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第3話:終わりの始まり

数えるのも馬鹿らしく成る程の数の白い光線が四方八方から放たれ、やはり数えるのが面倒に成る程に密集したカマキリ達に着弾する。


『余り一気に撃ち過ぎるな! 山火事にでも成れば後が面倒だ! 確実に1匹ずつ仕留めるんだ!』


 光線に穿たれたカマキリの甲殻は深い緑色から焼け溶けた鉄の様な赤へと変色し、熱に負けた内部に含まれた水分が蒸発する力で内側から弾け飛ぶ。


 これは彼等が使っている武器が巨大カマキリの甲殻に含まれる成分に反応し、ソレを急速に分解する事で奴等を倒すと言う物だからで有り、弾け飛んだ甲殻だった物には相応の熱が篭っている。


 その為ゴルフ分隊の分隊長が通信機越しに叫んだ様に、一気に多くのカマキリを殲滅する様な事をすれば、周囲の木々や下草に引火し山火事を引き起こす可能性はかなり高い物だったりするのだ。


 一応は彼等の装備品の中には小型の消火器等も含まれては居るが、初期消火で間に合う程度の小火(ぼや)ならば兎も角、燃え広がってしまった場合には報酬から相応の減額が発生する事になる。


 そうした周辺の被害を気にする事無く引き金(トリガー)を引き続ける馬鹿は、どうしても一定数は居る為に彼の様なある程度周りが見える物は大慌てでソレを抑える立場に回らざるを得ないのだ。


「でも大分数が減ってきてますよ、このまま行けば俺達の活動限界よりも大分早く殲滅しきれます。確か営巣地さえ潰せば此処等一帯の安全は確保出来るんでしたよね?」


 巨大過ぎるカマキリの最初の目撃と人類との戦いが始まり既に三年もの月日が経ち、完全にでは無い物のある程度はその生態や繁殖の条件なんかは情報として纏まって来ては居る。


 シンが口にしたのも既にインターネットなんかを通じて世界に拡散されて居る情報の一つで、巨大カマキリは概ね半年のスパンで繁殖と成長を繰り返して居り、営巣地に有る卵を潰す事が出来ればある程度の広さの安全を最低でも半年は確保出来ると言う物だ。


「ああ、その辺は連中が開示した情報でも確認出来るが、今時期は丁度産卵期で雄の数が減って雌も産卵後に力尽きて相応に減ってる時期の筈だ。だからこそ今此処で営巣地を潰してしまえば他所から移って来る個体が居ない限り此の辺は安全になる」


 通常のカマキリがそうである様に、目の前で死の鎌を振り翳す巨大なカマキリ達も、産卵は命懸けの行動で有り、雄は卵を育てる為に栄養を欲する雌に食われる運命に有る。


 そして雄を性的にも物理的にも食らった雌は、万を優に超える数の卵を産んだ後に命を落とすが、2匹から1万匹を超える数に増えると考えれば、その繁殖力の強さは尋常では無い事が分かると思う。


 とは言えその全てが成体にまで成長するかと言えばそう言う訳では無い。


 確かに通常のカマキリと比べれば圧倒的な強さを持つ生物では有るが、その分成長に必要となる食料はとてつもない量となるのだ。


 その為巨大カマキリの大半は成体に成る前に必要となるカロリーを接種しきれずに飢え死にする事になる。


 其れでも人類を……いや巨大カマキリ以外の殆どの生き物を食い散らかし、絶滅に追い込む事が出来るだけの非常に危険な存在がわらわらと湧いて出ると言う事に変わりは無い。


 実際、日高方面に展開する部隊に対して支給される報奨金と言うのは、大切な競走馬をカマキリに食い散らかされる事が無い様にする為に、国内外の馬主や馬産関係者に競馬ファン等が出資した金が回されているのだ。


 その辺の事を踏まえれば札幌から然程も離れていない山中である此処にも、それ相応の報奨金が出ても不思議は無いのだが……カマキリ騒動以前から、ヒグマの出没に対して猟師(ハンター)に支払う報酬をケチって来た事を考えればさもありなんと言う所だろう。


「まぁ今俺達が相手してるのは、交尾相手を見つけれなかった雌らしいから、可哀想といえば可哀想だが……外来生物は駆除しねぇと生態系が無茶苦茶に成るなんてのは、今までの歴史が散々教えてくれて居る、きっちり仕留めて帰ろうや」


