第24話:地球の文化文明も割と侮れない
セブンスムーンのファーストからフォースまでは、その順番に概ね一次産業、二次産業に三次産業と言った感じだった。
となれば続くフィフスからセブンスは四次産業や五次産業と続くのかと言えばそんな事は無い。
産業の分類法によっては医療や情報通信に教育などの分野を四次産業と呼ぶ場合も有るが、日本ではこれら先進分野とでも表現すべき物に関しても三次産業の中に含まれるとするのが一般的な産業の分類法だ。
五次産業に至っては概念すらインターネットで調べた所で存在して居ない物である。
にも変わらず四次や五次を飛ばして六次産業と言う言葉は一般的とまでは行かないまでもそこそこ使われている……と言うのだから日本語とはややこしい物だ。
ちなみに六次産業と言うのは農林水産などの一次産業と建設や加工などの二次産業に、小売やサービス等の三次産業を一箇所にパッケージングして行う業態を指す言葉で、牧場に加工場とレストランを併設した様な業態の事を言う。
この辺の事に関してシンは歴史教師……大分類として社会科教師を目指していた大学時代にしっかりと学んだ話である。
そんな事をふと思い出しながら開いたフィフスの観光案内には、東京で暮らして居た時に比較的近い所に有った秋葉原を思い出させる様な様々なキャラクターが蠢く看板が立ち並ぶ街並みが映って居た。
「コレが銀河連邦の流行り……なのか? いや、でもコレ……つい最近ネットで見た様な気がするぞ?」
シンは確かに元プロゲーマーと言う、所謂ヲタクならば多くの者が夢見るであろう仕事を生業として来た者だが、彼の本質は世間一般で言われる様な萌アニメや萌ゲーに血道を上げるヲタクでは無い。
いや大分類としてヲタクである事は間違い無いのだが、彼の興味は美少女系統のソレでは無く、幕末から第二次世界大戦辺りまでの近現代日本史に多くが割かれている。
そりゃまぁ健康な男子である以上は女性に対してもそれ相応の興味は有るが、萌え絵を提示された所で「絵じゃん」と言って除ける様なタイプだ。
ゲームの方も歴史シミュレーションや戦略シミュレーションを好み、FPSに限らず飛行機モノのシューティングゲームや、ゲームセンターに有るようなガンシューティングなんかも嗜むが萌えを主題にした様なモノには惹かれる事はなかった。
とは言え今どきインターネットでちょっと調べ物をした程度でも、この手のゲームやアニメの広告なんかは目にする事は有るもので全く知らないと言う訳では無いし、社会現象とか言われるレベルのモノくらいはチェックしていたりする。
そんな彼でも知っている様な日本の有名コンテンツに出てくるヒロインと瓜二つ……絵のタッチなんかを含めて考えれば、もしも別コンテンツならば著作権法に引っかかるんじゃね? と思う様なキャラクターがパンフレットの中に大写しに成っていたのだ。
頭の中にクエスチョンマークが飛び交う状態でそのページを読んで見ると、どうやら銀河連邦共和国に置いて、日本のこの手のコンテンツはかなり人気が有るのだと言う。
つい3年前まで地球と銀河連邦の間には正式なやり取りは無く、NASAだけが秘密裏に情報のやり取りをして居たと言う事だった筈だが……。
そんな疑問を抱きながら読み進めて行くと、どうやら銀河連邦共和国では自国の領域として定められている宙域に相応の文明が有る場合には、そこを監視し場合に寄ってはそこで流通して居るコンテンツに対して検閲紛いの事までして居るらしい。
ソレこそ衛星放送なんてモノが出来る前から、地球上で放送されて居る電波を通じたコンテンツの大半を彼ら銀河連邦政府の役人達がチェックし、その星が古代銀河帝国の様な危険な思想を持つかどうかを確認して居たと言う。
インターネットが世界に広まり、携帯電話なんかでもアクセス出来る様に成ってからは、銀河連邦のスパイ衛星が中継基地の役割を果たして地球のコンテンツにアクセスして来たらしい。
そして地球人だろうと宇宙人だろうと、人間のやる事に完璧と言うモノは絶対に無く、情報と言うモノは必ず何処かから漏れ出るモノなのだ。
結果として地球のコンテンツ……特に日本を中心としたアジア圏で強く発信されている【萌え】系のコンテンツは、銀河連邦に所属する多くの国で一大ムーブメントを引き起こしたのである。
