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DD戦士  作者: 椎名未聞
15/22

15 Vニュース

 土曜日の朝、花殺は約束通りやって来て、陽介をバーチャル部屋に連れて行った。

 刀を腰に巻いている居合帯に差し込み、陽介は床に正座していた。左手で鞘を持ち、その親指で鍔を押さえ、陽介は目を閉じて、微動だにせず、昔学んだ居合の記憶を蘇らせて脳内再生していた。

 5分ぐらい黙想し、陽介は目を見開いた。そして右手を柄にかけ、左手の親指で鍔を押し上げてから、腰を上げるのと同時に、右手が刀を抜きながら左手が鞘を後ろに引いた。切っ先が鞘から出ると、右足を一歩踏み込み、右手を振ると、刀が前に向かって水平に切りつけた。そして刀を頭上に上げ、左手も柄を掴んで、もう一歩踏み込み、風を切り裂く音に伴って両手で刀を振り下ろした。そして左手を柄から離して鞘を掴み、身を起こすのと同時に右手を上げて斜めに振り下ろして血振りを行い。最後はゆっくりと納刀した。

「居合十二本、一本目『前』。久々にやったけど、どうだった、花殺ちん」と、陽介は振り向いて、場外に座っている花殺に聞いた。

 花殺は答えた。「かっこいいのは認めるけど、これは実戦に使えるのか」

「使えない、という人が多いだろうね、だが僕は使えると信じている」

「なんで」

「かっこいいから」

「……」

「居合は不意打ちと不意打ち防止の技、これからの戦いで強い相手に遭ったら、意外に役に立つかもしれんぞ」

「そうか、じゃあ頑張ろう」

 当日、陽介は一本目から三本目だけを練習した。

 翌日は四本目と五本目だけを練習した。

 次の週末も、一本目から五本めだけを練習した。

 日曜日の稽古が終わる時、花殺は聞いた。「居合の技は十二本あるって言ったよね」

「正確に言えば全剣連の制定居合はね、他にも色んな流派がある」

「じゃあ何であんたは五本しか練習しないの」

「前五本は割りと簡単、しかももう大半の状況に対応できるから、まずは五本目まで使いこなせるようになるまで練習した方がいいと思うよ」

「ほう、地味に頑張る方か、ちょっと意外」

「はっ、かっこいいものが好きだけど、僕は実用主義者でもあるのだ」

「ところで、後数日で7月だけど、そろそろ次の目標を探すぞ」

「あぁそれについては、僕にはもう考えがあるよ」

「ほう?何だ」

「ニュース系のVTuber南九秋は分かるか。彼女が報道する事件には、恐らく悪意を持つ奴が沢山いると思う。今こっちに来る前に、彼女の番組『Vニュース』の今週の更新が投稿されたのを見たんだ、一緒に観ようか」

「それなら確かに手間を省くね」


 現実世界に戻り、陽介は南九秋のホームページに入り、最新の動画投稿をクリックした。

 動画が始まると、OL装束を纏う黒髪ロング美少女が現れた。南九秋のキャラ設定は16歳のロリなので、見た目も声も幼い感じだけど、それ以外は全て本物のアナウンサーに見える。彼女の中の人が本物のアナウンサーだという噂もあるけど、確証されていない。

「皆さん、こんにちは、南九秋です。週末は楽しかったか、私は楽しかったよ」簡潔なオペニングの後、南九秋はニュースの報道を始めた。

「では早速、今週のニュースをご覧下さい、最初のニュースはこちら」と南九秋が言うと、画面に白髪の可愛い少女の画像が現れた。「はい、見ての通り、ファン人数が百万人を超える超人気VTuber甜菜てんさいルルです。約三週前に3周年記念配信を行ったルルちゃんですが、今週の火曜日に重大なお知らせを発表しました。来月からルルちゃんは海外留学に行きます、でも配信はいつも通り続きますよ」

 南九秋が言い終わると、画面に映る画像は甜菜ルルから青髪の少女に変わった。「そして次のニュースは、皆に愛されるお笑い芸人ロリポップちゃんは来週の金曜日、誕生日記念配信を行います。ロリポップちゃん、誕生日おめでとうございます…」

 暫く見たら、花殺は言った。「これ全部いい知らせではないか、全く悪意がないけど」

「まずはいい知らせ、そして悪い知らせ、これはVニュースの順番だ」と答えて、陽介は半分過ぎたプログレスバーを見て言い足した。「もうすぐのはずだ」

 やはり、次のニュースが悪いニュースだ。「今週の月曜日、知名なVTuber盒々開子ごうごうかいこの中の人の情報がバレてしまい、しかもネット上で迅速に拡散してしまった。そして木曜日に、その中の人と思われる声優さんは、自分が盒々開子中の人だと認め、趣味でVTuberになっただけだと言った。そして当日からVTuber卒業、以後は声優の仕事に専念することを発表した」

 陽介は動画を止め、花殺に聞いた。「これはどうかな、中の人をばらすなんて、最低じゃない」

 花殺は頭を横に振った。「良くない、この事件は既にかなり拡散してしまった、情報源を特定することはほぼ不可能、情報拡散に参加した者を全部斬るのは更に不可能、例えあんたが剣道百段でもできるまい」

「そうだな、しかも既に卒業した、生活はあまり影響されていないみたいだし、不幸中の幸いというか。じゃあ次のを見よう」と言って、陽介は再生ボタンをクリックした。

 良いニュースを報道した時、南九秋は少しコメントを付けるけど、悪いニュースの場合は事実だけを述べる。「次のニュースです。今週の水曜日、2年間活動してきた十華蝶とおかちょうは突然アカウントを削除し、ネットから完全に消えてしまった。ファンたちの証言によって、彼女が消える前の一ヶ月の間、十数人のファンから高額な金銭を借りた。今ファンたちは警察の介入を求めている」

 陽介はもう一度動画を止めた。「これはどうかな」

 花殺はまた頭を横に振った。「だめだ、バーチャル世界にはもう十華蝶というペルソナが存在しない、彼女は既にDD戦士の手が届かないところへ逃げてしまった。現実世界のことは警察に任せろ」

「そっか、じゃあ次」陽介は再生ボタンをクリックした。

「次のニュースです。今週の土曜日、つまり昨日、クリスティーナ・玉藻とロビンちゃんは同日に来月の護衛感謝プレゼントに使うイラストを発表したが、その構図も色も極めて酷似している故、明らかな盗作事件だと言われている」南九秋がここまで言うと、画面に二枚のイラストが現れた。左側のイラストの中の人物は狐の耳と尻尾が生えている西洋風の魔女、右側のイラストの中の人物は弓を持っている精霊少女、人物が違うけど、イラストの背景はどれも森の中、木々と花の位置と色も、人物のポーズもそっくりだった。

 南九秋は言い続けた。「現在、二人は互いに相手のイラストを盗作だと指摘、二人のファンもネットで論戦を繰り広げている。では、今週のVニュースは以上でした。ご視聴ありがとうございました、お相手は南九秋でした。皆さん、また来週会いましょう」

「これはもう盗作じゃない、コピーペーストと言えるのだ」と陽介は言った。

「あんたにも分かる程度なら、盗作に違いないよな」

「あぁ、誰かが嘘をついているのに違いない」

「では、来月の目標は決定だね」

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