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剥がれた仮面、砕けた鎧

☆★☆ 4月20日(木)保健室 ☆★☆


 目を開けると、心配そうにぼくを見つめている草野と目が合った。

 ここはどこだ? なぜぼくは知らないベッドで眠っていたんだ?


「木下……大丈夫?」


 まだ状況を理解できない。白い壁、白いベッド、白い布団。だが草野がいる。少し安心。


「大丈夫と聞かれて大丈夫ではないと答える主人公をぼくは知らないな」


 混乱してはいるが、少しづつ思い出してきた。昼休みだ。何があった?


「ふふ、そんな口を返せるなら大丈夫そうね」


 草野の口調が変だ。違和感。優しい感じ。語尾に『ね』って聞いたことあったっけ?


「そんなことより、ここはどこだ?」


「保健室だよ」


 スマホを出して時間を見る。どうしてスマホって時間がいつでも正確なんだろう? こんどググろう。


「時間は…… 2時か、まだ授業中じゃないのか?」


 ぼくはいいけど、草野はダメだろ?


「うん。さぼった」


 なるほど。理解した。草野を問い詰めるのはナシだ。


「そうか、すまないことをしたな」


「なにが?」


 キョトンとする草野。表情まで柔らかい。いつもの圧はどうした? いや、このほうがいいけど。


「ぼくのためにさぼったんだろ?」


「そこはぼくのせいで、って言ってよ。じゃなきゃ、あんたのためにって言えないじゃない」


 お? 少し圧が戻った。へへ。しかも?


「ふっ、意外に日本語を使いこなすんだな。意外だ」


「意外って2回も言うな」


 照れた表情もなかなかいい。お気に入りに登録。ブクマ。


「それよりどうしたの? 急に倒れるし、自分の事ぼく呼びになってるし、なんか木下らしくないよ?」


 お前それブーメランだぞ? 怖くない、圧の弱い、優しいなんて、草野さんらしくないよ? でもイイ。それもイイ。


「そうだな、う~ん……仮面が剥がれたというのが、一番しっくりくるかな」


 ぼくは草野に、自分の事を知ってほしいと思った。普段の無口が饒舌に変わる。変える。


「仮面?」


 うーん。解かりにくいかな? ペルソナ。パーソナル。マスクドライダー。変身。


「うまく伝えられる自信はないが、例えば長谷川とやりあった時とか? ぼくが対抗するには心が弱すぎて太刀打ちできないんだ。だから、本とか、ゲームとか、アニメとかのキャラクターから個性や性格を借りて、奴とやりあえる心の鎧と言うか、仮面を付けているんだって思い込むんだ」


「なる……ほど?」


「そうすれば、一時的にではあると思うけど、心が強くなって、ぼくは何でもできる。ぼくは強いんだ、って思えて、どんな奴にでも立ち向かうことができる。と思ってた」


「思ってたって、過去形?」


「よく気が付いたな。今日の草野は。本当に意外だ」


「だって、あんたの事はよく見ていたから」


 な? ちょっと照れてしまったぞ。草野のくせに。


「ふん。過去形の話に戻すぞ」


「うん」


「ぼくは心が弱い。それこそ誰よりも、圧倒的に弱いと自覚している」


「そんなことないと思うけど?」


 弱いと思われないように振舞っていたからな。慎重に強気なふり。あれ、矛盾してね?


「いや、そうだな、実はぼくは子供のころから中2の嘘告事件まで、人間関係のトラブルを現実に経験したことがなかったんだ」


 嘘告という言葉に草野の表情が曇った。そりゃ知ってるよな。クラスメイトだったんだもんな。バレバレ。


「読書は好きだから、知識ではいろいろと知っていたが、突然巻き込まれると、何をどうすればいいのか何も考えられなくなるんだ。知識は浮かぶけど、知恵が回らない状態って感じだな」


「だから心の準備が必要なのね」


「昨日の昼の長谷川との言い合いも、桐生くんと霧島さんに攻撃対象が移ったから、なんとか頭の中で台本を練り上げ、選択肢を準備し、弱気に仮面を張り付けて心に鎧を纏い、その上お守りまで使ってやっと互角にやりあえる所まで持っていったんだ」


「お守りって?」


「あれ? 草野は知らないんだっけ? ……あーそうか、桐生くんと霧島さんにしか教えてなかったっけか。草野にも今度見せるよ」


 話を戻すぞ。


「最近まで一人で過ごすことに慣れていたぼくが、この3~4日人と関わるようになった。話すことは得意だが、会話というものがこんなに難しいと思わされたのはさすがに初めてだった」


 特に言い合い、バトル、口喧嘩。


「さっきも言った長谷川との言い合いだが、あの昼休みだけで、ぼくの精神力はギリギリまで削られた。吐きそうなくらいだった。そのうえで放課後のおまえとのやり取りだ。嘘を作る気力が無かったから、全て正直に話した」


「正直すぎてびっくりしたわよ」


「なんか、正直に話すのに気力はいらないみたいだったからな」


「普通、正直に話すほうが大変だと思うんだけどね」


 あきれ顔の草野。これもまた新鮮。フレッシュ。


「ぼくは普通とか、一般人みたいな多数派の常識からは多少外れているんだろう。自覚はある」


 まぁ、一般の常識を知っているかと聞かれたら自信はないが。


「お前も分かってたんだろ? ぼくの気力がもう底をついてたって事にさ。だから帰り道は長谷川がぼくに直接話しかけないように会話を誘導してくれた。今朝言った通り、ぼくはお前に感謝している」


「倒れた原因ってやっぱりマキ?」


 申し訳なさそうな声を出すなよ。いたたまれない。


「そうだな。元々の原因をただせば、今まで人間関係を避けていた自分にあるが、とどめを刺したのはやはり長谷川だ」


「あの時の会話って確か、桐生くんを褒めてたよね。それに二人に謝罪もした」


「心はこもってなかったがな」

 

「霧島さんにかわいいって言ってたね」


 !? グッ……なんだ、心が痛い。


「……それだ! それでぼくの仮面と鎧が全て砕けたんだ」


 断定。確実。確信!