厳密に言えば海賊版とでも言うべきコレなのだが、銀河連邦にはこうした【未開惑星コンテンツ】とでも言うべきモノに対する扱いについても明確な法整備が行われており、宇宙カマキリ対策に使われている費用の多くにこれらコンテンツの対価が宛行われているのだ。
「……成る程な、どうりで日本に対して妙に手厚いサポート体制が敷かれている訳だ」
銀河連邦で作られるコンテンツの多くは、チップで使われているのと同様に【網膜に直接画像を投影する】事で完全な立体映像として見る事が出来る様に作られており、そうなってからかなりの年月が経過している。
その為、完全な二次元の中で完結する地球のコンテンツは、銀河連邦共和国の若者達に取っては、逆に新鮮で目新しいモノとして映るし、相応に歳を取った者達からしても爺さんや婆さんが幼い頃に見た《《かもしれないモノ》》として扱われるのだと言う。
その上で欧米諸国の文化文明と言うのは銀河連邦を見渡せば割と似た様な存在が見つかるのに対して、中華及び日本の文化と言うのはかなり独自性の強いモノで有り、特にクールジャパン等と呼ばれるコンテンツは類を見ないモノらしい。
【スタジオ〇〇ある限り日本は私が守る!】と言ったアメリカ海軍の将校が居た……と言う様な話は、ワールドガンセッションの大会でアメリカまで行った際に、現地のプレイヤーから聞いた話なので本当かどうかは微妙な所だが、無い事も無い話なのだろう。
実際、自衛隊には割とヲタクが多いと言うのはマーセ関係で知り合った自衛官も言っていた事だし、陸海空軍をモチーフとした美少女コンテンツを切欠にそっちの道を志望する若者が相応に居ると言うのも事実である。
で、肝心のフィフスと言うコロニーの産業はと言うと、地球から仕入れたコンテンツを銀河連邦向けに翻訳したり、正規品のグッズ類を輸入しソレをセブンスムーンに住む者だけで無く連邦各地へと発送する……なんて事が行われているらしい。
ちなみにジャパニメーション以外の海外コンテンツの人気はと言えば、アメリカの二大スペース・オペラとも言われるシリーズが、時代劇の様な扱いで人気を博していたりする様で、某暗黒卿の等身大フィギュアが飾られている店もパンフレットには乗っていた。
地球人の感覚でもコンテンツ産業は相応に儲かる産業では有るが、ソレだけで一国の人口にも等しい人員を収容出来るコロニーをわざわざ置くのは少々不自然だ……そんな事を一瞬考えたが、ソレに対する答えもパンフレットにはしっかりと記載されている。
銀河連邦共和国は其処に所属する星系国家がおよそ3000も有り、更にその整形国家が抱えるコロニーや主星以外の居住惑星も鑑みれば、その総人口は地球の総人口を3000倍したよりも圧倒的に多い数字なのだ。
その中の1%が毎月500円のサブスクリプションでアニメを視聴しただけでも、その総額は文字通り天文学的な数字に成る。
しかもソレ等商品と言える映像作品なんかは電子データで有り、複製するのに然程の手間も必要としない。
つまり銀河連邦で地球のコンテンツを扱う企業は、地球人が作った作品を右から左へと流すだけで、ソレだけ莫大な利益を得ていると言う事に成る訳だ。
更にはシン達がマーセとして活動する上で使っているチップを装着すれば、映像作品ならわざわざ一つ一つを翻訳する手間を掛ける事無く、それぞれが持つ自動翻訳機能で視聴するだけなのだから濡れてに粟とも言える一大産業と言えるだろう。
無論、そうした利益を丸っと企業が懐に貯め込む事は許されて居らず、本来のコンテンツホルダーに対して還元する為に専用口座が作られ、そこに一定の割合でポイントが蓄えられるシステムがあるのだ。
そして地球に送られる物資の大部分はそうしたコンテンツホルダーが受け取るべきポイントを使って購入され、その分の対価はアメリカ政府や日本政府がコンテンツホルダーに還元する……と言う流れが有ると書かれて居る。
実際、何処まで現場に金が落ちているのかまではこのパンフレットでは分からないが、以前に比べるとシン自身がプレイする様なゲームにも、手が混んだモノが増えた様な実感は感じられなくも無い。
そんな事を考えながらフィフスの紹介ページを読み終え、シクススのページを開くのだった。




