第10話:夕方のテレビ番組とマスコミ対応
『ショッキングな映像が流れます、苦手な方は10分程テレビのご視聴をお控え下さる様にお願い致します』
警察の記者会見を映して居た画面から、何時ものスタジオに場面が転換し、暫しのトークを挟んだ後、司会の男性アナウンサーがそんな言葉を口にする。
記者会見では民間人の怪我人は出た物の死者は無く、自衛隊と警察が身体を張って彼等を守ったと言う様な事が強調されて居た。
普段ならば新聞記者やテレビマンから警察や自衛隊の対応に厳しい意見が飛ぶ様な案件だったが、そもそもの発端がマスコミ関係者が色気を出して宇宙カマキリに近づき過ぎた事から被害が拡大したのだ。
その辺をほじくり返して逆に火傷を負う事を避けたのだろう、と裏側を知っているシンが見ればなぁなぁの馴れ合いで終わった記者会見にしか見えなかった。
とは言え、その辺の事情は先程北海道警察のお偉いさんだと言う人との面談で、何となくどう言う方向で行くのかは聞いて居たので然程驚きは無い。
問題は此れから流れると言う映像の最中に掛かってきて、その後映像が終わると同時に司会のアナウンサーへと通話を繋げると言う段取りで行われるインタビューの方だろう。
一応は台本の様な物を警察の方から渡されたので、ある程度はソレに沿って話をすれば良いとは思うが、テレビ局側と結託して作った物と言う訳では無いらしいので、アナウンサーがコレに沿った質問をして来るとは限らない。
とは言えテレビでは無いがゲームでも大きな大会ならば、ヒーローインタビューの様な物を受ける事は割と良く有る事なので、極々普通の一般人と比べればインタビューと言う行為その物に慣れている分、その場でアドリブを効かせる事位は出来る筈だ。
そんな事を考えている間に中央警察署の応接間に置かれたテレビでは、宇宙カマキリが自動車を両断し中に居た人間を襲おうとした所に、駆け付けた自衛官と警察官が必死で民間人を逃がし犠牲になる姿が映って居た。
……映像には軽くぼかしが入って居るが故にRー18と言う程では無いが、確かにショッキングな映像で有りボカシがなければスナッフ・フィルムの類と言われても仕方の無い光景が地上波で流されている。
コレは視聴率を狙った過激な映像の垂れ流しでは無く、宇宙カマキリと言う災害が身近に迫っているのだと言う警鐘の為の報道なのだろう。
と、そんな画面にサイクルジャージ姿のシンが映り込んだ辺りで、応接机の上に置いてあった携帯電話がけたたまし着信音を響かせる。
「はい、もしもし橘です。ええ、丁度見てましたよ。はい、はい、事前に聞いていた通りの流れですね。はい、わかりました。逆にこう言う事は言って欲しく無いとかそう言うのは……ええ、あ、無いんですね。完全にアナウンサーさんに合わせればOKと……」
どうやら今回のインタビューは本当に宇宙カマキリの危険性を視聴者に知らしめるのが目的で有り、余計なセンセーションを振りまいて数字を毟り取ろうと言う物では無いらしい。
マスコミにも……特に報道部を志す様な者の中には相応に善意有る者も居るのだが、シンには今までの経験とネットで流布される所謂【マスゴミ】と言う見方に毒され過ぎている部分が有るのだろう。
事実として飲食店への取材の際に食事代を払わない……とか、撮影現場を勝手に通行規制したり……とか、自分達が特権階級で御座いと言わんばかりの行動をする者は居るが、ソレがマスコミ関係者の全てと言う訳では無いのだ。
結局の所、そうした行動を取るかどうかと言うのは個人個人の資質に依る物で、総体としてマスコミは邪悪な存在である……と考えるのは間違いだろう。
『では現場で対応したマーセの方にお電話が繋がっています、もしもし?』
「はい、よろしくおねがいします」