「かわいいって言ったこと?」


「あぁ。そう、あの時ぼくは、一度でも『言葉で』桐生くんを褒めたことはあったか? 一度でも霧島さんに『可愛い』と言ったことはあったか? と、自問自答しようとした。だが、自問までの記憶はあるが、自答できた覚えがない。つまりそこだろう。ぼくが気を失ったのは」


「霧島さんに可愛いって言いたいんだ?」


 拗ねた表情で、拗ねた声。こんな草野初めてだ。って言うほど関わってきたわけじゃないけど。


「ま、そりゃそうだろ。ぼくの最推しアイドルみたいな存在なんだから」


「ふーん」


 まだ拗ねてる。潮時か。撤退準備。


「そろそろ教室に戻るか」


「待って。もう少し…… ここに居たい」


 急に慌てる草野。おい、どうした?


「なぜだ?」


「あんたと話がしたいから」


「ふむ。まぁいいか。ところで、保健室の先生はどうした?」


「今日は来てないみたい。あ、ちなみにあんたをベッドに運んでくれたのは桐生くん。私じゃないからね」


 その情報なに? え? 何の話だ?


「なにもそんな心配はしてないし、気にもしていないが?」


「そんなことより、なんで『ぼく』呼びなの?『俺』のほうが似合ってるのに」


 草野の圧。回復。まだちょっと弱めだけど。


「『俺』は自分を強く見せたいと願ったぼくの仮面だ。逆に言えば、ぼくは『俺』と名乗るたびに自分の弱さを自覚してしまう。ブーメランとか諸刃の剣とかそういった一人称だ。つまり疲れた」


「そっか…… わかった。あともう一つ聞きたい事が、あって……」


「なんだ?」


「あんた、今、嘘をつけないんだよね?」


 なにか嫌な予感がする。虫の知らせ。


「いや、つこうと思えばいくらでもつけるぞ?」


「なんなのよ、それ!」


 なんか草野の顔、赤くね?


「後々の害になるような嘘や、辻褄合わせが面倒な嘘は無理だが、その場しのぎで特に意味のない、無害な嘘ならいくらでも言えるって所だ」


「じゃあ、嘘をつかないで、ちゃんと答えて。って言ったら答えてくれる?」


「わかった。約束する」


「木下一哉君。あんたは私の事を好き?恋愛的な意味で」


 やっぱりそう来たか。だが、今ぼくはその答えを持っていない。『推してくれる?』だったら即答『イエス』だったんだがな。


「……少し考えさせてくれ」


「即答できないの?」


「待て」


 必死で考えてみる。中学時代はほぼ無関係だった、ただのクラスメイト。関わってからはまだ4日目。どうだろ。恋愛感情……か。


「……わからない」


「じゃぁ、質問を変えます」


 なぜに丁寧語? ます?


「付き合ってくださいって言ったら、付き合ってくれる?」


 ぼくの警戒心が一気に上昇する。周囲に人の気配はないか? カメラは? ボイスレコーダーは? 挙動不審なのは分かってる。でも確認せずにはいられない。心臓が跳ねる。声が出せない。


「大丈夫…… 絶対嘘告なんかじゃないから。私はあんな連中とは絶対に違うから」


 そんなぼくの動揺を察したのか、草野は優しい声で話かけ、まっすぐに見つめてくる。

 良い人だと思う。好ましく思う。隣にいて安心できる人だと理解している。

 恋かとを聞かれたら答えは持っていない。でも、行動や意思を問われるのであれば、答えはある。


「……もちろん。喜んで付き合うよ」


「じゃぁ、付き合ってください。友達からでいいから」


 友達? あれ?


「まさかの格下げ? ぼくはお前の事『特別』って思ってたんだがな?」


「もう~。ちゃんと日本語を使いこなしてよ。そこは『特別な友達』に進化するところでしょ?」


 あ~なる。


「意外だな。草野にそんなこと言われるとは」


 草野がなんかニヤニヤしている。なにこれ、かわいい。


「さっき、机の下で手を握ったこと、覚えてる?」


「あぁ、おぼろげながら」


「チャイムなるまで手、繋ごうよ?」


 な、なんですとーー!? 落ち着いてぼく、落ち着いて~。ハアハア。


「……意外に積極的だな。ってそういえば、乙女チックで恋愛脳なところがあったな。草野には」


「あんたは超ドライだけどね」


 女子と手をつなぐなど初めての経験だ。






 チャイムが鳴って、手を離したとき。

 緊張からか、ぼくの手汗が凄いことになっていた。

 だが、ぼくも草野もそのことには全く触れなかった。

結果を聞いてからじゃないと告白できない草野瞳。案外ヘタレ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 木下君の過去と背景がいいですね。 被っている仮面と素顔のギャップが良い感じ。 草野さんも押し切ると思いきや押し切れずに、それでいて気遣いはしっかり。 [一言] やっぱりいちくん様はラブコメ…
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