この夕食会、大丈夫かな……
「ルディ様……」
青に白銀の差し色のあるドレスを身にまとうリズが、男子寮の入口で僕を待っていてくれた。
え、待って。ひょっとしてリズ、この格好のまま男子寮の入口で待ってくれていたの?
「っ! だ、駄目じゃないですか!」
「キャッ!?」
僕はリズの両肩をガシッとつかみ、ずい、と顔を近づける。
「ここは節操のないケダモノのような男連中が暮らすところなんですよ!? リズのような世界一綺麗で素敵な女性がこんなところにいたら、それこそいやらしい視線で見られてしまいます!」
「あ、あう……」
そうだとも! 男なんて全員、ロビンやヴィルヘルムと一緒だ!
僕のリズを見たら、男連中はそれこそ婚約破棄をしてでもリズに言い寄ってくるに決まっている!
「今日は何事もなくてよかったですが、次からは絶対に、僕が迎えに行くまで待っていてくださいね!」
「は、はいっ!」
おかしいな……僕はこんなにも怒っているのに、どうしてリズは満面の笑みを浮かべているんだろう。可愛い。
「さすがはルドルフ殿下、リズベット様の喜びポイントを的確に突きますね」
「?」
マーヤがよく分からないことを言うので、僕は首を傾げた。
ま、まあいいや。それよりも。
「でも、リズ……僕を迎えにくださったその気持ちは、とても嬉しいです。ありがとうございます」
「はい……ルディ様、大好きです」
ねえ聞いた? リズ、僕のこと大好きだって。
どうしよう、嬉しくて飛び上がりそうなんだけど。
「コホン。早く向かいませんと、シーラ様をお待たせしてしまいますよ」
「「あ……」」
おのれマーヤ、僕とリズの二人だけの空間を邪魔して。
とはいっても彼女の言うとおり、早く行かないとシーラを待たせることになる。
僕はリズの前に跪き、そっと手を取ると。
「では、まいりましょう」
「はい」
僕達は、シーラとの夕食の場となる部屋へと向かった。
◇
「申し訳ありません。お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ! 私も今来たところです!」
部屋へ到着するとシーラは既に来ており、着席していた。
ふむ……彼女はリズとは対照的に、赤色のドレスか。
だけど。
「…………………………」
彼女、本当に十五歳か?
制服を着ていた時にはそれほど目立ってはいなかったけど、ドレスになると、その……色々と成長が著し過ぎだと思うんですが。
「……ルディ様」
「っ!? さ、さあ、どうぞリズ」
底冷えするような声で呼ばれ、我に返った僕は、慌ててリズを席に座らせた。
も、もちろんリズのほうが、スタイル抜群ですから……本当だよ?
「ルドルフ殿下、お酒はいかがなさいますか?」
「僕達はまだ成人になったばかりだし、果実水でいいよ」
「かしこまりました」
マーヤが勧めるけど、僕としては最初に飲むお酒はリズと二人きりがいい。
彼女だって、まだお酒は飲んだことがないはずだし。
だけど……マーヤが心底がっかりしているところを見ると、僕達を酔わせて笑いの種にするつもりだったな? 本当に、うちの専属侍女は……。
「では、乾杯しましょう。僕達の入学祝いと、シーラ嬢との出会いに」
「えへへ、乾杯」
「……乾杯」
一人だけ、明らかに不機嫌な声のリズ。
こ、これは社交辞令としての乾杯の挨拶なんだから、許してください……。
「! 美味しいです!」
オードブルとなる魚のマリネを口に含み、シーラが顔を綻ばせた。
まあ、今日の料理はマーヤが手配してくれたからね。ニンジンさえ入っていなければ、美味しいに決まっているとも。
「リズはいかがですか?」
「もちろん、美味しいです」
「それは良かった」
僕もまた、リズが美味しそうに食べる姿を見て、頬を緩める。
リズに喜んでもらえて嬉しい。
「それで……今日、僕達との夕食を希望されたのは、どうしてですか?」
この部屋は個室だし、優秀な諜報員のマーヤもいるので、ここでの会話が誰かに聞かれるようなことはない。
回りくどいことをしても仕方ないので、僕は単刀直入に尋ねた。
「? もちろん、ルドルフ殿下とリズベット様と、ご一緒に夕食をしたかったからですが……」
シーラは、キョトン、とした表情でそんな答えを返した。
彼女のおっとりとした雰囲気などもあり、本音かどうか判断に困る……なんてこともなく。
「そうですか。なら、このまま最後まで食事だけを楽しみましょう」
「…………………………」
そう告げた瞬間、シーラは口をつぐんで僕をジッと見る。
僕の意地悪に対する、無言の抗議だろう。
「ハア……おかしいですね。普通の殿方は、これで簡単に騙されてくれるんですが」
シーラは溜息を吐き、ちろ、と舌を出した。
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