後が怖いから
長谷川真希!俺を狂わす魔性のキャラ! くッ……なぜだ!なぜこうなった!?
『ライトポケットオープン。一号機動画モード起動。各部異常なし。バッテリー残量54。進路クリア。視界良好。セット完了』
『続いてチェストポケットオープン。二号機動画モード起動。各部異常なし。バッテリー残量42。進路クリア。視界良好。セット完了』
『ボイスレコーダーを録音モードにて起動。各部異常なし。内ポケットにて待機。指示があるまで音声収集に努めてください』
『各機発進準備完了。時計合わせよし。只今から秒読みを開始します。作戦行動開始5秒前、4、3、2、1、ミッションスタートです! 各員、健闘を祈ります!』
というわけで俺たちは今、教室の前にいる。
実はめっちゃ緊張している。腋の下が冷たい。何があった?
「ただいまー!」
教室に入るなり俺は、草野に向かって大きめの声で挨拶をぶちかましてやった。
本当は『ひーとーみー』って、長谷川の真似をしてやろうと思ったのだが、そこまでの勇気は出なかった。お守り効果の限界?
長谷川がまだいる。ちっ、俺の席に座っていやがる。邪魔だと言いたいところだが。くそ、言えない。ヘタレ。
「お、帰ってきたね~」
長谷川は陽気な声を出して、笑顔。
くっ、草野はやはり篭絡されたと判断していいだろう。
「は、長谷川さん!」
なんと!? 今声をかけたのはまさかの霧島さんだ。大丈夫か? いけるのか? 心配だ。
俺は驚いたがなぜか長谷川も驚いている。あ、桐生くんも驚いている。草野も以下同文。
「なにかな~? キリシマさん?」
なんか、しゃべり方が嫌だ。挑発してる感じ。揶揄われている。がんばれ霧島さん。
「く、草野さんと一緒にお昼は食べたいので、草野さんをください」
ん? 草野をくださいって、ちょっと、あれ? プロポーズ? いや、ま、いいか。霧島さんだし。OK♪ 君は俺が守る。桐生くんにヤキモチ焼かれない程度にね。
「い・や・よ」
一刀両断。
「そんな~」
え? もう撃沈? 左翼エンジンに被弾? 霧島少尉、帰投せよ。
「ま、でも考えてあげなくもないわ」
長谷川の笑顔が怖い。
「え?」
喜ぶなよ霧島さん。こいつ、悪いこと考えてる顔だぞ?
「き~の~し~た~?」
ちぇっ、やっぱ標的は俺か。さっきヘイト稼ぎまくったからな。
「なんだ?」
「あんた、最初はキョドってたくせに、だんだん強気になっていった秘密。なんかあるんでしょ? 教えてよ。教えてくれたら、瞳と一緒にお昼やすみごはん食べてもいいわよ」
(瞳と一緒にお昼やすみごはん食べてもいいわよ)だと? ……なにか違和感を感じるが。まぁいい。
「秘密なんてないが、あったとしても教えてやらん。当たり前のことを聞くな」
「へー? 強気ね」
「そんなことより、草野。今から一緒に昼飯食うぞ。長谷川は自分の席に戻れ」
「まだアタシのターンだよ。瞳に話かけるのは後で」
「お前のターンってなんだよ!? お前らの話はもう終わったんだろ? 何となくだけど」
「話は終わってるよ。でもね、アタシは瞳と食べるの。お昼は」
「だったら、お前も一緒に食べたらいい。俺たちは草野と一緒に昼飯を食べたいんだ。って、あ、いい? 霧島さん? 桐生くん?」
「「「え?」」」
長谷川、霧島さん、桐生くん。3人の声がそろった。見事な不協和音。
ま、そうなるよな。普通。
「あ~今から俺の考えを説明する。ちょっと長くなりそうだが聞いてくれ」
草野まで驚いてるな。でもなんかいい顔だ。苦手な奴だけど。
「俺がこの考えに至ったのにはいくつか理由がある。最初に長谷川に声をかけたのが霧島さんだったというのが一つ目。霧島さんは俺と同じく他人が苦手だ。だが今、お前に霧島さんは自分から話かけることができた。これは俺にも言えることだが、お前は女性恐怖症を克服するための良い練習相手になれる。たぶん」
今、霧島さんは震えてはいない。
「次に、お前と草野さんの関係だ。ズットモとか言う関係というのは多少の事では壊れることはないだろう。つまり、俺たちが草野さんだけを永久の昼友とする為にはお前を排除する必要がある。だが、それは無理寄りの無理だ。こじれそうだし後が怖い。これ本音」
草野が驚いている。長谷川も驚いている。しかも、表情が緩んだ? いけるかも。
「そして、俺たちが戻ってからのお前たちの表情だ。仲直りしたんだろう? 底辺だの陰キャだの言ってた事の争いはもう解決したんだろ? じゃなきゃ今もなお言い争っているはずだからな。しかも、勝ったのは草野だろう。草野の性格からいって、人を馬鹿にするほうに妥協するわけないからな」
草野の目から…… 雨? いや、よだれかな?
