表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/50

第18話:宇宙カマキリの生態と軍人の生態

いつも通り言われたら確かにいつも通りではあるのだが、今日の戦場はいつもより傾斜が厳しい場所への配属だった。


 と言うか普段は山や森の中と言っても割となだらかで歩いて登れる程度の勾配の場所が多いのだが、今日は完全に斜面を登ったり下ったりと言った感じなのだ。


 昼間読んだ本の中で宇宙カマキリは比較的地形に左右されず自由に動き回る事が出来るが、蟻や蜘蛛の様に反り返った断崖を登る事は出来ないと書かれて居た。


 古代宇宙帝国の異様に進んだ遺伝子工学に依って昆虫のカマキリを改造し生み出された宇宙カマキリだが、ソレでも昆虫と言う枠組みから外れる様な改造は為されて居らず、胴体から二本のカマを持った前脚と4本の身体を支える脚と言う組み合わせ自体はそのままだ。


 その上で通常のそれとは比べ物に成らないくらいの巨体へと成長する様に改造されて居るのだから、足場を選ぶと言う部分では本来の大きさのソレとは比べ物に成らない程に、行ける場所は限られる様になっている。


 更に言うならば頑丈で圧倒的な力を持つ巨大な身体を得たのと引き換えに飛行能力も完全に失っい、水に浮かぶ様な軽さもないので水の上を移動したり泳いだりする様な事もないと言う。


 故に奴等は海やある程度以上の深さを持つ川を渡る事は出来ない為、ある程度以上大きな島や大陸を制圧する事は出来るが、小さな島なんかでは動物が生き残る事も有るらしい。


 そうなると当然、海の中で暮らす海獣の類や魚介類に空を飛び交う鳥なんかを含めて結構な生き物が残る事に成る筈なのだが、制圧用の生物兵器としては欠陥品なのでは無かろうか?


 とは言え古代宇宙帝国の時代に、今の銀河連邦同様【人工的に自然な生態系】を生み出すレベルのバイオテクノロジーが既に有ったのであれば、地上の生物を殲滅仕切った上で植民地として入植するのは可也簡単な事だったのだろう事は容易に想像が出来る。


 古代宇宙帝国時代の歴史や銀河連邦共和国を構成する星系国家なんかに関する書籍は、未だ読んで居ないので詳しい事は分からないが、少なくともNASAが公式発表した画像に登場した宇宙人は【人間】の範疇に有った様に思う。


 ただ気になるのは宇宙カマキリ関連書籍にも記載されて居た【ゴブリン】や【オーク】と言った亜人 (デミヒューマン)強化人間(ブーステッドマン)と呼ばれる、改造された人間と思しき種族の存在だ。


 シン達マーセが銀河連邦から功績に応じたポイントを支払い購入する事が出来る様々な物は、当然ながらそのままの状態では読む事は出来ないし、映像作品に付随する音声なんかも意味を知る事は出来やしない。


 けれども専用端末を使う事で、チップで行われているのと同レベルの自動翻訳が行われる為に、日本語と日常会話+ゲーム用語程度の英語しか出来ないシンでも、銀河連邦で流通している書籍が読めると言う訳だ。


「はぁ!? ちょ……待ってくださいよ! なんで俺が……え? マジで言ってます? いや確かにこの身体は死んでも死にやしないですけど、痛いは痛いんですよ!? まぁそこまでヤれって言うならノーとは言えませんけど……了解(ラージャー)


 シンが周辺を軽く見渡しながら昼間読んだ書籍の内容を反芻して居ると、唐突に軍曹が声を荒げて誰かに怒鳴り返した。


 恐らくは個別通信で小隊長より上の者から何らかの理不尽とも言える指示を受けたのだろう事は誰の目にも明らかだったが、今この場に居る者全員が【勘弁してくれ】と心の声を一致させていたのは間違いない事実だ。


「ファッキンシット! 俺達には栄誉ある一番槍をプレゼントだとよ! 指定されたルートを兎に角最速で凸ってリッポプしまくれだとさ! 少しでも遅れたらリアルの身体でケツをファックしてやるとまで言いやがったぞ! あのスケベジジイ!」


