シーラの本性
「ハア……おかしいですね。普通の殿方は、これで簡単に騙されてくれるんですが」
シーラは溜息を吐き、ちろ、と舌を出した。
……何だ、このあざとさは。
その庇護欲をそそる表情といい、男受けしそうな肉付きの良い身体つきといい、男心をくすぐる仕草といい、普通の男なら、間違いなく彼女の言いなりになってしまいそう。
あ、僕はもちろん騙されないよ?
だって、僕にはシーラなんかより何十倍も可愛らしい婚約者がいるから。
それに、僕的にはリズのように普段は表情も変えずクールなのに、僕だけに見せる仕草や表情こそがたまらないんだよ。
そういうことなので。
「この僕を、他の男連中と一緒にしないでください」
僕はリズを見つめながら、はっきりとそう告げた。
もちろんこれは、僕がそんな男じゃないことを、リズに改めて知ってもらうためだ。
そのおかげでホラ、リズが緩みそうな口元を、必死に堪えているよ。可愛い。
「それで、そろそろ本題に入っていただいてもいいですか?」
「やっぱり駄目かあ……仕方ないですね」
ようやく僕を篭絡することを諦めたシーラが、急に真顔になる。
表の顔がアレだっただけに、本来の……裏の顔には、媚びる様子が一切なく、リズとはまた違った冷たさを感じた。
「殿下も大方予想はついているかもしれませんが、私がご相談したいのはロビン殿下のことです」
「ああー……」
そんなことだろうと思ったよ。
そもそも、ロビンの奴がリズに懸想して夜這いまで働き、挙句の果てに実の母親と兄を裏切ったんだ。
これだけでも、皇子としてあるまじき行為なのに、それによって生じた今の状況を喜んでいる始末。
あの子供には無償の愛を注ぐアリシア皇妃も、今回ばかりは匙を投げてしまっている。
シーラだって、気にしていないように見えても、婚約解消になって彼女の経歴に傷がついてしまったんだ。
今後のことを考えれば、アンデション家は皇室に対し多額の賠償を求めてもおかしくはない。
「私としましても、最初からロビン殿下との婚約に乗り気ではありませんでしたが、それでもアンデション家のためと割り切っておりました。なのに……あの男は、あろうことかルドルフ殿下の隣に座る女に現を抜かす始末」
「お待ちください。リズは一方的に言い寄られ、むしろ被害者です。その言い方はないのでは?」
「……失礼しました。とにかく、ロビン殿下にアンデション家の名誉を傷つけられたことは事実。皇室に対し、正式に賠償を求めることを検討しております」
リズに鋭い視線を向けるシーラをたしなめると、彼女は納得がいかないながらも、話を続ける。
「そこで、ルドルフ殿下にお願いしたいのは、アンデション家による賠償の求めに際し、手助けをしていただきたいのです」
「手助け……?」
彼女の求めに対し、僕は思わず首を傾げる。
そもそも、こんなことをしでかしたのはロビンなので、賠償だって徹底的に求めればいいと思っているけど、だからといって、そんなの僕の知ったことじゃない。
それでも、彼女が僕を頼るのは何故だ?
「……ご存知かもしれませんが、僕は私生児の第四皇子で、皇室において何の力もありません。ご期待に添うのは難しいかと」
「そうでしょうか。リズベット様を婚約者に迎えたことで、ルドルフ殿下はバルディック帝国の名門、ファールクランツ侯爵家の支援を得ています。加えて、第一皇子であらせられるフレドリク殿下とも手を結ばれているとか」
「それは、まあ……」
「なら、ルドルフ殿下が皇室内において、一定の発言権をお持ちだと考えるのが普通です」
ふむ……言いたいことも理解できるし、言っていることも筋が通っているけど、甘いなあ……。
そんな簡単に僕の影響力が増すんだったら、最初からもっとましな扱いを受けているよ。
「ですが、それでしたら僕なんかに頼むより、アリシア妃殿下に直接物申したほうが早いのでは? 妃殿下も、この件に関しては特に心を痛めておられましたから……」
「いいえ、そういうわけにはまいりません。アリシア妃殿下も、ロビン殿下の実の母親なのですから」
あー……確かにアリシア皇妃って、どんなに駄目な息子であっても、結局は甘いからなあ。ベアトリスとは正反対だ。
「その点、ルドルフ殿下であれば同じく被害者ですし、お互いにとって都合がよいかと思うのですが」
シーラが、僕の顔を覗き見る。
相手がロビンである以上、母親のアリシア皇妃や兄のフレドリクは当事者側だし、第二皇子のオスカルだって、今はロビンを抱え込んでいる。
となると、残されているのは僕だけ。
そりゃこんな僕でも、頼りたくもなるかあ……。
「……シーラ嬢の目的や依頼の内容については、分かりました」
「では……?」
「お待ちください。話は理解しましたが、だからといって僕が受けるかどうかは別です。何より、これは僕にとってメリットがありません」
シビアな話かもしれないけど、僕がこの話を引き受けるいわれはない。
それどころか、場合によってはアリシア皇妃やフレドリクを敵に回すことにもつながりかねないからね。ここは、慎重にさせてもらうよ。
「もちろん、ルドルフ殿下にはご納得いただけるだけのものを用意しております」
「? それは……?」
「はい。私達アンデション家は今後、ルドルフ殿下を支援いたします」
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