下校デート
全ての設定が俺の手から離れた!
☆★☆ 4月19日(水)放課後 ☆★☆
俺はこの仲間たちとの関係を昼休みだけの関係だと思っていたし、そう望んでいた。
だから今、長谷川が提案してきた内容はまさに驚愕であった。青天の霹靂?
「木下、放課後、暇?」
長谷川とは、昼休みにあれだけ話せたのだから、こいつに恐怖することなど、もうないのではないかと考えていた俺の予測は、非常に甘かったと言わざるを得ない。
つまり俺は、たった10文字の長谷川の言葉に、恐怖してしまったのだ。恐怖症発動。
「え、あ…… あ、いや」
キョドる。ドモる。吃音。吃る。
「あれ? 木下どしたの?」
敵意や害意は感じられない。が、相手はさっきまでガチバトルかましていた強敵だ。しかも今はお守りを発動させていない。
「なるほど、急に話かけると、まだダメってことね。じゃあ、アタシはちょっと外すから瞳から話してよ」
長谷川が俺から離れ、廊下に出る。
草野が俺に近付いてくる。
「桐生くんは今日仕事で、放課後は忙しそうだからさ、また今度にするけど」
ん? 草野にしては回りくどい話し方をするな。
「木下さ、帰り、私たちと一緒に帰らない? 方向一緒でしょ?」
下校デートのお誘いか。フィクションなら喜ぶべき展開だ。両手に花。
「だが断る!」
「え!?」
フンッ! まさか、受け入れるとでも思ったのか? バカめ。そんなチンケな罠に今さら引っかかるものか!
「ホントに私とは話せた!」
なにッ!? そこに驚いたのか? って、そういえば、草野は怖いし圧が強いと思ってはいたが、女性恐怖症状が出たことはなかったな。ローストビーフの時も。あぁ、あれ美味しかった。桐生くん、また食べたい。
「そういえばそうだな」
俺は草野を女だと思っていないのかもしれない。いや、流石にそれは草野に悪い。
「まさか木下、私の事女だと思っていない、とか無いよね?」
お~? お前まさかエスパー? ESP。エクストラセンチュリーパーセプション?
「いや、初めはそう考えたこともあったが、ちゃんと自分と向き合って感じたことを認めた時、草野は女だと俺は認識している」
「ちょっと!? いきなり何?」
突然慌てる草野。表情が甘い。強気な顔が赤く蕩けてる。わりとイイ。
「お前の質問に正直に答えただけだが、なにか?」
「んんん~~~ッ!『初めはそう考えた』の初めっていつさ!」
ふ、質問なのに語尾が攻撃的。草野、本領発揮。
「桐生くんたちと初めて関わった日だな。だからお前の頭を叩けた。あの時俺は、お前の事を女だと思っていないのでは? と一度は思った」
「じゃ、じゃあ、どうして私を女だと認められたの?」
草野、どもったな? どもりは緊張からくるものだと理解している。俺、めっちゃどもるから前にググッた。びびり。草野もびびり。
「普通に。お前って、生物学上『女』だろ?」
なに言ってんの?
「じゃあ、なんであんたは私と普通に話せるのよ?」
あぁ、本当に聞きたいのはそこか~。嘘つくのも面倒だし、正直に言うかな。
「それは実は自分でも不思議だと思っていた。だってお前って強いし、怖いし、話し方がぶっきらぼうだし、声の圧が強いしで、俺が苦手なタイプの代表格だからな」
「そ、そこまで苦手なんだ。私の事……」
落ち込むなよ草野。
「苦手なタイプ。とは言ったが、お前の事は実は全然苦手じゃない。いや、なかった」
「言ってることおかしいわよ?」
「いや、そうでもないんだ。ちょっと語るけど、引かないでくれよ」
「わかった」
「いじめられっ子になる前となった後で、俺のお前に対する印象は変わっている。中1時代と言うか、いじめられっ子になる前は、お前の事を『強い女子』『頼もしい女子』という風にちゃんと普通に女子だと認識していたんだ」
「へー? そうなんだ」
「まぁな。だが、いじめられっ子になった後ではお前の事を『あいつらと同じ性別』という十把一絡げで捉えて、お前個人と言うものを見なくなった。けど、最近気づいたんだ。あの頃の俺は、クラスの女子によくチラチラ見られていた。『敵意』とか『害意』とか『哀れみ』『揶揄い』そういった俺の心を抉るような視線でな。俺はそんな視線にとても敏感になっていたんだ」
