俺はデブである
糖分、脂質、炭水化物。
彼ら彼女らは取らなければ生きていけない栄養素達だろう。
しかも彼ら彼女らが入っている食べ物は美味い!なんといっても美味い!糖分の甘さは一日の疲れを取るのに最適だし、脂質のある肉や揚げ物は口いっぱいに幸せの油が広がり、そこに白飯という最高の炭水化物を加えればもう箸は止まらず走り出す。
彼らは人間の理性を壊す、云うならば悪魔である!
その悪魔達に負けた俺は今日もまたドーナツを食べ、揚げ物を喰らう。
その悪魔たちに負けた俺は、デブである。
「ゆうと今日も弁当でかかったなあ」
「その豚腹で焼肉出来そうだな!豚バラだけにな!」
「おもんないし豚舐めんなよ!」
俺はデブである。自覚はしてる。だがデブが嫌な訳では無い。
何故なら、俺は確立しているからだ!
デブの特権、この腹は全てを無にする!
通称「愛されデブ」!
俺は何故か恵まれている。オカルト好きでオタクの俺だが、周りには優しい人ばかりでいじめられたことなど1度もない。流石に高校に入った時はいじめられることを覚悟したがそんなことは杞憂だった。ああ、人間って素晴らしい!
「ゆうとまたな!」
「バイト頑張れよ!」
「おう、また明日。」
駅前で2人と別れた俺はすぐさま焼肉屋に向かった。
妙に暑い日だった。
「さっき、俺はバイトと言ったな。あれは嘘だ。」
そう呟き俺はいつもの3000円食べ放題の焼肉屋で一人焼肉を始めた。
この時間が至福!1人で食べたい分だけ焼肉を食える!最高かよ!
運ばれてきた肉は赤身なのにどこか光沢があり、油がのっているのがひと目でわかる。ダメだ、抑えきれない。いつもなら白飯が到着してから肉を焼く所を早めに肉を焼いてしまった。
ルーティーンをいとも容易くぶち破らせる肉の恐ろしさと一緒に最高の焼き加減の至福のひと口を味わった。
口の中でほろほろ解ける感覚、本能的に白飯が欲しくなる。癖になる食感と病みつきになる炭火の風味。火照った口に水を流し込み、喉を潤す。
「美味いっ!この1杯がたまらないつ!」
気づけば白飯と肉は無くなり、おかわりを頼んでいた。肉は糖分も沢山入っている。頭も回るはずなんだが、やはり理性を保てない。
お腹が脹れた頃には元は十分とっていた。代金を払い店を出た時、心臓がキュッと縮む感覚に襲われた。
「うっ...またか...」
俺は毎回この感覚に襲われる。胃もたれの延長線上なのか?
いつもの事なので気にせず俺は駅のホームに座った。
妙に暑い夜だった。
お腹が膨れた俺はあろうことかホームのベンチで寝てしまった。運命は別れた。
「んん...今何時だ?」
スマホを見ると0時を回っていた。
「うわあ!やべえ!終電逃した!なんで駅員は起こしてくれなかったんだよ!」
ん...?すぐに俺は違和感に気づいた。辺りに誰もいない。乗客は愚か、駅員すらいない。おかしい、何かがおかしい。
しかし、こんな状況初めてだ。オカルト好きの好奇心が爆発した。
立ち上がろうとしたその時だった。上の電子板が点灯し、聞いた事のない電車の名前が表示され、聞いたことない場所が表示された。途端思った。
「いかなきゃ...」
何を思って体が動いたのか覚えて居ない。催眠にでもかけられたかのように線路に飛んだ。いい気分だった。恐怖も痛みも記憶もほぼない。ただ、いい香りがしたな。視界が無くなった。俺は消えた。