 冷静に周辺の状況を見定めながらゴルフ分隊の分隊長がそんな言葉をシンに投げかける。


 彼の言葉の通り此処に集まった者達が戦っているカマキリ達は全て雌だ。


 基本的に巨大カマキリは雌の方が圧倒的に多く産まれ、少数の雄を雌が奪い合うと言う生態で、1度交尾を行えば雄はその生命の意義を終えたとばかりに物理的にも食われてしまう。


 その為、常に一定数の雌が繁殖に至る事無く残される事に成るのだが、そうなって残った雌は卵を産んで命を落とした他の雌達の意志を継ぐ様に営巣地を守る習性があるのだ。


 無論、彼女達とて何の利益も無くその様な行為を行っている訳では無い、卵を守らなければ成らないのは産卵直後の一月程度の期間で、その後は産まれたばかりの仔カマキリ達とは別行動で狩りに邁進し、半年遅れで産まれた雌達よりも更に大きく成長する。


 その結果として次の繁殖期には、新たに産まれた雄を確実に確保出来る体格と実力を身に付ける事が出来ると言う訳だ。


『……此方ブラボー2、営巣地を目視で確認。やべぇのが居る、御局様が居やがるぞ」


 但しソレにも例外と言うモノが有る……1年を超えて雄と番う事の出来なかった雌は、雄と交尾する事が不可能に成る程に大きく成長してしまうのだ。


 そうなると彼女達は旺盛な食欲はそのままに、ただ只管に成長し本懐を遂げて命を落とした仲間達の卵を守るだけの為に生きる様に成る。


 そうした個体を通称『御局様』と呼んだのは誰かははっきりしては居ないが、恐らくは日本人なのだろう。


 兎角、御局様は他のカマキリよりも圧倒的に巨大で有り、凶暴で食欲旺盛だ。


 目に付く動く物は、同族以外ならば何でも積極的に捕食しようとその鋭い鎌を振り回すのである。


 雌余りが多々出る巨大カマキリの性質上、御局様に至る個体は決して少ない訳では無いが、その巨大な身体を維持する為のカロリーを接種しきれずに餓死する個体の方が圧倒的に多い為、実際にこうして戦いの場で目撃されるケースは実はレアだったりするのだ。


 逆に言えばそれだけ強力な個体と戦わなければ成らない今回の戦場への参加者は、運が無いとも言えるだろう。


 それでもまぁ御局様には別途撃破報酬が出る事に成っているので、或る意味ではボーナスステージと言えなくも無い。


「まぁ気にするなゲームチャンプ。コイツはお前さんの得意なゲームと一緒だ。俺達は死んでも良い身体を貰って、くたばっても何度だってコンテニュー出来る。対して奴等はくたばりゃ一巻の終わりなんだ。ちゃちゃっとクリアしてさっさと帰ろうぜ」


 分隊長はそんな言葉を口にしつつ、右手でトイガンめいた通称【ブラスター】と呼ばれる薬剤噴出機を保持し的確にカマキリへと射撃しながら、開いた左手でシンの肩をバンバンと音を立てて叩く。


 その言葉通りこの戦場に立つ者達は自身の命を守る事を必要としない。


 無論、喜んで死にに行くと言う訳では無く、死なない為のカラクリが有るのだ。


『ブラボー分隊から各位! 馬鹿達が御局様に突撃仕掛けやがった! アイツ等本当にクレイジーだぜ! 幾ら死なねーっても痛いモンは痛いんだぞ!? 何で躊躇無くアレに近接戦を挑めるんだよ!?』


 そしてそのカラクリが有るからこそ、現役の米国軍人が狂ってる(クレイジー)とまで言う戦術を取る者達が活躍する機会にも恵まれるのである。


「サムライ連中が突っ込んだか。こりゃ御局様相手に俺達の出番はねーな。デカブツはアイツ等に任せて俺たちゃ討ち漏らしが出ない様に周辺を再度索敵だ。頼むぜゲームチャンプ!」


 更にバンっと強くシンの肩を一つ叩きながら分隊長がそう言えば、


「さ、サーイエッサー!」


 と少しの戸惑いを混じらせながらも彼はそう返答を返したのだった。

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