22 解決2
ロビンちゃんの後ろに広場が見える。そこは前日訪ねたことがあるロビンちゃんの配信場所だと、陽介は思い出した。そして陽介は数歩退いて、ロビンちゃんの射程外に出てから振り返って見ると、ロビンちゃんの配信ルームの背景にあった大きな木造の建物が目に入った。ただし前回と違って、今その建物の扉は開いていて、建物の中はクリスティーナ・玉藻の酒場だ。
「なるほど、お前らはずっと同じ世界にいたのか」陽介は再びロビンちゃんに向けて呟いた。
「何言ってるか聞こえないよ」と、ロビンちゃんはまた叫んだ。「とにかく、死にたくなければさっさと出て行け」
陽介は刀を鞘に納め、両手を上げてゆっくりロビンちゃんに向かって歩き出した。「僕はお前の敵になるつもりはない、ちょっと話を聞いてくれないか」
ロビンちゃんは矢先を陽介に向けたまま言った。「なんだ、長い話なら聞かないけど」
「お前が今姉ちゃんと呼んで、守っている玉藻は、お前のイラストをパクった犯人だ」
「そんなこと分かっている。そのイラストは自分が描いたのだ」
「なんだと…それなら、なぜお前は彼女を庇う」
「姉ちゃんがやったことだ、きっと何か理由がある」
「じゃあその理由が一体何なのか、聞いたことはあるか」
「聞いてないわ、必要があれば姉ちゃんがきっと教えてくれるから」
「お前、そこまで彼女のことを信じているのか」
「私をこの世界に連れて来たのは姉ちゃんだ、私が今持っている全ては彼女のお陰様。そんな彼女を信じなくて誰を信じれば良い。まさかあんたか」
話している間、陽介はロビンちゃんの弓から一瞬も目を離していなかった。この時、二人の距離は既にかなり縮まった。
間を置いて、陽介は再び口を開いた。「お前が言ったことは間違っていない、この信じる気持ちはとても大切なものだ。しかし、だからこそ、その大切な信頼が裏切られないために、僕は玉藻の罪を斬らねばならない」
「そんなこと私は絶対許さん」
「是非もなし」軽く嘆いて、陽介はゆっくりと両手を刀にかけると、ロビンちゃんも弓を引き絞った。
この時、ロビンちゃんのいる木の後ろから、玉藻が出て来た。「二人とも、やめて下さい」
陽介はロビンちゃんを見詰めたまま答えた。「悪いけど、そいつは無理だ。こっちはちょっとだけ油断すると撃ち抜かれる状況だからな」
「じゃあロビンちゃんが先に弓を下ろして」と玉藻はロビンちゃんに言った。
ロビンちゃんも視線を逸らさずに答えた。「だめだよ姉ちゃん、あいつが持っているのは刀だけど、きっと遠距離攻撃もできるんだ、風の刃とか。私が弓を下ろすと斬られちゃうかもしれない」
「ほう、分かるか、それはご明察、その通り、遠距離攻撃できるぞ」陽介は素直に認めた。
「分かったわ、じゃあこうしよう」と玉藻は言ってから、杖を捨て、二人の間に立った。そして玉藻は両手を広げ、体が空に浮かび上がって二人が見詰め合っている視線を遮断した。「これで誰も不意打ちなんかできないだろう」
玉藻の意外な挙動に、二人は暫く呆れた。そして、「分かった」と陽介は言って、先に刀から手を離し、ロビンちゃんも従って弓を下ろした。
「うん、これでいい」と、玉藻が言うと、体が突然地に落ちた。
「姉ちゃん!」ロビンちゃんは翼を広げて木の上から玉藻のそばに飛び降りた。
「大丈夫、ただ尻尾が2つ切断されて、魔力が少なくなったからだ」と玉藻はロビンちゃんに言ってから陽介を見た。「あなた、名前は?」
「邪眼剣王だ」と陽介は答えた。
玉藻はまたロビンちゃんを見て言った。「この邪眼剣王さんが言ったのは本当だ。私は悪意を持って君のイラストをパクった、理由はただの嫉妬だ。だから私は斬られるべき罪人、もう君に姉と呼ばれる資格がない」
「そんな、嘘だ、私は信じない」
「ごめんねロビンちゃん、本当だ、全部本当だわ」
陽介は近づいて、ロビンちゃんを見て言った。「聞いたろう、彼女も自らの過ちを認めたのだ。それでもお前は彼女を庇うつもりか」
「ええ、もちろんよ。過ちなんか誰でも犯すものだ、彼女の過ち、私が許したわ。被害者の私が許した以上、あんたがとやかく言う余地もないだろう」
「それは一理あるけど…」陽介は後ろの人に聞いた。「これはどうすればいいかな、花殺ちん」
陽介の後ろに立っているのは玉藻の酒場からゆっくり歩いて来た花殺だ。陽介の質問を聞くと、花殺は言った。「今の玉藻からは悪意を感じていない、彼女の悪意はあんたに斬られた尻尾に宿っていたかもしれない」
「つまり、これで任務完了っていいかな」と陽介が聞くと、花殺は頷いた。「そうね、まだ言い切れないけど、暫く様子を見てもいいと思うわ」
「分かった、じゃあ後は玉藻がパクった事実を公表するだけ…」
「それはだめよ」とロビンちゃんは陽介の話を遮った。「こんなことが皆にバレたら、姉ちゃんはきっと炎上され、卒業を強制されちゃうわ」
「しかしこのままでは、お前ら二人とも炎上されるぞ」
「大丈夫、私には考えがあるの、任せて」
陽介は少し考えて言った。「分かった。じゃあ僕たちはもう帰ろうか、花殺ちん」
数日後、DDsiteを開けた陽介はクリスティーナ・玉藻とロビンちゃんの共同投稿を見た。その文章の説明によると、今回のパクリ事件の原因は絵師の粗忽で、同じ背景を二人のイラストに使ってしまった。謝罪のために、絵師は二人からもらった料金を全額返金する上に、無料で二人のために各々新しいイラストを描く約束をした。二人はそれを納得し、サイバー暴力を防ぐために、絵師の名前を伏せておいた。文章の最後は二人が今度行うコラボ配信を予告した。
「誰もパクってない訳ね、良かった」
「開戦しようと思ったら、かえって友達になったか、最高の結果ね」
「コラボ楽しみ」
と、コメント欄は大体事件の解決に喜んでいるけど、疑っている人もいた。
「絵師がそんなミスを犯すってあり得る?」
「もしかしてお二人はそもそも知り合いで、注目を引くためにわざとパクリ事件を作ったとか?」
コメント欄を見て、陽介は感心した。「どうやら、ネット民もなかなかごまかせないものだな。まっ、僕とは関係ない。今月の仕事はこれで完成でいいかな、花殺ちん」
花殺は頷いた。「ええ、お疲れさん、よくやったわ」
「あぁ、本当に疲れたぞ、探偵ごっこなんか二度とごめんだ」