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DD戦士  作者: 椎名未聞
14/22

14 日常

 月曜日、出勤前、陽介は完成した羊羹栗子の絵を投稿して、羊羹栗子をメンションした。「セーラー服の栗子ちゃんを描いてみた。@羊羹栗子」

 昼休みの時、陽介はDDsiteをチェックしたら、案の定、いいねを数十個もらい、それに羊羹栗子にコメントを付けてリポストされた。「描いてくれてありがとう!めっちゃ可愛い~」


 退勤後、陽介と杏はまた花恋館に行った。互いに礼をしてから、稽古し始めた。

 杏の稽古内容は先週と同じ、足捌きと素振りの基礎練習だ。20回の面打ちを振り終わり、ちょっと休憩を取っている間、杏は聞いた。「ねえ陽介、このような基礎練習は普通いつまで続くかな」

 陽介は竹刀を下ろして答えた。「さあな、僕だって、まだまだ基礎練習を続かないといけないんだ。どうだ、飽きたか」

「いや別に飽きていないけど、ただ、いつになったらかっこいい技を使えるかなって思って」

「はは、その気持ち、僕も分からなくもない。大学の先輩がこう言った。基礎は何よりも大事なことだ、基礎がしっかりしないと、どんなかっこいい技を使っても決してかっこ悪くしか見えねえ。その逆、基礎をしっかり固めれば、燕返しでも八頭龍閃やずりゅうせんでも、その気になればすぐ繰り出せる」

「本当?じゃああんたが八頭龍閃を使って見せろよ」

「はいはいそう来ると分かっていたぞ、なぜならあの時僕もそう言い返したからだ」

「で、先輩の答えは?」

「答えは、僕をボコボコにした」

「それはそうだよな…」

「だが冗談抜きで、基礎が最も大事ってことは本当だぞ」

「うん、分かってる。じゃあもう一頑張ろっか」と言って、杏はまた竹刀を上げた。


 1時間経って、二人が道場を出て長い休憩に入ると、杏は鞄からスマホを取り出した。暫くスマホを見たら、杏はふと、くすっと笑った。

 水を飲んでいる陽介が視線を向けると、杏は手招きして呼んだ。「陽介、ちょっとこれ見て、マジうけるけど」

 陽介が近づいて杏のスマホを見ると、そこに開いているアプリはDDsiteのスマホ版、杏が見ていたのは青髪のVTuberの十数秒だけのお笑い動画、見終わると陽介も吹き出した。

「ところで杏ちゃん」笑いが止まったら、陽介は聞いた。「お前もVTuberを見てんのか」

「うん」杏は頷いた。「陽介から聞いた後、私もDDSiteのアカウントを登録してみたんだ。今は動画だけを見て、配信は観たことがないけど、結構面白かったよ」

「そっか、それはよかった」

「ところで、陽介はおすすめのライバーさんいる?今私のフォローリストはまだ空なんだけど」

「そうだな、VTuberは色んな種類があるけど、杏ちゃんはどんな内容が好き?」

「例えば?」

「配信の内容から言えば、主には歌が上手い歌系とか、ゲームが強いゲーム系とか、雑談が面白い雑談系とか。と言っても、どんなVTuberにとっても、雑談力が必要だと思う。そして歌もゲームもなんでもできる全能系も沢山いるよ」

「なるほど、じゃあ歌と雑談とゲーム、一人ずつすすめてくれないか、どの種類ももっと知りたいので」

「実は俺はゲームはやはり自分でやるの方が好きなので、ゲーム系はあまり観ないけど、他の2種類なら」と言いながら、陽介は自分のスマホを取り出して、DDSiteを開いてフォローリストに入り、スマホを杏に見せた。

「この鮫姫珊瑚が歌系で、僕最近よく聴いている、結構上手かったと思う」

「うんうん、フォローしちゃおっと」

「そしてこのバカみたいな青髪の奴は、お前が今見た動画の中のVTuber、名前はロリポップちゃん、有名な雑談系VTuberだ」

「おぉ~可愛い、よしこの子もフォローしちゃおっと」

「あっそうだ、VTuber界隈の事情をもっと知りたいなら、この人もフォローしておこう。彼女はDDsiteで最も有名なニュース系VTuberだ」

南九秋みなみきゅうしゅうか、詩的な名前だね。でもニュース系って何」

「つまりレポーターみたいな者だ。彼女はV界隈の大事件を整理して報道する。彼女のチャンネルで週に一度『Vニュース』という番組が更新され、再生数は毎回十万を超える。だからVTuber事情を知りたければ、彼女をフォローするのが一番手っ取り早いと思うよ」