『事前の映像でも有りました様に、普段は怪我をしても平気なサブボディを使ってのお仕事ですが、今回は生身でアレと向き合う事に成った訳ですが、正直な話恐怖とかその様な物は感じなかったんですかね?』
「いえ、当然、怖かったですよ。普段なら怪我をした所で身体を取り替えてしまえば痛みも何もなくなりますが、今回は怪我をすれば治るまでずっとソレを抱える事になりますし、ヘタをすれば命を落とす可能性も有った訳ですからね」
『それでも貴方が勇気ある行動を取ってくれたお陰で救われた命が有る訳ですが……』
「ありがとうございます」
『ではこれから先、宇宙カマキリがまた人里に降りてきた場合には私達一般人はどの様に対処をするのが良いのでしょうか?』
「宇宙カマキリは動く物を獲物として認識し襲いかかってくると言われています。嗅覚や聴覚なんかは他の肉食獣に比べると劣って居る様で、視覚に頼った狩りをするんですね。なので先ず第一には見つからない様に物陰に隠れたりするのが良いでしょう」
『今回は自動車に乗って居る人も襲われた様ですが、自動車に乗っている時に遭遇した場合にはどう対処するべきなんでしょうか?』
「基本は同じですね動かない事です。今回は恐らく慌てて逃げるかなにかして、獲物だと認識されてしまったんでしょう。宇宙カマキリが人里に降りてきた場合には、兎に角隠れる事動かない事が第一です。熊相手に死んだふりは効きませんが奴等には効きますので」
宇宙カマキリが動く物を獲物として認識する……と言うのは、マーセならば誰でも知っている事実で、彼等が向かう戦場では慌てて急いだ行動をする者から餌食になると言われている。
「もしも見つかってしまった場合には、直ぐに襲って来ない様ならば未だ此方を獲物として認識して居ないので、一旦動きを止めてゆっくりと……本当にゆっくりと少しずつ後退りして距離を取って下さい。振り向いたり走ったりすると直ぐに襲われますので」
……敢えて言葉を濁して居るが、既に獲物として認識されて居る場合には最早手遅れで、今回のテレビスタッフの様に、かなり運が良くなければ鱠切りにされてムシャムシャと宇宙カマキリの腹に収まる未来しか待って居ない。
正直な話、宇宙カマキリとの戦いに培養された予備肉体を使うのは、予算の都合と言う側面も有るが倒されたソレを捕食して居る間と言うのが明確な攻撃のチャンスとなるから……と言う面も有る。
予備肉体として使える物としては、完全に工業生産された機械式の物もあるのだが、培養式のソレが設備と必要な養分さえ有れば後は簡単に量産出来るのに対して、機械式は様々な希少金属が必要で有りコスト面がかなり割高になるのだ。
無論、そのお値段に見合う性能を持たせる事は十分に可能なのだが、今度はソレを使い熟す事が出来るユーザーが居るかどうかと言う問題に成ってくる。
機械は高性能で有れば有るほど良いと言う物では無く、使い熟す事の出来ない過剰スペックの機体なんざぁ有っても産業廃棄物と変わらないのだ。
未だ買ったばかりで目を通してすら居ない電子書籍の中には、宇宙人達の軍隊に関する書籍なんかも含まれているので、もしかしたらそうした高スペックな機械式予備肉体を使い熟す部隊なんて物も有るかも知れないが……少なくとも地球人には早すぎる物である。
一応、マーセとして稼いだポイントを使ってそうした特注の予備肉体を買う事は出来なくは無いのだが、一番安い物でも量産式の培養予備肉体を千体纏めて買ってもお釣りが来る価格といえばコストの差が分かるだろうか?
『それでは本日は真に有難うございました』
「はい、失礼致します」
……その後も警察から貰ったマニュアルを逸脱する様な質問は無く、無事にインタビューを終えて携帯電話を置いたのだった。




