たまご王子と婚約者の私
応募の都合上、本文は千文字で終わりです。
あと……フレンズではありません。
私の婚約者は王子様。
王位継承順位は、そこそこ低い。
ご公務とかも、本当にそこそこ。
殿下はいつも暇そうで、かと言って遊び歩くような人でもなく。
研究室に籠もって、怪しげな研究三昧だ。
「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に来ましたよーっ!」
研究室には誰もいなかった。
私の馬鹿みたいな大声だけがむなしく響いた。
「でんかーっ!」
もう一度呼び掛けてみた。
やっぱり誰もいない。
「おかしいなぁ……」
ここには殿下と私以外は入ってはいけない決まりだ。
だけど、知らずに入る人がいるかも知れないし、色々とおかしな物も置いてある。
問題が起きないように、いつもは鍵を掛けている。
「んんっ……?」
部屋の中をよく見ると、その『おかしな物』の中に……見慣れない物が紛れていた。
「卵……?」
大小様々な卵だ。
ケースに入っていたり、緩衝材に包まれていたり。
「まさか殿下……」
卵になっちゃった!?
人間から一気に退化して、生まれる前の原初の状態にまで戻ってしまったのだろうか。
もちろん、普通に考えれば、そんなわけはない。
だけど、うちの殿下は……なんでもありなのだ。
へんてこな魔法で卵に変身する可能性も……なくはない。
「殿下……この中に……」
色も形も全部違う。
殿下が交ざっていたとして、私は見分けられるだろうか。
「白い卵……」
白は殿下の白衣の色だ。
研究者っぽく見えるので、好んで羽織る。
「小さい卵……」
人の頭より大きな卵もあるけど、なんだか殿下らしくない。
殿下はどちらかと言うと小柄だから。
「赤い、青い、まだら模様、細長い……」
私は殿下のことをどれだけ知っているのだろう。
人間には多面性がある。
遊び歩くような人ではないというのも、私が勝手にそう思っているだけだ。
「……卵。どれでも……」
あんなことを言っていた。こんなことが好きだった。
今ちょっと思い出したようなことで決め付けて、らしいとか、らしくないとか。
卵の種類は色々で、中の様子は見えなくて。
私は大声で呼び掛けて。
殻の中からはみ出る、見えないはずの中身。
いつか殻が割れて、私の知らない殿下が生まれてくる。
「ああ、婚約者殿、来ていたか」
後ろから声がした。
振り向くと、私の知っている殿下だった。
「その標本、置き場所がなくて預かったんだ。面白いだろう」
正直ほっとした。
殿下は卵になってはいなかった。
だけど施錠しない不用心さには腹が立ったので。
「殿下!」
私の卵の殻が割れて、それは殿下の知らない私。