入学式とクラス分け
「それはそれで問題になりますよ。特に、ロビン兄上はオスカル兄上と一緒にいることを絶対に許さないと思いますから」
そうとも。惚れているリズはともかく、最も憎い僕のことは、すぐにでも殺してやりたいと思っているだろうし。
「それについても心配いらないさ。だって」
オスカルは、僕とリズを交互に見やった後。
「アイツは、すぐに壊れるだろうから」
口の端を、三日月のように吊り上げた。
だけど……『壊れる』って、どういう意味だ?
「オスカル兄上、それは……」
「おっと、さすがにこれ以上は遅れてしまう。早く向かおう」
オスカルは、僕達を手招きして急かす。
リズやマーヤ、アンネも時間を気にしているようなので、仕方なく僕はみんなと一緒にオスカルの後に続いた。
「さあ、向こうが新入生の席だ」
「あ……ありがとうございます……」
「それじゃ、僕はこれで」
手を振りながら、自分の席へと向かうオスカル。
結局、何だかよく分からないままだなあ……。
だけど。
「……マーヤ」
「お任せください。私とアンネで、オスカル殿下を監視いたします」
さすがはマーヤ、僕の考えをすぐに読み取ってくれた。
今ではもう、僕達の専属侍女として欠かせない存在になっているよ……って。
「リズ……?」
「むう……」
いけない、リズが拗ねてしまった。
新年に告白して以降、ますます独占欲が強くなったリズは、マーヤに対してですら嫉妬するようになった。
僕としては嬉しい反面、ちょっと困るような場面も少しあったりする。
アンネを専属侍女に加えた時も、リズが拗ねて部屋から出てこなくなって、大変だったなあ……可愛くて困った。
「ほら、これは君を守るためにも大切なことですから、機嫌を直してください」
「……分かりました」
リズの細い手を握りしめて笑顔でそう告げると、彼女は渋々ながら納得してくれた。最高に可愛い。
ということで、ようやく僕達は新入生の席に着いた……んだけど。
「「「「「…………………………」」」」」
……同級生となる子息令嬢達が、遠巻きに僕達を見ている。
しかも、わざわざ僕達から離れた席に移動する始末。
あははー……警戒されたものだね。
とはいえ、僕も私生児の第四皇子である上に、毒殺未遂事件以前の悪評もあるから、この反応も当然といえば当然なんだけど。
だけど。
「「「「「ヒッ!?」」」」」
離れている子息令嬢達が、身体を強張らせて悲鳴を上げた。
原因はもちろん、隣のリズだ。
この一年でますます美しさに磨きがかかるだけでなく、その威圧感も半端なくなってしまった。
それはもう、隣にいる僕の存在が空気になってしまうほどに。
今ではリズの絶対零度の視線を受けたら、ファールクランツ侯爵はおろか、アリシア皇妃ですらたじろいでしまう。
でも。
「リズ」
「ルディ様、ですが……」
彼女の手を握りしめ、子息令嬢達の威嚇をやめるように促すが、リズは納得がいかないようで口を尖らせた。
「僕は気にしていないし、これまでの評判だって、学園生活の中で変えていけばいいんです。それより、僕のために君が他の者達から、不当な評価を受けることになるほうが、僕自身を許せません」
「…………………………」
「だから、あの者達のことは気にせず、僕だけを見ていてくれませんか? それだけで、僕はすぐに幸せになり、嬉しくなってしまうんですから」
僕はリズに、ニコリ、と微笑んでみせる。
君には、僕だけに見せるあの笑顔でいてほしいから。
「もう……結局、ルディ様の思う壺ですね」
そう言うと、リズも笑ってくれた。
◇
「……以上をもちまして、入学式を終了いたします」
無駄に長かった入学式がようやく終わり、僕達新入生は移動を始める。
この後は、それぞれ振り分けられた教室への移動となるけど……まあ、いくら第四皇子とはいえ皇族の僕は、Aクラスだろうなあ。
ちなみに、帝立学園のクラス分けにあたり最も優先されるのは、能力ではなく身分だ。
皇族をはじめ、公爵家から伯爵家までがAクラス、それよりも下の身分の者は、Bクラスに分けられる。
一部には、『共に学ぶのだから実力主義であるべき』『身分に囚われるべきではない』などという意見もあるが、当事者である生徒の身になって考えてほしい。
いくら身分は関係ないと声高に言ったところで、実際に上の身分の者に対して無礼を働いたら、実家を含め処罰されるわけだし、むしろどう接していいか分からなくなってしまう。
そんなことをしても百害あって一利なしなのだ。
とまあ、そういうことなので、僕とリズベットのクラスは既定路線どおりのAクラスだった。
ただ……同じく公爵家という貴族筆頭の地位にいるヴィルヘルムもまた、僕達と同じクラスなんだけど。
「ハア……これならリズと一緒にBクラスのほうがよかったよ……」
「そうですね……」
掲示されているクラス分け表を見て、僕とリズはがっくりとうなだれる。
その時。
「この男が、あの第四皇子か」
「そうらしいですよ」
僕達の後ろから、男達の失礼な会話が聞こえた。
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