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第6話 「燃ゆる誓い、剣に宿して」

試合後、セイジュはすぐにお母さんの試合結果を見に行った。

 無事、勝っていたらしく、ほっと胸を撫でおろす。


 ――そして、ついに準決勝。

 相手は、お父さん。

 かつて「蒼嵐の盾」と呼ばれた、鉄壁の守りを誇る男だ。


(……隙をつかないと勝てない)


 短い休憩を挟み、試合開始の時間がやってきた。

 セイジュは覚悟を決め、会場へ向かう。


 スタートの合図が鳴り響く。


 最初は互いに慎重に間合いを詰め、隙を伺う。

 剣と剣が鋭くぶつかり合う音が何度も響いた。


 だが、そう長くは続かなかった。


 セイジュがほんの一瞬、剣を振る手を休め、次の手を考えようとしたその瞬間――


 お父さんが一気に間合いを詰めてきた。

 そして、渾身の一撃をセイジュの腹めがけて放つ!


 ドゴッ!


 避ける間もなく、セイジュは腹を打ち抜かれ、よろめく。

 しかし、必死に立ち上がった。


(……魔法を打つ余裕なんてない)


 セイジュは冷静に、お父さんの癖を思い出す。

 攻撃の後、わずかに横腹に隙ができる――!


 その瞬間を狙い、短剣を振り抜く。

 だが、予想以上に早く反応したお父さんに剣で弾き返される。


 さらにその勢いのまま、拳がセイジュの胸元に炸裂した。


 ボフッ!


 吹き飛ばされたセイジュは、場外ギリギリでなんとか踏みとどまった。


 だが、もう立つのも限界だ。

 それでも、セイジュは最後の力を振り絞り、剣を構える。


「うああああああっ!!」


 渾身の気合と共に、お父さんの頭目がけて剣を振り下ろす。

 しかし――


 バシッ!


 お父さんは素手で剣を止めた。


 そして、すかさず腹へ渾身の一撃。


 ドゴォン!


 セイジュは、今度こそ立ち上がれず、倒れ込んだ。


 ――負けた。


 悔しさと、ほんの少しの誇らしさが、胸に広がる。

  大会の最後を飾るのは、お父さんとお母さんの決勝戦だった。


 スタートの合図とともに、二人は間合いを詰め、一気に剣を交えた。

 あまりに速い攻防に、観客席からは「速すぎて見えない!」という声も上がる。


 お父さんは剣のみでの戦い。

 対して、お母さんは魔法も使えるはずだったが、一切魔法を使わず剣のみで応戦していた。


 そして、激しい応酬の中――

 お母さんが、お父さんのわずかな隙を突き、見事に勝利を収めた。


 優勝は、お母さんだった。


「俺、来年も出たいな!」


 セイジュは嬉しそうにそう宣言すると、両親も笑って頷いた。


 その夜、大会の疲れが一気に押し寄せ、家族全員、宿でぐっすりと眠り込んだ。


 ――そして、翌朝。


「今日からは、山へ向かうぞ」


 お父さんの一言で、再び旅が始まった。


 それから二週間ほど歩き続け、ようやく目的地に到着した。


 そこは、言葉を失うほど美しい景色が広がる大自然だった。


 清らかな川、透き通る空、鳥のさえずり。


 二日間のキャンプ生活を満喫し、心も身体もリフレッシュしたセイジュたちは、再び歩き始めた。


 帰り道も二週間。

 マルク王国へ戻ると、旅に出てからちょうど一ヶ月と二日が経っていた。


(……楽しかったな)


 そう思いながら、残り二ヶ月の休みをのんびり過ごせるとセイジュは思っていたが――


「さて、次の修行場所ももう決めてある」


 お父さんの冷静な宣言に、セイジュは思わず固まった。


(……え? もう!?)


 新たな試練が待ち受けているとは、このときセイジュはまだ知らなかった。

 お父さんは、すでに次に出る大会を決めていた。


「次は、アルクス王国の“魔法格闘大会”だ」


 アルクス王国――それは、今セイジュたちが暮らしている国であり、お父さんとお母さんの故郷でもある。

 毎年一度、国を挙げて開かれるその大会は、剣術や格闘だけではなく、魔法を交えた本格的な実戦形式で行われる。


 力だけでなく、魔法の技量、判断力、総合力すべてが問われる――そんな厳しい戦いだ。


「もちろん、出るだろう?」


 当然のように聞いてくるお父さんに、セイジュは苦笑しながらも頷いた。


(今度こそ……絶対、勝ってみせる!)


