20 単頂花序
武器が完成したけど、その後考え直すと、陽介はやはり再びクリスティーナ・玉藻とロビンちゃんにを聞き込みしに行くのをやめた。なぜなら、どんな質問を投げかけられば全く良いか分からないし、頻繁に訪ねると、自分が何も分かっていないという事実を相手にばらすだけだ。
次の一週間、家にいる時、陽介は色んな方法を試して、手がかりを探し続けた。
まずは二枚のイラストをよく見比べたが、その結果、何も分からないままだった。森の背景がどっちにもっと似合うかと言うと、もちろんロビンちゃんだけど、クリスティーナ・玉藻のバーチャル世界も異世界風だから、森に立っても別に違和感はない。イラストの画風は優美で細かい、花びらの形まで細い線で完璧に描いた。このスタイルがどっちにもっと近いかと言うと、もちろんクリスティーナ・玉藻だが、ロビンちゃんのモデルは一見して粗末な感じだけど、プレゼントに使うイラストなら、普段と違って繊細に描いても別におかしくない。
そして陽介は事件に関する二人の投稿を巡回して、コメント欄も見たが、何故か二人とも自分に有利な証拠を提出していなかった。どこかで名探偵がいて、誰かが盗作した確証を提示してくれるという期待も予想通り外れた。両方のコメント欄の内容は大体同じく、ただファンたちが自分の推しを応援している。
クリスティーナ・玉藻のコメント欄:
「俺はずっと玉藻ちゃんを信じています」
―「僕も」
―「はいはい私も」
「玉子焼どもよ、戦争が始まったぞ。玉藻ちゃんの為に、腎臓を捧げよう」
―「いや何で腎臓なんだよ」
――「書き間違えた、心臓だ」
―「冗談抜きで、サイバー暴力は良くないよ」
―「ってかこのファンネームで書く宣戦布告、なんか子供向けアニメのセリフのようだけど」
……
ロビンちゃんのコメント欄:
「うちのロビンちゃんはバカだから、盗作なんかできるはずがない」
―「そうだね」
―「確かに」
―「お前ら…ガチかアンチか、一体どっちなの?」
―「そういうバカに見える女こそ、意外に嘘が上手いかもしれないぞ」
「私はずっとロビンちゃんの味方だから」
―「あっガチ発見、でも今外敵がいるから、今回だけは大目に見てあげよう」
――「そうだ、ロビンちゃんをいじめていいのは俺たちだけだ」
……
日曜日の朝、陽介はバーチャル部屋で、素早く抜刀と納刀を数回繰り返した。
花殺は陽介の動きを見て言った。「どうやらこの見えない刀は既に上手く使えるようになったね」
「あぁ、そもそも居合の抜刀も納刀も目で見ながらやるものではない。刀身の長ささえ把握できれば問題ない」と言いながら、陽介は視線を前に向けたまま、鞘の鯉口を握っている左手の指で刀の棟を感じ、右手で速やかに引くと切っ先がちょうど鯉口に落ちる、その後のことは造作もない、刀の角度を調整して完全に鞘に納められば良い。
左手の親指でしっかり鍔を押さえて、陽介は立ち上がり、ため息をついた。「ところで、花殺ちん、あの時おじさんに聞き忘れたけど、もしある護衛カードを持っている間、僕が悪意を斬れなかったら、ルール違反になるか、どんな罰に当たるんだろう」
「さあな、死ぬかも」
「お前も知らないかよ、ってか死刑なんて酷くない。じゃあ書斎に案内してくれ、自分がおじさんに聞くから」
「まだ3週あるのに、もう諦めるつもりか」
「いや別に諦めてはいない、ただ念のため確かめておきたいのだ」
「調査が進まないなら、私には考えがあるけど」
「まじ?そんなこと早く言えよ」
「ペルソナは持ち主の記憶の一部や全部を持っている、ロビンちゃんのキャラ設定は素直でバカだから、彼女から中の人の情報を騙し取って、現実世界から―」
「もういい、これ以上言うな」花殺が話している途中、陽介は頭を横に振ってその話を遮った。「言ったはずだ、中の人を探ったりばらしたりするなんて、最低だ。僕は決してそんなことをしない」
花殺は口角を少しだけ上げて、笑っているようないないような。「そうか、分かった。では書斎に案内してあげるわ」
二人が書斎に入ると、「琴月君、お久しぶりだな」と、相変わらず執事の格好をしているおじさんが挨拶した。
「はい、ご無沙汰しております。実は聞きたいことが…」と陽介が質問した後、おじさんは大笑いした。「ははは…死ぬ訳ないだろう、おじさんはそんな悪党に見えるかな」
陽介はほっとした。「では一体どうなるでしょう」
おじさんは言った。「君がDD戦士になる時、護衛カードを10枚集めればDD戦士をやめられると言ったろう。もしそのカードで悪意を斬れなかったら、そのカードはノーカウントで、来月また頑張れば良いのだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