「そして最後にお前だ。長谷川。お前は俺たちに興味を持っている。んで、嫉妬している。わずか2日でここまで草野と仲良くなった俺たちに。嫉妬からトチ狂ってウザ絡みしたのは、お前が草野に恋をしているからだ! つまり百合」
「嫉妬、嫉妬うるさい! それになんだよ! 最後に百合って。あ~~~~も~~~! 参った参った。参りました~」
なんだと…… あの長谷川が、泣いているだと?
「たしかにあんたらが瞳を独り占めすることになったら、逆恨みしてあんたらにちょっかいかけるだろうさ、アタシならね。後が怖いって言ったあんた正解だよ」
ポケットからハンカチを出して長谷川は目頭を押さえる。
「で? 瞳が妥協しないって? あんた良く分かってるね。その通り。アタシの負けさ。あんたたちが教室を出た後すぐにガッツリ怒られたよ。も~~完敗」
そして長谷川はポケットから細長い何かを取り出した。ライター? いや、これは
「ボイスレコーダー。さっきの会話、ずっと録音してたのさ。アタシがあんたたちと一緒に、弁当を食べる約束をする言質を取るためにね」
まさか、さっきの違和感は!?
「『瞳と一緒にお昼やすみごはん食べてもいいわよ』ってセリフ、これでも考えたんだよ~瞳と一緒にさ、『アタシも』『あんたたち含めて』瞳と一緒に食べてもいいわよって、言質とって、無理やりあんたたちに混ざろうと思ってたんだけどね~」
敢えて主語を伏せた提案。後出しのトラップ。考えたな。感心。
「まさかあんたからその提案をしてくるとはね。完全に参ったよ。降参。は~~~っ。認めるよ。アタシはあんたたちに確かに興味を持ってる。瞳をこんなに骨抜きにしてくれるなんてさ」
「ちょっとマキ! 骨抜きってなによ!?」
「何でもない。それより木下、さっき『永久の昼友』って言ってたけど、あんた瞳と『永久』に仲良くしたいの?」
「はぁ!? 俺、そんなこと言ったっけ?」
「んじゃ、聞く?」
ボイスレコーダーに手を伸ばす長谷川。何か危険な予感がする!? 小動物的予知能力発動!
「いや、いい」
「じゃぁ、早くお弁当食べよ? もう昼休み終わっちゃうよ。霧島さん、桐生くんよろしくね」
「あ、ああ。よろしく……」
「はい。よろしくお願いします……」
こうして、俺達には新たな昼友が加わった。流石に俺の手には負えない奴だが、まぁ、草野が何とかしてくれるだろう。他力本願。
桐:「(小声)ねぇ、木下くんってなに? ホントはマジですごい人?」
霧:「(小声)長谷川さんを手懐けるってホントになんなの~?」
木:「(小声)逆恨みとか後が怖いから、、それなりに出まかせ言ってたら調子が乗ってきただけなんだよ~全部アドリブだからね」
桐&霧:「(小声)そう言うとこが神なんだからね」
御手すきでしたら是非ご感想をm(__)m