 セイジュは心に新たな決意を灯すのだった。


  大会まで、あと二日。


「練習する時間は……ほとんどないな」


 セイジュは空を見上げ、深く息をついた。

 前回の大会で負けた悔しさは、まだ胸に残っている。だが、今回は時間が足りない。

 今の自分の力――それだけで戦うしかなかった。


 しかも、今回の「アルクス王国魔法格闘大会」は個人戦だけではなく、団体戦もあるという。

 仲間との連携が勝敗を分けるチームバトル。個々の実力に加えて、連携力や支援の魔法、作戦の柔軟さが問われる。


「個人戦はもちろん……団体戦、どうなるんだろう」


 セイジュは少し不安そうに呟いたが、それでも目の奥は燃えていた。


(できることをやるだけだ。前よりも、強くなってる)

 大会まで、残された時間はあとわずか――わずか二日。練習する時間はもうほとんど残されておらず、今の自分の力でやり抜くしかない。


 今回のアルクス王国 魔法格闘大会は、個人戦と団体戦の二部構成になっている。

 

 個人戦は2日間にわたって行われるトーナメント形式で、前回大会と比べて対戦回数は2倍に増えている。つまり、単純に戦う回数も体力の消耗も倍。4歳の身にはかなりの負担だ。どこまで戦い抜けるかは、まさに限界との勝負になるだろう。


 それでも、個人戦で勝ち進めば、自身の実力を堂々と証明できる。名誉はもちろん、将来の魔法騎士団への推薦枠にも大きく影響するため、出場を見送るという選択肢はない。


 一方で、団体戦は少し様相が違う。家族3人――父・レオン、母・セレナ、そしてセイジュのチームで出場する。形式はモンスター討伐型のスコアバトルで、1ヶ月半という長期間をかけて行われる大規模戦だ。


 参加チームは毎日、指定された討伐エリアに向かい、モンスターを狩って得点を稼ぐ。モンスターの種類や強さは日を追うごとに変化し、特に後半になると、AランクやSランクといった強敵も出現するらしい。どれだけ効率よく、連携してモンスターを倒せるかが鍵を握る。


 幸い、父は鉄壁の盾を持つ剣士「蒼嵐の盾」、母は伝説の治癒師「聖なる白薔薇」。セイジュはまだ未熟ながらも、“神に選ばれし才能”を持つ。攻防支援が揃った理想的なチーム構成といえるだろう。


 残された二日間、家族三人はそれぞれ大会に向けての準備に集中していた。


 セイジュは、その短い時間を最大限に活かすため、火属性魔法の強化と習得に全力を注いでいた。特に今回は、まだ習得していなかった火の中級魔法二種――**「炎切り(フレイムスラッシュ)」と「炎のフレイムバインド」**の修得を目指した。


 炎切り(フレイムスラッシュ)

 詠唱:「刃よ、熱をまとい、敵を断て!」

 効果: 剣や斧などの近接武器に炎を纏わせ、斬撃に火属性の追加ダメージを与える。命中時には爆ぜるように炎が拡散し、対象に追撃的な熱傷を与える。


 武器と魔法を同時に扱うこの魔法は、剣術と魔法の融合を目指すセイジュにとって、理想的な技だった。最初は武器に炎がうまくまとわず、魔力が暴走しかけることもあったが、繰り返すうちに炎が刃に安定して宿るようになり、彼の斬撃は見る者に畏怖を抱かせるほどになった。


  炎のフレイムバインド

 詠唱:「拘束せよ、紅き鎖!」

 効果: 敵の手足に紅蓮の炎で編まれた鎖を絡ませ、数秒間その動きを封じる中級の拘束魔法。強力だが、高い集中力と明確なイメージが必要とされるため、実戦向きに使いこなすには慣れが必要。


 セイジュは、魔力制御の修行も兼ねて、この魔法の練習にも力を入れた。炎の鎖が空を走るたび、彼の集中力は研ぎ澄まされていき、ついには対象の影に炎を発生させ、そこから鎖を這わせるという応用まで見せるようになっていた。


 短いながらも濃密な二日間の訓練を経て、セイジュはしっかり強くなった。

「これで……あの激戦にも、きっと通用するはずだ」


 不安を振り払うように呟いたその声には、確かな自信と覚悟が宿っていた。

 セイジュは、繰り返しの訓練と集中の末、ついに大会前日の夜に目標としていた火の中級魔法――「炎切り」と「炎の縛」の両方を習得することができた。魔力の流れは安定し、詠唱も淀みなくこなせるようになっていた。


 「……よし、間に合った」


 息を吐きながら、セイジュは静かに天を仰いだ。夜空には星が瞬き、まるで明日の戦いを祝福してくれているかのようだった。


 その晩、セイジュは心地よい疲労と達成感に包まれながら、布団に入った。


 「明日は、全力を出しきるだけだ……」


 そう小さく呟いて、セイジュはそっと目を閉じた。

 そして――

 彼は深く静かな眠りへと落ちていった。明日、自分を試す大舞台が待っている。


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