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ギロチン令嬢と世界の破壊者  作者: 諸行為の奴隷
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霧籠もる

もはや使い古されてしまった悪役令嬢もののオマージュ作品。本当に趣味(と酒の勢い)で書いた左手書きの作品なので所々矛盾点がちらほら出てくるとは思いますが、頭を空っぽにして読めるとの自負はあります。

疲れたあなたの頭にプレゼント。

 ある歴史書は弾劾する。もし、王国が国家として最低限の外面を維持したかったのであれば、彼女を処刑するべきでなかったーー彼女をギロチンに掛けたとき、王国はその命運を自らの手で断ったのだと。

 

 革命の切っ掛けは、ほんの些細な出来事だった。たまたま男爵家の当主が道端に落としたパンをくすねた少年が、大抵の罪人がそうなるようにサーカスの余興として縄付きの階段を登らされた。それは、当時の社会では決して珍しい光景ではなかった。

 

 違うのは、普段は血生臭さを忌み嫌って広場に近寄らない彼女が、その日はたまたま近くまで足を運んでいたこと。貴族の恥さらしとまで言われる程に、彼女が市民に対してどうしようも無い程に同情的であったこと。そしてその彼女には公爵令嬢という、その日のサーカスを中止にしてしまえる程の身分があったこと。

 

 結果、彼女は捕らえられた。罪状は、「現王国体制に対する反逆的思想」を所持していることに基づく『内乱罪』、「貴族社会に対する反抗的態度」を実行したことに対する『動乱罪』。この取って付けたような理由に対して、元老院が下した判決はギロチンだった。

 

 貴族界は湧いた。才女としても名高い美少女の首が落ちるという、かつてないショーに。その華が手折れる一瞬を見ようと、王族に連なる者まで広場に押し寄せてーー見事革命の露と消え去った。

 

 その一連の流れについて、例えばある歴史家は、本来中立的な立場から叙述されるべき歴史書が一人の少女に対して極めて同情的な目を向けていること、彼女の処刑から革命までの流れが余りに早すぎることを指摘する。それを理由に、革命側の手によって書かれたプロパガンダ的性質の強い説明だとして、意図的に歴史的証拠から排除することを主張する。

 

 しかし近年、新たに発見された証拠達は間接的に、或いは直接的に、その歴史の正当性を訴える。

 

 革命軍は、元々革命など目的にしていなかった。彼女を助けようとして間に合わなかった彼らは、革命軍にならざるを得なかったのだと。

 

 国中の全ての貴族と王族が皆殺しにされた時代にあって、彼女の評価だけは例外的なまでに高かった。美しい外見と、それに見合う高潔さ、優しさ、その全てが市民の憧れの対象であり、その全てが貴族にとって邪魔だった。故に、殺された。

 

 サーカスの為に、元老院は弁護の機会すら与えなかった。市中を引きづり回され、漸く助けが来たときには既に首と胴が別れていた。結果、革命は起こされた。

 

 共通の怒りは想像もし難い程の早さで人を団結させる。王国警察が事態に気付いた時には既に、広場に集まった貴族達の首が王城の門に飾られていた。偶々広場にいなかった貴族達も、突如革命軍に変貌した民衆達になぶり殺され、町中が何の比喩でもなく文字通り血に染まった。

 

 そこからは、ありきたりなお話。愚政、暴虐の限りを尽くした王様は取り巻きの貴族達と一緒に燃やされました。また、彼女を庇うことなく異端審問にかけた御両親や御兄弟も生きたまま埋められました。後に残ったのは革命の残り火と、彼女が行った善行の跡だけ。革命の立役者となった市民達は、彼女がしてくれた恩を決して忘れないために、その像を広場の中央の、いつも彼女が気にかけていた孤児院のよく見える場所に立てました。今ではすっかり議会政治が確立し、彼女は悲劇の聖女として細々と語り継がれています。

 

 だから、これからするのはその国の彼女のお話しではありません。もし彼女に、二つ目の生が有ったのならーーそんなお話です。

 









 

 ※

 

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……

 

 何が王様だ、お貴族様だ……

 

 豚が冠かぶっているだけじゃないか……

 

 なにがノブリス・オブリージェだ、人を自慰の道具にするんじゃねえ……

 

 人を、人として扱えない世界ならいっそ壊れてしまえ……

 

 それが叶わぬなら、せめて、せめて……

 

 差別も迫害もない国に生まれたかった…… 

  

 ちくしょう…………

 

 

 

 そして、彼女の目は覚めた。

 

 目に入ったのは、年老いた木組みの天井と朝日。寝ていたのは、かつて家無き老人が分けてくれたパンのように固いベッドだった。

 

 「ん?」

 

 ペタペタと首の辺りを触ってみる。その時、横合いから声がかかった。少女特有の愛らしい、果実酒のような声だった。

 

 「どうしたの、アルベラ?首なんか触って」

 「いや……私の首って取り外し可能だったりする?」

 「んな訳ないでしょ!?朝から早々何言ってるの!」

 「ああ、ちょっと首をチョッキンされた夢を見たから」

 「やめてー!?朝からそんなグロッキーな夢話さないで!」

 

 そうキャーキャー可愛らしく泣かされているのは美貌に金髪が栄える、耳の長い絶世の美少女だった。

 

 「もう、朝からなんなのよ」

 「どっきり?」

 「本当に心臓止まるかと思ったわよ……」

 

 口を尖らせながら、それでも櫛を片手に彼女の髪をすいてやる。その光景は、見るものが見なくても姉妹そのものだった。

 

 「あねご、あねご」

 「何その呼び方?いつもみたいに『おねぇたん』って呼びなさいよ」

 「そんな脳にカビが生えたような呼び方は御免被る」

 「あねごも大概よ……それで何?」

 「ここはどこ?」

 「そっから!?」

 

