ルドルフ対ヴィルヘルム
「それまで! 勝者、エドガー!」
イクセル先生が勝ち名乗りを上げ、エドガーは姿勢を正して一礼した。
とりあえず、これで伯爵家子息同士の試合が終わったので、これから侯爵家子息同士の試合、そして、最後に僕とヴィルヘルムの試合が予定されている。
というか、案の定同程度の身分同士で戦わせるんだなあ。
まあ、そのほうが後々問題にならないし、負けたほうだって文句も言いづらいからね。
それよりも。
「……あと少し、かな」
学舎の壁に備え付けられている時計の針を見やり、僕はポツリ、と呟いた。
何があと少しなのかって? もちろん、リズの実技試験の終了時刻だよ。
このペースでいけば、リズが僕の試合観戦に間に合いそうだ。
「おや、先程から時計を気にしているようですが、緊張しているのですか?」
呼んでもいないのに、ヴィルヘルムの奴がわざわざ絡んできた。面倒だなあ。
「貴様こそ、僕と話をする余裕なんてあるのか? 侯爵子息の試合が終われば、その次は僕達の番なのだが」
「もちろん、分かっておりますよ。ですが……失礼、俺とルドルフ殿下では少々実力差があるのではないかと思いまして」
ああ、なるほど。結局のところ、僕を煽りたいんだな。
こんな真似をしておきながら、いざ僕に負けたら、恥ずかしくて学園に来れなくなってしまうんじゃないだろうか。ある意味勇者かな?
そんな僕とヴィルヘルムの様子を真っ青な顔で見つめているのは、入学式の日に僕に打ち負かされたロニーとエドガー。
二人は僕の実力を知っているから、結果がどうなるか分かっているし。それに、僕に勝利したということがデマだとバレてしまうから、気が気じゃないよね。
今さらそのことを訂正しようにも、もはや言い出すことなんてできないし。自業自得だけど。
「……いずれにせよ結果が全てなんだから、僕に構っていないで試合に向けて集中したらどうだ?」
「そうでしたね。俺が話しかけたせいで負けてしまっては、それこそ申し開きが立ちません」
ヴィルヘルムは、肩を竦めて苦笑する。
僕もこれ以上相手にしたくないので、ヴィルヘルムを一瞥してから試合に視線を戻すと。
「ああ、そうそう」
「?」
「リズが、向こうの実技試験が終わり次第、僕の試合を観戦してくれるんだ」
僕は少し自慢げに、ヴィルヘルムに告げた。
「へえ……リズベットが」
「そうだ。僕の雄姿を見るためだけに、ね」
そうとも。リズは、決して貴様なんかを見にくるんじゃない。
この僕だけを、見にくるんだ。
「フフ……」
ヴィルヘルムの嗤い声が聞こえ、僕もまた、ほくそ笑んだ。
◇
「次! ルドルフ殿下、ヴィルヘルム、前へ!」
いよいよ僕の番となり、イクセル先生が名前を呼んだ。
僕とヴィルヘルムは、先生の待つ訓練場の舞台へと歩を進めると。
「ヴィルヘルム様! 頑張ってくださいませ!」
「応援しています! ヴィルヘルム様!」
おおう……実技試験を終えて見学している令嬢達から、ヴィルヘルムに向けて黄色い声援が飛び交っているぞ。
というか、令嬢のほとんどがヴィルヘルム推しかあ……少しくらい、僕を応援してくれてもいいんじゃないかな。
まあ、でも。
「…………………………」
「ルドルフ殿下ー! 頑張ってください!」
シーラはともかく、無言のままアクアマリンの瞳で僕だけを見つめるリズ。
彼女さえいてくれれば、他の令嬢の声援なんて一切いらないよ。
ということで。
「ヴィルヘルム、負ける準備はできているか?」
「まさか。殿下こそ、これは試合ですので、手加減はできませんことをご承知おきください」
「言うじゃないか」
ヴィルヘルムの言葉に、僕は不敵な笑みを浮かべる。
さあ……僕のリズが見守ってくれているんだ。つまらない試合だけはしないでくれよ?
「では……はじめ!」
「シッ!」
イクセル先生の試合開始の合図と同時に、ヴィルヘルムが一気に飛び出した。
剣の型を披露していた時とは、比べ物にならないほどの動きだ。
これなら、確かにエドガーやロニーじゃ、相手にならないだろうね。
だけど。
「っ!?」
ヴィルヘルムが放った剣撃を、僕はあっさりと受け止めてみせる。
隠していた実力を披露してもこの程度じゃ、やっぱりリズの足元にも及ばないね。
あはは。ヴィルヘルムの奴、慌ててエドガーとロニーを見ているよ。
確かに、これじゃ話が違うと思っても仕方ないけど。
「どうした。まさかこの程度で、僕に勝つつもりだったのか?」
「……っ!」
肩を竦めて煽る僕に、ヴィルヘルムはこちらへ視線を戻し、表情が険しくなった。
「僕はまだ一つも、リズにいいところを見せていないんだ。もう少し、善戦してくれないと」
「クッ!」
ヴィルヘルムは顔を真っ赤にし、執拗とも思えるほど息を吐かせぬ連撃を繰り出す。
それを僕は、いなし、躱し、弾いた。
というかヴィルヘルムの奴、怒りのせいで大振りになっているぞ。これじゃ隙だらけだ。
ウーン、ちょっとがっかりだな。
あの『ヴィルヘルム戦記』では、他国の最強の騎士も一騎討ちで倒したっていうから、少しは警戒していたんだけど、期待外れもいいとこだよ。
仕方ない。もう終わらせてしまって、あとはリズと二人きりの時間を楽しむとしよ……っ!?
突然、僕は足を取られてしまう。
それもそのはず。ヴィルヘルムが、僕の右足を踏みつけているのだから。
そして。
――ヒュッ。
体勢の崩れた僕の眉間を目掛けて、ヴィルヘルムの木剣が襲いかかった。
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