あざといシーラ、嫉妬するリズベット
「リ、リズ……そろそろ許してはくれませんか……?」
「…………………………」
シーラと夕食の約束をしてから、リズが一切口をきいてくれない……。
そればかりか、いつもなら僕がエスコートをするのに、手さえ触れさせてくれないばかりか、こちらも見てくれないでいる。
もちろん僕だって、シーラとの夕食を受け入れたのには、理由がある。
教室でシーラと会話をした限りでは、どこかおっとりとしていて庇護欲をそそられる雰囲気ではあるけれど、僕は彼女に裏の顔があるんじゃないかと感じた。
もし彼女の雰囲気に騙されていれば、そういったことには気づかないだろうけど、あいにく僕は私生児の第四皇子として、生き馬の目を抜く皇宮でずっと蔑まれて生きてきたんだ。
だから、少なからず人を見る目はあると思っている。
となると、シーラが僕を誘ってきたのには何か理由があるはず。
最も考えられるのは、婚約を解消したロビンに関することだろう。
そして……もちろんリズだって、そのことは理解している。
「リズ、勝手に決めてしまったことは謝ります。ですが、彼女の思惑が何なのか確認しないことには、明日からの学園生活に……君にとってよくないことが起こる可能性だってあります」
そもそも、ロビンはリズに懸想してフレドリクとアリシア皇妃を裏切り、シーラとの婚約を解消した。
なら、リズがシーラに逆恨みをされていてもおかしくはない。
もちろんリズは強いし、ファールクランツ家だってアンデション家なんて目じゃない。
でも、ここは帝立学園で、多くの子息令嬢がいるだけでなく、学舎にいる時はマーヤ達の助けを借りることもできないんだ。
リズに降りかかる火の粉は、僕が全て払いたい。
だから。
「お願いします。彼女の思惑を知るために、どうか協力してください」
僕はリズの前に立ち、深々と頭を下げた。
「……ずるい」
「え……?」
「ルディ様にそのようにお願いされては、私は受け入れるしかないじゃないですか……」
リズは、僕の身体をそっと抱き起こす。
少し困りながらも、表情を緩めながら。
「ありがとうございます。やっぱり、僕には君だけです」
「もう……本当にずるい」
そう言うと、リズはそっと僕の手を握って微笑んだ。
◇
「……そういうわけで、マーヤは僕達と一緒にシーラとの夕食につき合ってくれ。アンネはその間、ヴィルヘルムの監視を」
「「かしこまりました」」
学生寮に帰ってくるなり、僕はマーヤとアンネに指示を出した。
「それで、夕食に当たっては個室をご用意しますか?」
「できるの?」
「はい。ここは皇族も通う学園ですので、重要な会食が行われることなどもございますので」
どうやら、そういうことらしい。
僕からすれば、この学園寮で行われる重要な会食って、一体何なの? って尋ねたいところ。
「分かった、それじゃ、是非お願いするよ」
「お任せください。料理も、特別メニューでご用意させていただきます」
恭しく一礼するマーヤに、僕は一抹の不安を覚える。
こういう時、マーヤは絶対にろくなことをしないことを、僕は経験から分かっていた。
「……言っておくけど、ニンジンのフルコースとかはお断りだからね?」
「い、嫌ですね……私がそんなこと、するはずがないじゃないですか」
マーヤ、そういうのは僕の目を見ながら言ってくれ。
「ルディ様、これで話は終わりましたね?」
「え? え、ええ……」
顔を覗き込むリズに、僕は曖昧に返事をした。
「でしたら、あの女……シーラとの夕食まで、この私とお手合わせ願います。私はあの女のせいで、非常に不快な思いをいたしましたので」
「あ、あははー……お手柔らかに……」
どうやらリズの怒りは、全然収まっていなかったらしい。
うう……僕が打ちのめされて、訓練場に地面に転がる未来が視えるよ……。
◇
「いてて……」
「ふふ、ありがとうございました」
予想したとおり、打ちのめされて地面に転がる僕に、リズが右手を差し出した。
僕は彼女の手につかまり、ゆっくりと立ち上がる。
「うーん……僕もまだまだだなあ……」
「そんなことはありませんよ? 今の立ち合いでも、あと半歩遅れていれば地面に倒れていたのは私でしたから」
なんてことを言っているけど、それがお世辞であることに気づかない僕じゃないよ。
僕とリズの実力差は、まだ全然埋まっていない。
「あはは、ありがとうございます」
「むう……本当ですのに」
おどける僕を見て、リズが口を尖らせた。可愛い。
「それより、そろそろ汗を流しておかないと夕食に間に合いません。急ぎましょう」
「はい」
僕達はそれぞれの部屋へと戻り、お風呂に入って汗を流す……んだけど。
「マーヤ。今日の夕食の相手はシーラ嬢だから、花はいらないんだけど」
「何をおっしゃっているんですか。隣にはリズベット様がお座りになるんです。ちゃんとあの御方の好きなジャスミンの香りを身にまといませんと」
うむむ……それなら仕方ないか。
僕はマーヤに言われるがまま、されるがまま身支度を整えると。
「さて……じゃあ、行こう」
「はい」
マーヤを伴い、リズベットのいる女子寮の入口へと向かう。
本当は部屋まで迎えに行きたいけど、女子寮は男子禁制なのだ。
すると。
「ルディ様……」
青に白銀の差し色のあるドレスを身にまとうリズが、男子寮の入口で僕を待っていてくれた。
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