 サブボディの容姿は男の様にも女の様にも見えなくもない中性的な顔立ちで有り、怒り故だろうが顔を赤らめて居る軍曹の表情は何処と無く艶っぽい物を感じさせなくも無い。


 日本語の様に様々一人称を持たない英語で話している筈の軍曹のセリフが【俺】と翻訳されるのだから、それ相応に荒っぽい喋り方をして居るだろう事は容易に想像が付く。


 そんな人物の【ケツをファックする】なんのは、軍隊特有の下品なヤジの類なのだろうが……スケベジジイと呼ばれた者の人物像も気になる所だ。


「あの……分隊長殿、その命令は誰が発した物なのでありますか? 余り理不尽な命令ならば運営にハラスメントを訴える事も出来ると自分は聞いておりますが……」


 妙にしゃっちょこばった物言いの日本語で分隊員の一人が、軍曹にそんな言葉を投げかけた。


「今日の中隊長様だよあのエロジジイ、とっくの昔にシモなんざぁ使い物にならなく成ってる様な歳の癖に、未だに松山辺りで女を口説いているらしいからなぁ。退役したならさっさと本国(ステイツ)に帰れってんだ!」


 松山と言うのは沖縄県那覇市内に有る歓楽街で、札幌で言うススキノの様な場所らしい。


 そんな所に出かけていると断言出来る辺り、軍曹と中隊長はリアルの方でも顔馴染なのだろう。


 老いてなお盛ん……といえば聞こえは良いかもしれないが、そんな爺さんとおホモダチには成りたくは無い。


「いやあの爺さん嫁さんは日本人だった筈だし、息子さんやら孫やらも沖縄に居るんだから、もう完全に日本で骨埋める気でしょうよ。アメリカ国籍を抜いて日本国籍を取るかまでは知らないですけど」


 軍曹と同じく沖縄駐屯兵らしい別の分隊員がそんな言葉を口にする辺り、今日の中隊長に任命された人物は、沖縄米軍ではそれ相応に知られた人物のようである。


「……まぁ軍人なんて今の時代、どいつもこいつも俺も含めてろくでなしの吹き溜まり見たいなモンだしな。マトモな頭有る奴は何期か勤めて金貯めて大学でも行ってから、真っ当に就職すりゃもっと良い暮らしが出来るってなもんだ」


 ため息を一つ吐いてからそう言う軍曹の言に拠ると、アメリカ軍と言う場所は上の方に居るエリート様はガチガチの愛国主義者の集団で、下っ端の方は大概は金銭的理由で大学に進学出来なかった様な者達なのだそうだ。


 ソレでも夢の有る者は一定期間を勤め上げ、その間に進学と学生生活を送るための費用を貯めて円満除隊し、ソレからキャリアを積み上げるのが普通で、大学受験に失敗した者なんかは元軍人の肩書を背負って警察官なんかになる事が多いらしい。


 そんな中で軍曹はと言えば両親が共に沖縄駐屯兵だったそうで、沖縄で生まれ育ちその地に愛着は有るが、血統主義を取る日本の国籍は日本生まれでも取れない為に、米国籍でも日本でずっと暮らし続けたい……と沖縄米軍を志望したと言う変わり種だと言う。


 アメリカ軍に入隊する為には、一定期間はアメリカ本国で暮らしていた実績が必要だった為、中学の終わり頃に両親の実家を頼って渡米し、向こうで高校ハイスクール生活を終えて、改めて入隊して日本への配属を熱望しソレが無事にかなって今があるのだそうだ。


 その上で【スケベジジイ】と言う人物は両親の元上官でも有った者で、子どもの頃から可愛がってくれた人で有る事は確かだと言う。


「あの人も行こうと思えばもっと上に行けたって話だからなぁ……まぁガチガチの愛国主義者って訳でもないし、上の連中と反りが合わなかったけど、今更日本で別の仕事探すなんてのも無理だったんでしょうねぇあの気質じゃぁ」


 訳知り顔でそんな言葉で軍曹に相槌を打つ分隊員に言わせると、新兵を罵りながら鍛える映画で有名な鬼軍曹のモデルだと言われても信じてしまいそうな性格の人物だそうで、アレが民間で仕事をして居るのは考えられないとの事だ。


 ちなみに中隊長を任されている以上は最低でも士官学校を卒業した将校で、彼の現役時代の階級は大尉だったそうだ。


 軍隊に詳しく無い者だと大尉は割と下の階級と勘違いしがちだが、士官学校自体がかなり偏差値の高い学校であり、そこを卒業して居る以上は少尉でも十分にエリートと言えるのである。


 対して分隊長の持つ三等軍曹と言うのは下士官と呼ばれる地位の中では最低ランクでは有るものの、兵卒の中から登り詰めるには相応の期間と苦労が必要となる地位だ。


「あー! もう! グダグダ言ってても仕方ねぇ! ゲームチャンプ、どんだけ俺達が痛い思いをしなくて済むかはテメーに掛かってんゾ!  総員突撃用意!」


 その辺の機微を良く知らない民間人であるシンは、先程質問を口にした恐らくは日本人だろう分隊員を含め他の者達と共に、愚痴まじりながらそう指示を出す軍曹に対して


「「「「サーイエッサー!」」」」


 と返事を返す事しか出来ないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