 思わず目をひん剥いたその顔は百年の恋も覚めそうな程に酷かったと言うが、恋は病のようなもの、101年後に再発するので大丈夫とのこと。ともあれ、ともあれ……

 

 「あんた、本当にどうしたのよ?」

 「はて、ソチは自分がどこにいるか知っておるのかね?色即是空、これ即ち空。現に見えているものに色というバイアスがかかっておる以上、脳神経の運動により送られてきた刺激もまた色であり」

 「本当にどうしたのよ……?」

 

 げっそりと、それはもう問答することに疲れきったように、彼女の質問に懇切丁寧に一字一句答えてやる。

 

 話によると、そこはとある星の帝国と呼ばれる国の中にある、エルフ自治区であるとのこと。彼女の名はアルベラ・スミカ、対する姉の名が御年40を迎えられますラスティリャ・スミカ。その絶世の美貌を持て余して久しく、嫁に行く宛も無く、御両親からは頼むから孫の顔を見せてくれと泣き付かれる始末。結果、親から逃げるように行き掛けの駄賃とばかりに妹を連れて森を抜け出し、今の安アパートに住むに至ると。

 

 「あらやだ、完全なとばっちり」

 「いいじゃない。閉鎖的なエルフなんかより帝国の方が良い男も揃ってるわよ?」

 「その帝国について何にも知らないのだけど」

 「あ、そっか。そうよね……」

 

 と、また長い話が始まる。要約すると、帝国人、わりかし良い奴多い。

 

 「まるで意味が解らんぞ」

 「説明するの面倒くさくなっちゃった。今度、帝国大学の有名な教授が来るらしいから、そんときに見てみれば」

 「うむ。あい解った」

 「……本当にどうかしたの?」

 

 愛しい愛しい我が妹の言動に眉をひそめる。そんな奇異な物を見るような視線に耐える生活が10日程経ち、彼女の耳にも様々な情報が主に歴史という形で集まってきた。

 

 第一に、彼女がいる自治区。正確にはハーフエルフの為の、という但し書きが付くらしい。ハイ・エルフである彼女達姉妹がいてもこれと言って問題は無いが、人口比率的には小粒程らしい。

 

 元々、エルフという種は森に暮らす者達だった。部族毎に生活するという性質上、総数は決して多くなく。近親婚のリスクを回避するために人間と交わって生まれたのが、ハーフエルフという話だった。

 

 誤算が有るとすれば、ハーフエルフは純粋エルフ(ハイ・エルフ)と違い、森で暮らしていける程のスペックが無かった。よって、町エルフとなり暮らす者が大半だったという。

 

 ところで、その世界は人間以外の種族に対して愛無きスパルタ政策を行っています。例えばドワーフが人権など口にしようものなら、君達は人では無いだろうと返されて鉱山に送られます。他にもホヴィットや獣人などのロマン溢れる隣人達がいますが、扱いは推して計るべきでしょう。国も教会もこれが国是、これこそ明白なる天命と言わんばかりに刈ってや絞りを繰り返し、繰り返してはまた繰り返し。繰り返してを繰り返した結果、北部で覇権を唱えていた帝国をぶちギレさせましたとさ。

 

 世に言う南北戦争、と言えばまだ聞こえは良い方。中央・南方諸国家連合軍に対して帝国軍側には近隣の、それも利害関係上、やむなく参戦したイタリアこと西沿岸国がいるばかり。結果は火を見るよりも明らかで、連合軍の指揮官達は陣中で勝利の前の美酒に酔いしれていたところを襲撃されて敗退したとのこと。

 

 結果、連合軍は進軍どころか大きく後退。それはもう、大躍進を思わせるような見事な敗走ぶりで。中央諸国の目の前で魔術の粒子が吹き荒れ、北方帝国は一時期世界を征服しかけたらしい。

 

 ……無論、敗戦でガタガタになった中央経済など面倒見きれる筈もなく。牢に繋いでいた獣人の王に仲介をお願いするという語り草な中央諸国の停戦の申し入れを、帝国は受け入れたと言う。これが、現在の自治区の始まりの、その切っ掛け。

 

 拡大してしまった領土を、故郷を追われた種族に対して驚きの条件で貸借させ住まわせ、発展し、その過程で様々な封建的負の遺産も徹底的に破壊され、そこから新たな諸制度が誕生し……今や大陸北部の殆どの大地を領土とする、名実共に覇権国家の一角に成り上がったとのこと。

 

 第二に、そのような歴史的経緯が有るため帝国領と外の法律は完全に別物になる。人種に関する問題では、それが特に顕著に現れ――例えばエルフの奴隷が他国に逃げ込んだ場合、大抵の場合は「商品」として引き渡される。一方、「商品」の中に人間種を含める事が明文で否定されている帝国の場合は、手続き上引き渡しが不可能なんですよと兵士が顔だけは笑顔で説明してくれる。

 

 端的に言えば、帝国内において人種・思想・種族・部族、その他一切を理由とする差別並びに迫害に類する行為が、いかなる理由においても許されていない、ということだった。

 

 「まさに我が世の春よ!」

 「今度はなに!?」

 

 ただ、「妹の奇行に対してお医者様を紹介すること」までは帝国でも禁止されておらず、暫くキチガイの異名が付いて回ることになるという。

 

 そうして、そんなキチガイが、彼の後ろを付いて回ることになる。

 

 切っ掛けは、ほんの些細な、ある行商人の荷物の中に彼の著書が入っていたことでしたとさ。

感想など頂けると励みになりますが書けるか否かはまた別問題なので……

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