無粋な連中
「ルドルフ……フレドリク兄上から離れ、僕につく気はないか?」
オスカルから放たれたその言葉は、僕を驚かせるには十分だった。
まさか……オスカル本人から、僕の勧誘に来るなんて。
「お前も知っているだろう? フレドリク兄上は、能力は高いが皇帝になるために必要な資質に欠けていることを」
オスカルの言う、フレドリクに欠けた資質。それは、対人能力に他ならない。
物事の全てを合理的かつ効率的に考えてしまうあまり、フレドリクは他人と噛み合わないのだ。
それは、実の母親であるアリシア皇妃に対してもそうだし、弟のロビンに対しても。
結果的に、そのことがロビンに劣等感を植えつけ、オスカルに寝返った要因の一つになっている。
まあ、寝返りの一番の要因は、僕と手を結んだからだけど。
「その点に関しては僕も同意しますが、優秀な部下が繋ぎ役となれば、解消できることだとも思います」
「ルドルフの言うとおりだけど、ならその繋ぎ役を、一体誰が担うんだい?」
「…………………………」
マーヤの報告では、フレドリク陣営には彼を補佐する人物はいない。
ということは、結局はその問題が解決されていないということだ。
「とにかく、一度よく考えてみてくれ」
オスカルは僕の肩をポン、と叩き、立ち去ろうとして。
「オスカル兄上……一つお聞きしてもよろしいですか?」
「ん? なんだい?」
「どうして今になって、僕を引き込もうと考えたんですか?」
僕は、素直な疑問を投げた。
本当に僕を必要としているなら、いくらでも機会があったはず。
ファールクランツ侯爵の軍事力を得たいのであれば、リズと婚約した時に接触することだってできたんだ。
でも、オスカルはあえて僕が帝立学園に入学したタイミングで、勧誘してきた。
それには、何か理由があるはずなんだ。
すると。
「決まっているさ。ここなら、誰も邪魔しないからね」
オスカルは、口の端を持ち上げてそう答えた。
なるほど……確かにオスカルの言うとおり、ここは皇宮ではなく帝立学園だ。
アリシア皇妃やファールクランツ侯爵が横槍を入れることは難しいし、子息令嬢達が皇族であるオスカルに難癖をつけることもできない。
何より、フレドリクは僕と入れ違いで学園を卒業している。
つまり、僕はフレドリク陣営であるけれど、孤立している状態なんだ。
なら、オスカルが僕を切り崩しにかかるのも当然か……。
「それじゃ」
オスカルは手をひらひらとさせて、今度こそこの場を去った。
「……ルディ様、どうなさいますか?」
リズが、おずおずと僕の顔を覗き込む。
まあ……オスカルは一つ勘違いをしているよね。
だって。
「別にどうもしません。僕は、僕の最善を尽くすだけです」
僕の行動原理は、あくまでもリズとの幸せにあるのだから。
だから、最初からフレドリクやアリシア皇妃なんて関係ないし、オスカルがどんなに揺さぶりをかけても、僕は何も変わらないよ。
「あははっ」
オスカルの去った先を見つめ、僕は嗤った。
◇
「四九九八……四九九九……五、千……っと」
その日の深夜、僕は日課の素振りをした。
リズに勝利したあの日以降、その回数を五千に増やして。
ファールクランツ侯爵にも少し急ぎ過ぎじゃないかって言われたけど、愛するリズを僕だけが守り抜きたいんだ。なら、急ぐのも当然だよね。
ただ。
「四九九九……五千」
リズもまた、僕と同じように槍の突きを五千回こなすようになったけど。
「夜風が気持ちいいですね……」
額の汗を拭いながら、リズが微笑んだ。
夕食時のようなドレス姿も最高に綺麗だけど、艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた訓練着姿のリズも、最高に素敵だ。
こういう、普通の貴族令嬢なら絶対にない彼女の姿に、僕の胸はときめいてしまうよ。
「ルディ様、せっかくですので手合わせをいたしませんか?」
「ようし! 今日こそはリズに勝ち越してみせるぞ!」
「ふふ! 負けませんよ!」
今でもリズのほうが強いけど、それでも、僕も三回に一回は彼女に勝てるようになってきた。
侯爵は、リズに十回に一回の割合で勝つには三年かかるって言っていたけど、努力したおかげでここまで強くなったんだ。
それを知った時の侯爵、珍しく眉を動かしていたなあ。
普段は滅多に表情を変えないのにね……って。
「あいたっ!?」
「ルディ様、立ち合いの最中に考え事はいけません。怪我をしてしまいますよ?」
眉根を寄せるリズに、叱られてしまった。
確かに、せっかくリズと二人きりなんだから、余計なことを考えていたらもったいないよね。
「さあ、もう一回だ!」
「はい!」
気合いを入れ直し、僕とリズは手合わせを再開した。
その時。
「ルドルフ殿下、私達とも手合わせ願えますか?」
現れたのは、教室で絡んできたエドガー子息とロニー子息だった。
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