ーー長い長い1日ーー
朝が来た。清々しいとは言えない朝だ。昨夜はケルトさんと寝ていたはずだがイリウスが起きた時にはケルトさんは居ない。きっと家事をしに行っているんだろう。
イリウスは1人で起き上がり、1人で洗面台に行き顔を洗う。そして1人で昨日買ってもらった服に着替える。着替えてる途中、突然涙が溢れる。イリウスは苦しかった。少し肌寒い空気に触れながら余計に涙が溢れてくる。ケルトさんの温もりも、優しさも、離れてしまったらもう感じることは出来ない。そう思いながら涙を拭き取りリビングに行く。
「おう!おはよう、イリウ…ス?」
突然抱きついてきたイリウスに驚きつつもケルトさんは察して自分の心を落ち着かせる。そうして何かを思う。
「そろそろ飯だから席に座っててくれ」
そう言われて席に行く。
「おはようイリウス。昨夜はよく寝れたか?」
イリウスは首を縦に振る。
(そろそろかの〜)
「主、今日は会議があるのを忘れてませんよね?」
「もちろん、忘れるわけないであろう?」
バクとトラさんは話し込む。あっという間にケルトさんの朝食が完成し、食べる。美味しいが、やはり心はスッキリしない。温かさより心の冷たさを感じてしまう。そうしてご飯を完食したイリウス。皿洗いも終わってみんなが食卓に居る時、ケルトさんがみんなに言う。
「イリウスって本当に帰さなきゃ行けないんですかね」
「何をアホな事を言っている。人間界の人間は人間界に居るべきなんだ、そっちの方が幸せなんだ」
「でも、イリウスはそうは見えません。こいつはこっちに居た方が…」
バン!
バクは机を叩きケルトさんの意見を跳ね除ける。
「少し…疲れているのではないか?今日の家事は全部トラにやらせよう。お前は休んでおれ」
げ、俺?と言ったような顔をしたトラさんだがバクの言うことには逆らわないようにすぐ平常の顔に戻る。イリウスは殺伐とした空気に身を震わせるが、早めに部屋に戻る。
(仕方…ないもんね。だって、そうだもんね…)
イリウスはケルトさんの気持ちも、バクの気持ちも分かる。故に苦しいんだ。何も出来ない自分が、変えられない自分が。
?「これはまずいことになってきたの〜。それだけは避けんとならんな。どう手を打つか」
昼ご飯も食べ終わりイリウスが部屋で勉強をしている。イリウスがトイレに行こうと部屋を出た時、丁度外に行こうとしてるケルトさんを見つけてイリウスも行きたそうに目を輝かせる。
「ダメだぞ、今日は連れて行けねー。ちょっとした買い物だ。すぐ戻る」
そう言い残し外に行ってしまった。イリウスは思い出したかのようにトイレに行き、自室に戻る。その後、バクに話に行く。
「どうした?我に何か用か?」
イリウスは自分が帰りたくない旨を頑張って伝える。だがやはり良い答えは帰ってこない。
「それはダメなことなんだ。ルールにそぐわぬ。それに人間にはちと危ない世界だ。妖怪の件もあったであろう?我が教えたサバイバルの知識を人間界で奮った方がまだ安全だ。我が言うんだ、安心せい」
そんなこんなでイリウスが考え事をしていると、気付いた時にはケルトさんが帰ってきていて、気付いた時には日が沈んでいて、気付いた時には寝る時間だった。いつも一瞬に感じていた1日だが、今日は異様に長く感じた。もう寝ようとベッドに着いた時、ドアが開く。
「明日、ちょっと朝早くに出かけようぜ!起こしに来るからちゃんと起きろよ?」
それだけ言い残して自室に行ってしまった。