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死というのは単純なもので。ただ単に家の階段から足を踏み外し,頭の打ちどころが悪かったようで痛みを感じる暇もなく意識が飛んだ。
光を感じたのは,これが最期だった。
そして次に光を感じ目を開けたのが,この私,グレイシス・ウェルタだったって訳。前世の私,古村咲良は,自分がかねてより就職したかった一流企業の面接を受けた。
するとまあびっくり,受かってしまったのである。当然家族も,自分自身も喜んだ。
交渉術に長けていたというのが大きな要因なのかも知れない。
昔から,人当たりだけは良かった。どうすれば相手は私のことを気に入ってくれるのかを考えるのが得意だった。おかげで,友達も多かった。よく言えば社交性に優れていて,悪く言えば人の心を弄ぶことができる。
正直,この力を持っていて良かったと思った。人に好かれるなんてなかなか出来ることではないし,人生を有利に進められる。
そして,性格が悪いからだ。
人の心を操ってまで自分を気に入られなくてもいい,とは思わない。使えるものは使う主義だから。そう,あくまで表面上だけ。内面までは知って欲しいとは思わない。それでこっちが不利になったら嫌だから。
というふうに,根っからの性悪だから,別にこの力を恨んだことはない。
面倒臭い事件に巻き込まれて困っている人も,手を差し伸べることはできないし,赤の他人を自分の命を賭してまで助けることも出来ない。むしろ首を安直に突っ込んだら,それこそ迷惑になるのではないか。
自分が出来るという確信がある場合にだけ,手を差し伸べる。敗北率百%の勝負をわざわざしたくはない。
一応大雑把でも良いから調べて,それから行動に移す。
これが古村咲良の生き方だ。
周りから見たらおかしいと思われるだろうか。別に言われたところで変えるつもりは無いけれど。