「なるほど、これはフォローしなきゃ。後は―」

「後はない、休憩の時間終わりだ、稽古を再開するぞ」

「へーい」


 8時、稽古が終わり、二人は着替えて道場を出た。

 杏は手首をぶらぶらと振って筋肉をリラックスさせながら言った。「ねえ陽介、これから剣道の稽古は毎週の月水金にしたらどうかしら、少なすぎる?」

 陽介は答えた。「ううん、いいと思うよ。社会人としては週に3回の稽古はもう十分偉い、それにダイエット効果も十分あるはずだ。自分を無理やり稽古させても上達しないし、嫌になるだけだ」


 水曜日、花恋館に行く時、陽介は大きな段ボール箱を抱えている。杏が尋ねると、陽介が答えた。「大学の頃に使った剣道の防具だ、実家に預けていたが、先週親父に送ってもらったんだ」

 花恋館に着いたら、陽介は段ボール箱を地に置いて開けた。その中から、陽介はまず黒い剣道防具セットを一つ取り出した。

「へえ、かっこいいね」杏がそれを見て言った。「陽介は今日から防具を付けて稽古するの?」

「いや、ただ道場に預けておくのだ。お前が防具を付ける前には使わない」

「待ってくれるの、優しい、感動しちゃう。じゃあ私も頑張っちゃう、長くは待たせないからな」

「別に防具を付けなきゃ稽古できない訳じゃないから、無理でない範囲で頑張ろうな」と言いながら、陽介は箱から木刀を一振り取り出した。

「これは?」と杏が聞いた。

「木刀、基本技と剣道形を稽古する時は竹刀でなく、こいつを使う。そう言えば、お前も一振り持つべきだ」と言って、陽介は何かを思い出して、杏を見て言った。「あっ、そうだ、これだ」

「これって、何」

「お前が学びたかったかっこいい技だ、基本技と剣道形が。それに上手く使えば実戦にも役に立つ。形稽古は基礎練習よりずっと楽だから、今度疲れる時はやってみよう」

「本当?やった。じゃあ後で木刀を一振り買いに行く」

 木刀を地に置いて、陽介は箱から黒い刀袋を取り出した。「これで最後だ」と言って、陽介は口紐を解いて、中から赤鞘の刀を引き出した。

「うぉぉぉ!」杏は奇声を上げながら、目を大きく見開いて輝かせた。「めっちゃかっこいいけど、これ真剣?」

「いや、刃引きの模造刀だ、前に居合を学んだ時使った物」

「先生、私、居合を学びたい!」

「だめだ、ここは居合道場じゃない、こいつは後で家に持ち帰る」

「ちぇっ…あっじゃあ、先生の家に行って勉強してもいいですか」

「考えておく…でも例え行かせるとしても、その前には剣道の稽古をしっかりやらせてもらう。力加減をコントロールできる前に、居合刀は絶対に振らせない」

「はい、分かった。ところでその居合刀、ちょっと持たせてもいいかな」

「いいよ」と言って、陽介は刀を杏に差し出した。

 杏が両手で受け取り、また感動の声を上げた。「うぉぉぉ、触り心地がいい、感動したわ、まさか私も美少女魔法剣士になれるとは」

「なれねえよ、その結論はどこから出たんだよ」

「ねえ、ちょっと抜いて見てもいい?」

「いいけど、ただし、刀身を触るな、錆びさせちゃうから。そしてあんまり近くで見るな、息も錆びさせちゃうから。そして何より、決して振るな、危険だから」

「はい、分かった」と答えて、杏はゆっくりと刀を抜いた、息が刀身に当たるのを恐れているように、ずっと口を閉じて静かに刀身を鑑賞した。暫く見て、杏は刀を鞘に戻して陽介に返し、ため息をついて言った。「ありがとうございました」

 陽介は刀を刀袋に納め、口紐を結んで言った。「さって、今日の稽古を始めよう」

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