おじさんに別れを告げ、陽介は花殺とバーチャル部屋に戻り、居合の稽古の後、現実世界に帰ってのんびりと日曜日を過ごした。結局、一週間過ぎても調査は全く進まなかった。
水曜日、花恋館の中で、陽介は竹刀を横持ちして頭の高さに上げて向こう側に立っている杏に言った。「面打ちそして残心、振り返ってまた面打ち、十本連続、さあはじめ」
「はい」と応じて、杏は陽介が持ち上げた竹刀を見て大きく息を吸った。「ヤー!」と気合をかけて杏は前に送り足で半歩進み、一足一刀の間合いに入った。そして杏は即座に竹刀を上げて振り下ろし、その同時に一歩踏み込んだ。竹刀が陽介の竹刀を叩く同時に右足も着地、杏も打突の気合をかけた。「面!」
打った後、杏は送り足でまた数歩進んで、振り返って中段の構えに戻った。
「よし、気剣体一致、できているぞ」と言いながら、陽介も素早く振り返って、再び竹刀を横に持ち上げた。「さあ、二本目」
九本目の時、陽介はふと7月は既に半ば過ぎたと思い出し、ひとしきりぼんやりして、竹刀を頭にとても近いところに置いてしまった。竹刀が叩かれると陽介が我に返って柄を強く握ったが、それにも関わらず額が竹刀に叩かれた。
杏もそれに気づいて慌てて動きを止めた。「あっごめん、大丈夫?」
「大丈夫だ、僕が悪かった、ぼんやりしちゃって、竹刀が頭に近すぎたのだ」
「どうしたの、気分が悪い?」
「いや、ちょっと他のことを考えてしまって」
「何?悩み事?良かったら相談に乗るわよ」
「悩み事と言えば、まあ確かに悩み事だけど、相談できるかどうか、できるかな、いややっぱりいいや」
「なんだよ、できるなら言えよ。そう言われると逆に気になっちゃうじゃないか」
「はいはい分かった、じゃあ休憩の時教えるから。さあ残り一本の面打ちをフィニッシュしょう」
「はい、行くよ」
休憩の時、陽介はスマホを杏に見せた。「この盗作事件、知っているか」
杏がスマホを見てから言った。「知ってるわ、Vニュースで見たことがある。これが陽介の悩み事?」
陽介は頷いた。「そうだ、ぱくったのは一体どっちなのか分からないから、めっちゃ悩んでいる」
杏は不思議そうに陽介を見る。「何であんたが悩むのだよ。あっまさかあんたは玉藻かロビンちゃんのガチファンなのか」
「いやそういう訳でも…まあただの好奇心だ」
「へえ~そうかな」杏が暫く陽介を見詰めてから続けた。「まいっか、ご依頼は、この名探偵美星杏が引き受けたわ、ちょっと調べてくるわ」
「はいはいありがとう、結果が出なくてもいいから、程々にね」
翌日、昼休みの時、パンを咬んでいる陽介は杏が隣に来たのに気づいた。イヤホンを外し、陽介は水を一口飲んで口の中のパンを呑み込んだ。「どうした、杏ちゃん」
杏はドヤ顔で言った。「調査の結果を報告に参りました」
「何の調査?」
「もう忘れたか、昨日話した盗作事件だよ」
「えっ、それ本当に結果が出た?」
「そうだ、結論から言うと、ぱくったのはクリスティーナ・玉藻だ」
「まじか!」陽介はびっくりして大声を出してしまったが、幸い今近くに誰もいない。陽介は声を押さえて聞いた。「証拠はあるか」
「もちのろん、実はとても簡単だ。あの二人のイラストをもう一度見て」
陽介はウェブページを開いて二人のイラストをモニターに映し、暫く見て言った。「もう一度見たけど、やはり分からん」
「二枚のイラストの背景は殆ど同じだけど、少しだけ差別がある。つまりここ、人物の周りだ」と杏はイラストを指差しながら説明した。「二人の人物の輪郭が違う故、玉藻の杖に遮られる背景はロビンちゃんのイラストの中では見える、その逆も、ロビンちゃんの弓に遮られるここの芝生は玉藻のイラストの中では見える」
「なるほど、それで?」
「盗作者が人物を入れ替える時、元の人物より輪郭が増えたところはそこの背景を遮れば良い、だが輪郭が減っているところは、盗作者が自分でそこの背景を描き足さなければならない」
陽介は何かを悟ったようだけど、やはりまだ分かっていない「おぉ、確かに、それで?」
「二つのイラストの増えた背景を比較した後、ロビンちゃんの方がもっと細かく描かれていて、玉藻の方が割と粗末だ」
「いやそれだけでは―」
「これだけじゃない、もっと決定的な証拠がある」
「と言うと?」
「ここだ、ロビンちゃんの弓に一部遮られるこの花、玉藻のイラストでは遮られず、茎にもう一輪の花があるのだろう」
「そうだけど、これが決定的な証拠か」
「この花、陽介は見覚えがないか」
「そう言えば、確かに、あるような―」
「あるに決まっているんだろう、うちのゲームの中で、今回のエベントで使われている道具なんだよ」
「あぁ、そうだ、一輪草だ。いや待って、この名前、まさか―」
「ようやく分かったようだね。そう、一輪草は名前通り、単頂花序の植物、つまり一つの茎には花が一輪しかないのだ」