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