一拍おいて深呼吸。うん。草野相手だと緊張しない。してない。確信。
「だが、お前の視線はそうじゃなかった。俺の心を抉る視線ではなかった。まぁ実は最近まで気付かなかったんだけどな。お前が桐生くんと霧島さんに話しかけた時、俺はお前を恐れていなかった。そしてその日、俺はお前を叩いた。まだ交流初日でしかもクラスの注目が集まっている中で。その時俺はなんだか不思議な気持ちになった。で、まぁ結論をズバッと言うと、お前は俺にとって『特別』だったんだと思った。『特別』という言葉が適切かどうかは、実はよくわからんがな。」
草野が黙って聞いている。
「繰り返した話になるが、お前の視線は俺の心を抉らなかった。視線に敏感な俺が、お前を恐れる必要がないことを多分本能で理解していた。でも、自分が女性恐怖症であるという自覚から、お前の事も恐れなければならないって思い込んでただけだった、と考えた」
「特別の意味は分かった。けど、質問の答えにはなってない」
「あ~苦手なタイプって事か。タイプって言うのは種類の事だと思う。でも、ん~そうだな、たとえば『ケーキは苦手だがチーズケーキは大好きだ』とか『3次元女は苦手だが霧島さんは好きだ』とかそういうことはあるだろ? 俺にとって、お前がそれに当たる」
「そこで霧島さんの名前が出てくるところ。素直というか、ブレないのね」
たとえ話だって言ってるのに。
「お前、俺の事好きだろ?」
「はぁ!? な、なに言ってんの? 馬鹿じゃないの?」
「そう慌てるな。何も恋愛とか、そう言う意味じゃない。人間的な意味での好きだ」
「ま、まぁ…… そう言う意味だったら」
「俺もそうなんだ。俺はお前が好きだ。初対面で恐怖を感じなかった霧島さんを一瞬で好きになったのとは少し感覚は違うが、俺がお前に恐怖を感じていないと気付いた時、俺はお前の事を元々好きだったんだと理解した」
「ちょっと待った~! って、あ、違う! あ~、え~と、長谷川でーす。マキちゃんですよー。木下くん、あー心の準備はいいですかー? 今から話しかけますよー」
「何事だ?」
「あーあれ、マキなりの気遣いだよ」
「なんて不器用な気遣いだ!?」
「不器用言うなし」
「まぁ、俺的には通用した。良い気の遣い方だ」
「じゃあ、アタシも話しかけるね」
「おう。いいぞ」
「それでは。ゴホン」
なんだこの茶番劇は? 学芸会か?
「木下くんにはこれから、アタシ達と一緒に下校デートしてもらいます。拒否権はありません」
「さっき断ったばかりなんだがな? まぁ、理由を聞こうか」
「プチ同窓会です」
「そういえば1~2年時は、3人共同級生だったな」
「アタシは木下とは3年間ですがね」
「長谷川、その口調やめろ。気持ち悪い」
「アンタを怖がらせない為です我慢しろ」
「は~、ま、いいか。いじめられる訳じゃなさそうだし」
「それから瞳?」
「ん? 何?」
「木下だったらいいよ」
「ちょっ! マキ!?」
「木下行くよ! マキ、早くしな!」
長谷川真希。害意が無くなっても、俺に害を与え続ける存在。
草野。苦手なタイプだが、苦手じゃないと判った。
長谷川。苦手なタイプで超苦手なのに、なんか憎めない…… 様な気がする? かも。
お前ら、霧島さんと桐生くんに面倒くさく絡むなよ? 振りじゃないからな? 絶対だぞ?
まさか俺が今、自分でフラグを立てていたとは、この時は知るよしもなかった。
3人での帰り道。
「え~と、このルートだと、うん。アタシが最初に抜けて、次が瞳。で、最後が木下。よし! これで決定。さあ帰ろ?」
道中長谷川は、
一昨日の昼休みの一部始終を草野から聞かされて、俺に対してめちゃくちゃ嫉妬したこと。
昨日の昼休みに桐生くんの仕事の話と俺の土下座の話を草野から聞いて、自分も俺たちの仲間に入りたくなった事などをずいぶん赤裸々に語ってくれた。
しかも、草野に渋られてめっちゃキレた結果が今日のトラブルに繋がったと聞いて。
俺は、久しぶりに、心から。
爆笑したのだった。
読んでくれるだけでも嬉しいの。




