アリシア皇妃、ロビンとの協議
「そういえば……アンデション閣下は、どうしてシーラ嬢をロビンの婚約者にすることをお認めになられたのですか?」
アリシア皇妃のことが上手くいって安堵した僕は、以前から気になっていたことを尋ねた。
はっきり言って、ロビンは皇帝の器ではないことは当然のこと、貴族ですら務まるかどうかも怪しいほどだ。
これまで自身の才覚で領地を繁栄させてきたアンデション辺境伯からすれば、ロビンのような無能はお断りだと思うんだけど……。
「あらあら、簡単な話ですわ」
アンデション辺境伯は、クスクスと笑い、説明してくれた。
まず、ノルディア王国との外交・交易において皇室の支援が期待できること。特に、アリシア皇妃の存在が大きかったらしい。
確かに、皇室で最も帝国のことを考えているのは、他でもないアリシア皇妃だからね。
一応、皇帝も仕事はしているみたいだけど、ベアトリスなんかに現を抜かして公式の場でも連れ歩いている時点で、どうかと思うし。
次に、ロビンが無能であるということが、シーラの相手として条件に適ったとのこと。
それを聞いた時には思わず耳を疑ったけど、シーラにアンデション家を継がせることを考えれば、配偶者は無能のほうが扱いやすいらしい。
加えて、それにより臣籍降下することになるロビンには、爵位と領地が与えられることになるけど、その領地をアンデション家の領地に隣接させることで、かすめ取ってしまおうという魂胆もある。
「で、ですが、それでもロビンなんかを夫として迎えることは、シーラ嬢にとって苦痛なのでは……」
「ウフフ、形式上だけ夫であれば、それで構わないですわ。あとは、それぞれに別のお相手がいればいいのですから」
うわあ……つまり、形だけの夫としてロビンを受け入れ、シーラの本当の相手は別に用意する、と。
ひょっとしたらこれ、ロビンがシーラと結婚していたら、完全に飼い殺しにされるパターンだったんじゃ……。
「シーラからお話を伺っておりましたが、私としましてはルドルフ殿下がお相手いただけると嬉しいんですけど……」
そう言って、アンデション辺境伯が意味深な視線を送ってくるんですけど。
お願いですから、そういうことはやめてくれませんかね。
とりあえず、このままではリズが暴発してしまいそうなので。
――ギュ。
「あ……」
「シーラ嬢の手前、申し上げにくいのですが……申し訳ありません。僕は、リズ以外の女性と添い遂げるつもりはありません」
リズの手を握り、僕ははっきりと告げた。
僕が愛する女性は、後にも先にも、リズ唯一人であることを。
「あらあら……それは仕方ありません」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
残念そうな表情を浮かべる辺境伯に、僕は深々とお辞儀をする。
この時、隣のリズを見てみると……。
「ふふ……ふふふ……」
彼女は頬を赤らめ、嬉しそうに口元を緩めていた。
うんうん、結果的に喜んでくれて何よりだ。
そして。
「えへへへへ……リズベット様、尊い……」
あーあ……シーラ、よだれが出ているよ。
最近、リズにとって一番警戒しなきゃいけないのは、シーラじゃないかって思ってしまうよ。
「ならば、せめて殿下の子種だけでも、いただけないかしら?」
……この人、おっとりした表情で何を言っているのだろうか。
◇
「わざわざ来ていただいて、申し訳ないですわね」
「いえいえ、こちらこそ」
僕達は巨蟹宮を尋ねると、アリシア皇妃が出迎えてくれた。
ロビンの姿がないところをみると、部屋の中で待機しているってところか。
「ルドルフ殿下も、巻き込んでしまったみたいで申し訳なかったわね……」
「いえ……僕のことはお気になさらず」
眉根を寄せるアリシア皇妃に、僕は気にしていないといった素振りを見せる。
でも、彼女の視線からは、『お願いだから、何かあったらよろしく』と、懇願されているように感じた。どうしよう。
「さあさ、では中へお入りください」
「失礼いたしますわ」
「「「失礼いたします」」」
アリシア皇妃に促され、僕達は部屋の中へと入ると。
「っ! リ、リズベット!」
……ロビンの奴、第一声がそれなの?
今日はオマエの不始末について話し合う場だというのに、どうしてそんなに色めき立っているんだよ。
まあ、こんな反応は予想どおりだし、それこそ僕達が望んでいるものではあるけれど。
「やはりお前は、この俺を心配して……」
「どうしてそのように思われるのでしょうか。私がここにいるのは、友人であるシーラさんをお支えするためです。そうでなければ、失礼ですがロビン殿下にお会いしたくなどありませんでした」
「っ!?」
絶対零度の視線を向け、ロビンの言葉を全否定するリズ。
困惑するロビンとは対照的に、シーラはリズに『友人』と呼んでもらえたことが嬉しかったみたいで、瞳を輝かせていた。
「ロビン……あれだけ口を開かないようにと念を押したのに、あなたという子は……っ!」
「お、俺はオスカル兄上側なのだ! フレドリク兄上と“穢れた豚”の側についている母上の言葉になど、この俺が耳を貸すわけがないだろう!」
「ロビン!」
ロビンの放った最低の言葉に、とうとう堪忍袋の緒が切れたアリシア皇妃が、声を荒げた。
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