ーー身だしなみ2ーー
色々ありケルトさんと散髪と服を買いに行くことになったイリウス。靴を履き準備し、ローブに手を伸ばす。
「今日はローブは要らねーぞ。あいつには多少説明しなきゃいけねーしな」
ケルトさんはそう言い、イリウスからローブを取り上げポールハンガーにかける。イリウスは少し不安な気持ちを抱えながらも外に出る。
この前の商店街とは打って変わって少しお洒落な所に着いた。服屋やアクセサリーショップが並んでいる。その中でも行列の出来ている店がある。
「今日も相変わらずだな」
そうボソッと言い列を無視して店の中に入ろうとする。イリウスは流石にダメなんじゃないかとケルトさんの服を引っ張るが持ち上げられて無理矢理店に連れ込まれる。
「あらー?次のお客さんはまだ通しちゃダメよー?ってあら!ケルトちゃんじゃないの!」
「よっ。邪魔するぜ、リア」
ハサミとクシを持っている人やドライヤーをかけている人がたくさんいる。散髪屋に来たのだ。イリウスはその中の広さに驚いた。中には20人以上のお客さんが入っている。
その中で唯一反応した人物が居る。黄色がかった白めの毛色に黒目の犬獣人だ。女の人みたいでケルトさんに慣れている様子だ。
「今日も相変わらず大胆ね〜行列を無視してくるなんて〜。この人終わったら切ったげるから待っててねん。いつもの切り方で良いの〜?」
「それなんだがな。今日は俺じゃなくてこいつを切ってほしいんだ」
そう言いイリウスを前に出す。
「あら〜?バクさんじゃない。うちで切るなんて珍しいわね〜」
イリウスは首を大きく横に振る。
「まぁ事情は後で説明するから、今のやつ早く終わらせてくれ」
「は〜い〜」
そう言って素晴らしい手つきで今切っているお客さんの髪を切る。しばらくもしないうちに終わらせてイリウスの番が来て椅子に座らされる。
「どんな髪型が良いの〜?ちょっと長すぎるからちゃんと切ったほうが良いわね〜」
リアさんは準備を進めながらイリウスに聞く。
「前髪は、まぁちょっとかかるくらいで良い。後はそれに合わせて適当にしてくれ」
「私はバクさんに聞いてるのよ〜?」
「こいつはご主人様じゃねーよ。名前はイリウスだ。ご主人様に顔が似てるが全くの別人だ。それと呪いをかけられていて喋れねー。お前のお喋り相手は出来ねーぞ」
リアさんはあら〜とバクじゃなかったことより喋れないことに残念がってそうだった。
「そうね〜。この子目は大きいし顔も整ってて超可愛いわね〜。確かに長めの髪の方が似合いそうね!男の子っぽさも出してあげるからそこは任せて!」
そう言うとリアさんはまたもや凄い手つきで髪を切り始める。見る見る内に元の姿が想像出来ないくらい綺麗に揃った髪型になる。
ケルトさん達は何かを話していたが、イリウスは眠ってしまって何も聞いて居なかった。
「出来たわよ〜」
「ん〜?」
イリウスはそんな声で目覚める。そして鏡を見て喜ぶ。
「随分すっきりしたじゃねーか。良かったな」
「シャンプーもしてく?切った髪は全部落ちてるけど…」
「じゃあ平気だ。これから服屋にも行かなきゃいけねーからな」
ケルトさんはシャンプーを断り会計を済ませる。イリウスもリアさんに軽くお辞儀をして店を出る。
服屋に行く途中、ケルトさんがイリウスに話し出す。
「言い忘れてたけど、あいつー…リアはあの店の店長なんだぜ。いつも俺の毛とか切ってもらっててよ。簡単に言うと常連なわけだ。基本獣人の毛しか切れねーやつしか居ないんだけどリアは人間の髪の毛も切れるやつなんだぜ。だからお前もあの店使うことになるからな」
イリウスは首を縦に振りながら思った。
(ケルトさん、前より喋ってくれるようになったな〜)
ケルトさんが自分に優しくなってることに喜びを感じている。ケルトさんが何で優しくなってるかは分からなかったけどそんな事どうでも良かった。そんな事を思ってる内に服屋に着く。
ガチャッと言う音と共にケルトさんは扉を開ける。中はキラキラしてて輝いてるものがたくさんある。服も綺麗で一つ一つがとても高そう。
「邪魔するぞ。おーい店長はいるか」
ケルトさんは大声で店長さんを呼ぶ。
「お呼びですかな?ケルト様にバク様。今回はどのような服をお探しで?」
「こいつはご主人様とは別人だ。あんまり時間はかけたくねー。こいつに似合う服とズボン、そうだな、4セット選んでくれ」
「承知いたしました!」
店長さんはそう言ってすぐさま服を選び始める。3分もしないうちに10セットほど持ってきて服をイリウスに重ねだす。いっその事試着してみた方が早いのではと思ったがそんなことをする様子は微塵も感じられなかった。サイズが合わなかったらと焦っていると。
「店長は見ただけでサイズとかは分かるから安心しろよ」
ケルトさんはイリウスの心を見透かしたかのように満点の回答をする。それを聞いて安心している間に4セット選び終わったようだ。
「それではお会計になりますが、30万飛んで6千ローになります」
「ほいよ」
そう言いケルトさんはカードを出して払う。ローと言う単位が知らなかったから勝手に円だと思ったが30万といういかにも高額な数字にイリウスは驚いた。イリウスは震えながらケルトさんに連れられて店を出る。
「なんだ?そんなに震えて…金額の話か?ローは人間界で言う円と同じだと思って良いぜ。30万くらいなら全然安いから安心しとけ!」
円と同じなら大分…と思ったイリウスだったがケルトさんがお金を持っていないようにも見えなかったため任せることにした。




