僕達、入学します
大切なお願いです!
どうかあとがきまでご覧くださいませ!
「ルドルフ殿下、早く召し上がってください!」
「うぐう……」
朝食……いや、ニンジンを前にして唸る僕に、マーヤから容赦ない催促が入る。
いい加減、そろそろ僕にニンジンを食べさせることは、諦めてほしいんだけど。
「ルディ様、マーヤの言うとおりです。しっかり食べませんと」
「リズまで……」
どうやら、僕に味方はいないらしい。
いいよ……一人には慣れているから。
そう思っていたけど。
「む、無理して食べなくてもよろしいのでは……」
この三百年前の世界には、救いの女神はいたようだ……って、え? 一体何者なのかって?
少しおどおどした、引っ込み思案の彼女の名前は“アンネ=オールソン”。
彼女には僕達の専属侍女として、一か月前から働いてもらっている。
もちろん、マーヤと同じファールクランツ侯爵子飼いの諜報員だけどね。
というのも、帝立学園ではお世話要員として従者を一人連れて行くことができるんだけど、僕とリズの二人をマーヤだけで面倒を見てもらうわけにはいかない。
何より、学園寮は男子寮と女子寮に分かれているから、マーヤがそこを行き来するのは不便だ。
ただ。
「アンネ、何度も言いますが、ルドルフ殿下を甘やかしてはいけません。殿下は隙さえあれば、平気でニンジンを粗末にするような御方なのですから」
「は、はあ……」
「まあ、学園でもこの私がお世話いたしますので、そのようなことは絶対にさせませんが」
そうなのだ。結局、マーヤが僕の世話をしてくれることには変わりなく、リズにはアンネがつくことになっている。
僕としては、長い間仕えていたマーヤがリズに仕えたほうが、リズとしても環境が変わっても安心して生活できるって提案したんだけど。
『アンネでは、殿下の手綱をしっかりと握ることはできませんから』
マーヤのその一言で、こうなってしまったのだ。
これにはリズも完全同意らしく、僕に選択の余地はなかった。
いや、もちろん僕としても本当の意味で初めて仕えてくれたのがマーヤだし、嬉しくはあるんだけど、ねえ……。
「ほら、このままでは入学式から遅刻してしまいます」
「ルディ様、頑張ってください」
「嫌だ……嫌だよお……」
リズとマーヤの厳しい視線を受けながら、僕は涙ながらにニンジンを口の中へ押し込んだ。
◇
「ふう……どうやら間に合いそうですね」
帝立学園に向かう馬車の中、ジト目で僕を睨むマーヤが、盛大に息を吐いた。
悪いとは思っているので、お願いだから許してほしい。
「ですが、これからは寮生活ということで、ルディ様とご一緒する機会が減ってしまうのは、私としてはいただけませんね」
「それは仕方ないですよ。選択授業などはできる限りリズと同じものを選ぼうと思いますが、寮に戻れば完全に分けられてしまいますので……」
「ハア……」
溜息を吐き、肩を落とすリズ。
というか、侍女は男子寮に入ってもいいのだから、そもそも男女で分ける必要性って一体……。
「しょ、食事は食堂で一緒にできますし、消灯時間までは共用の広間で過ごせば、天蝎宮にいる時のような生活はできるんじゃないでしょうか」
この会話、ここ最近は毎日のようにしている。
それだけ、リズが僕と離れることをつらいと思ってくれているんだけど、不謹慎ながら僕は嬉しくて仕方がない。
とはいえ、落ち込む彼女を見るのもつらいので、こうやって慰めているのだ。
「むう……ルディ様は、いつも冷静ですね。私と離れることになって、寂しくはないのですか?」
「も、もちろん寂しいに決まっていますよ」
とまあ、ここまででワンセットなんだけど。
ますます僕のことを独占……というか、束縛したがるリズ、すごく可愛い。
「ハイハイ。リズベット様もこれで気が済みましたね?」
「……マーヤ、もう少しくらい、ルディ様に甘えさせてくれてもいいじゃないですか」
「見ているこちらの身にもなってください。特にアンネなんて、ファールクランツ家とは違うリズベット様のそのお姿に、幻滅しておりますよ」
「っ!? わ、私はそんな……」
アンネがとばっちりを受け、慌てて否定する。
マーヤも後輩をダシにするような真似、どうかと思うよ?
「あ、あはは……それより、この様子だと学園に到着するまで、もう少し時間がかかりそうですよ」
話を切り替えるため、僕は馬車の先を指差した。
僕達と同じように、帝立学園に入学する子息令嬢達を乗せた馬車が、長蛇の列をなしている。
なお、本来なら皇子である僕は特別待遇で列を抜かすこともできるんだけど、あえてそれをしようとは思わない。
何故なら。
「リズ、せっかくですから僕達は馬車を降り、ここから歩いて行きませんか?」
「それは素晴らしい提案ですね」
こんなに天気もいいんだし、二人で歩くのも楽しいよね。
それに、リズも喜んでくれているみたいだし。
「じゃあマーヤ、アンネ、僕達は歩いて先に行くから後で合流しようね」
「お待ちください。私もご一緒……って、ルドルフ殿下!? リズベット様!?」
マーヤの制止を聞かず、僕とリズは馬車を飛び出した。
「ふふ……ルディ様、二人きりですね」
「ええ。僕も、君と二人になりたかったですから」
「まあ」
僕は、咲き誇るような笑顔を見せるリズの手を取り、行列によって立ち往生している馬車の横を悠々と歩いた……んだけど。
「…………………………」
……馬車の中から忌々しげに睨む、ヴィルヘルムと目が合ってしまった。
お読みいただき、ありがとうございました!
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内容の加筆は当然のこと、リズベットがさらに可愛くヤンデレに、マーヤは色々とやらかしております(もっとやれ)
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