クリステル、正式加入(ついでにシーラも)
「えへへ、これで正式に私もルドルフ殿下の派閥ですので、特等席からリズベット様を眺めることができるんですね」
そんなことを宣っているのは、もちろんシーラ。
一応ここは学園のテラス席なのだから、だらしない顔と涎は何とかしたほうがいいと思う。
「と、ということは、結果的にフレドリク殿下の派閥にも属している、ということになるのですか?」
「そうなりますね。ただ、僕達はあくまでも協力関係という立場です。なので、もしフレドリク兄上が皇位継承権を手に入れたあかつきには、相応の見返りは約束されると思いますよ」
顔色を窺うクリステルに、僕は聞きたかったであろう答えを返した。
既に完全に出遅れているスヴェンソン家としては、少しでもよい立場を確保できるかどうかは、死活問題だからね。
「本当に……あの時の失礼の数々、誠に申し訳ございませんでした……」
クリステルは、改めて深々と頭を下げる。
正直、これで何度目だろうか……。
「僕もリズも、もう気にしていませんよ。それよりも、リズはヴィルヘルムと絶交してくれたことを、本当に喜んでいますよ。そうですよね」
「あうあう……ルディ様、そのようにはっきりとおっしゃらなくても……」
リズが恥ずかしがっているよ。可愛い。
「はああああ……これは一つや二つのバゲットでは足りません……!」
……まあ、シーラは放っておこう。
「それで、今さらではありますが、クリステル嬢はどうしてあの時、ヴィルヘルムの肩を持ったんですか?」
「あ……それは……」
少し言いづらそうにしながらも、クリステルは訥々と話してくれた。
どうやら入学したその日に、ヴィルヘルムからスヴェンソン家の支援を持ちかけられたらしい。
スヴェンソン家は、伯爵とはいえそれほど裕福ではないことに加え、ロビンがオスカルと手を結んだことで今後の立場が危うくなっていることを危惧したスヴェンソン家は、ヴィルヘルム……いや、スヴァリエ公爵家の支援を受け入れたとのこと。
それ以降は、ヴィルヘルムの要請に従い、時には他の子息令嬢達と扇動するなどして、クラス内でのあの男の地位向上に一役買っていたということだ。
「……ヴィルヘルムがオスカル殿下と手を結んだことを知らされ、さらにはロビン殿下が幽閉されてしまい、どうすればいいか分からなくなった時にリズベット様の忠告を思い出し、本当にこのままでいいのかと考えるようになりました」
「…………………………」
「でも、リズベット様はあんな失礼なことを言った私に、優しく手を差し伸べてくださったんです。本当に……本当に、嬉しかった……っ」
クリステルの瞳から零れた涙が一滴、頬を伝ってテーブルに落ちた。
「クリステルさん……」
リズが、心配そうにクリステルを見つめる。
だけど……どうしてヴィルヘルムが、入学早々あんなにも注目を集め、人気を得ていたのか理解した。
なんてことはない。ただ子息令嬢を、口先で買収しただけのことじゃないか。
おそらくはクリステルだけでなく、他にも困っている貴族家の子息令嬢にも同じことをしているに違いない。
リズのことといい、とても英雄のすることじゃないね。
あの『ヴィルヘルム戦記』の著者を、締め上げたいところだよ。
「ルディ様。あの男の所業、到底許せるものではありません。こうなれば、徹底的に思い知らせてやりましょう」
「うん、そうですね」
「はああああ……誰かのためにこんなにもご立腹のリズベット様も、最高に素敵です……!」
「シーラ嬢、ちょっと黙っててくれますかね」
堪えきれなくなった僕は、とうとうシーラに指摘してしまった。
面倒だから絶対に触れるまいと、心に決めていたのに。チクショウ。
「グス……ルドルフ殿下、リズベット様、私はお二人のためなら何でもします! ですから、どうか私をいかようにでもお使いください!」
胸に手を当て、懇願するクリステル。
申し出はありがたいけど、ちょっと気負い過ぎ……というか、重い。
「で、では、クリステル嬢はシーラ嬢と一緒に、クラスの子息令嬢の動向などを探っていただいてもいいですか? また、中にはクリステル嬢と同じようにヴィルヘルムに騙されている人もいるでしょうから、そういった人を見つけたら、僕に知らせてほしいんです」
「分かりました、お任せください!」
クリステルはずい、と身を乗り出し、大いに張り切る様子を見せた。
だ、大丈夫……だよね?
「シ、シーラ嬢、クリステル嬢が暴走しないように、注意してあげてくださいね」
「えへへ、もちろんです……って、はああああ!」
そう耳打ちすると、急に瞳を輝かせるシーラ嬢。
ま、まさか!?
「むうううううううう……!」
やっぱり僕のリズが嫉妬して、拗ねていたよ。可愛い。
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