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DD戦士  作者: 椎名未聞
8/22

8 護衛

 花殺は暫く陽介を見て、口を開いた。「覚悟があるのはいいけど、人を斬ることに熱心すぎると、ちょっと心配だわ」

「いやこれは人を斬るというより、罪を斬るだろう。悪いペルソナを消せばよりいい人になって、あいつのためにもなるから、別に殺人じゃないだろう」

「そう簡単ではないけど、まあいっか。敵の正体を特定したら、次はカードを手に入れるのだ。今回の敵は見た通り火属性だから、水が有利はずだ。ちょうどいい、今回はこの鮫ちゃんのカードを使おう」

「じゃあ一旦帰って護衛になってやろうか」

「ええ、そうだね」

 そして二人が現実世界に戻り、陽介はまたパソコンの前に座った。

「メンバーシップ」ボタンをクリックして、「護衛」を選ぶと、確認ダイアログボックスがポップアップした。

「3000円かかってこれから一ヶ月間鮫姫珊瑚の護衛になります。よろしいですか」

 陽介が「はい」ボタンをクリックすると、配信ルームに新メンバーを歓迎するCGが流され、コメント欄にも「『邪眼剣王』様、鮫姫珊瑚の護衛になってくれて、ありがとうございます」という自動メッセージが現れた。

 ちょうど一曲歌い終わった鮫姫珊瑚もすぐそれに気づいた。「えっ、新メンバーですね。ええと、邪眼剣王さん、鮫ちゃんの護衛になってくれて、本当にありがとうございます。これから仲良くしよう、短い時間しか残っていないけど、よろしくお願いしますね」

 陽介はコメントを一つ送った。「鮫ちゃんの単推しです(今月限定)」

 鮫姫珊瑚はそれを読み上げて、笑って言った。「何その『今月限定』って、つまり来月は他の女のところに行っちゃうってことかな、このDDが。でも鮫ちゃん優しいから、許してあげるわ、へへ」

 この間、コメント欄も賑やかになった。

「うわ、こりゃめっちゃガチだわ」

「あっ、バカがいる」

「気前がよいぞ、兄ちゃん」

 ……

 陽介はコメントを気にせず、花殺に聞いた。「これで良いか」

 花殺は手を伸ばした。「ええ、カードは既に手に入れたわ。じゃあもう一回行こう」

「またかよ、面倒だな」と言いながら、陽介はやはり手を伸ばした。

 この時花殺はふと手を下ろした。「いや待って、配信ルームを閉じて、あんたのマイルームに切り替えろ」

 陽介がウエブページの右上にある「マイルーム」ボタンをクリックして、画面は配信ルームから陽介のプロフィールに変えた。

「これか」と陽介が聞くと、花殺は頷いてもう一度手を伸ばした。


 モニターに入ると、今回着いたのは広い和式の部屋だった。

 入った途端、陽介は感慨深く言った。「いい部屋だな」

「それはそうだろう、あんた自分自身の心象風景だからな」と、花殺は言った。

「そうなの?じゃつまり、僕はこの部屋を思うままに変えられる、何でも思えば出せるってこと?」

「理論的にはね」

「じゃあちょっと試してみよっか」と言って、陽介が目を瞑ると、花殺は言った。「生き物は出せないから、美少女なんか思っても無駄だからな」

「人の心を読まないでくれんか」陽介はため気をついて目を開けたら、何かを思い出したように、「いや待って」と言ってまた目を閉じた。

「エロ本なんか思っても、極めて細かく想像しなければ、表紙だけの殻しか出ないからな」と、花殺はまた言った。

 陽介は再び目を開けた。「だから人の心を読むな。ってかお前まさか本当に心を読めるんじゃないよな」

「読めねえよ。無駄話はいいから、ほら」花殺は刀を取り出して陽介に投げた。

「あっ、ちょっ、投げるなよ」陽介は両手で刀を受けた。

 そして花殺は一枚の水色のカードを取り出して陽介に渡した。「これがあんたが先程買ったメンバーカードだ、鞘に付けて」

 陽介はカードを受け取って見ると、カードには鮫姫珊瑚のファンネーム「水月」が書いてある。カードを鞘にある四角い窪みに置いてみると、完璧に嵌めた。そして白い鞘は窪みの周りから水色に染まり、間もなく鞘と柄は水色に染まった。

 陽介は驚嘆の声を上げた。「おぅぅ、これは水属性を付与したな」

 花殺は答えた。「正確に言えば、『鮫姫珊瑚』属性かな」

「とにかく抜いてみよう」陽介は右手を柄を握って、ゆっくりと刀を抜いた。刀身も澄んだ水色になり、水晶のように見える、それを見た途端陽介は再び「おぅぅ」と驚嘆の声を上げた。

 しかし刀を完全に抜いたら、陽介は呆れた。

「おい、これ、どういうこと」と、陽介は花殺を見て聞いた。

「ふむ、刀身は伸びたな」

「ああ、確かに伸びた、前回よりはな。でもよ」と言って、陽介は刀を花殺の眼の前に持ち上げた。「柄と同じぐらい伸びただけじゃねえか、けれじゃ相変わらず戦えねえだろうが」

「カードを付けた後、刀身の長さは君がこのカードの主、つまり鮫姫珊瑚への愛が決めるのだ。彼女が好きになればなるほど、武器の完成度が高くなる」

「僕はもう結構好きだと思っているけどな」

 花殺は頭を横に振った。「足りぬ、刀の力を完全に発揮するには、あんたがさっき送ったコメント通り、単推しにも負けない好きな気持ちが必要だ」

「好きな気持ちって、どうやって育てばいいだろう」

「簡単だ、彼女の配信を観て、投稿した動画や文字を見て、彼女の一挙一動を見極めるが良い。こうしてあんたは自然に彼女を理解し、彼女の努力を認め、彼女の才能に惹かれ、彼女の可愛さを知り、やがて心底から彼女を好きなるのだ」

「つまり自分を洗脳するってことね」

「そうは言えなくもないけど」

 陽介は刀を鞘に収めた。「じゃあ早速、戻って配信を観ようぜ」


 陽介は本日の配信を最後まで見届けた。

「皆、今日も鮫ちゃんの歌を聞きに来てくれて、ありがとうございました。次の配信は、ええと、明後日になります。次は歌いながらおしゃべり配信しよう、よかったら遊びに来てね。じゃあ今日はこれで、おやすみなさい」と、鮫姫珊瑚は最後の一言を言い終えたら、間もなく配信ルームは真っ黒になった。

 陽介は背伸びして言った。「いや専念して聴くと、この子歌が上手いな、冗談抜きで。僕は音楽専門じゃないけど。まじでもっと好きになったかも」

「それなら、もう一度刀の長さを見てみようか」と、花殺は聞いた。

「ちょっと疲れたな。あの、花殺ちん、頼んでいい?僕の代わりに刀の様子を見てきて」

「分かったわ、マイルームに切り替えて」

 花殺がモニターに入った後、陽介は独り言を呟いた。「ところで、花殺ちんって呼び方はもう抵抗しないね」

「何ぶつぶつ言ってるの」

「早っ!お、お帰り花殺ちん。どうだった」

「結構伸びたわ、この調子だと、もう一回配信見れば完全な長さになるだろう」

「おおそりゃいいぞ、また明後日の配信を見ればいいだな。じゃあ今日はもう寝ようか、おやすみ」

「ええ、おやすみ」と言い終わると、花殺は動かなくなった。

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