いざ、パーティー会場へ
「うふふ、上手くいったみたいですね」
リズベットの部屋に戻ってくるなり、待ち構えていたマーヤに揶揄われてしまった。
「……よく分かったね」
「当然ですよ。お二人とも、口元がゆるっゆるですよ?」
「「っ!?」」
僕とリズベットは、慌てて手で口を隠した。
うぐう、そんなに顔に出ていただろうか……。
「いいじゃないですか。それより……おめでとうございます。私も、お二人の侍女として本当に嬉しいです」
「あ、ありがとう……」
「まさか、あなたからそんな言葉が出るとは思いませんでした……」
「お二人とも酷くないですか!?」
思わず驚愕してしまった僕とリズベットに、マーヤがすかさず抗議した。
だけど、全ては普段の行いだと言わざるを得ない。
「ハア……もういいですよ」
「あはは、そんなに拗ねないでよ。それより、僕達が不在の間、誰か来たりした?」
「はい。リズベット様にはヴィルヘルム子息本人とロビン殿下の従者が」
「……恥知らずな」
リズベットが、険しい表情で吐き捨てるように呟く。
だけど、ヴィルヘルムもロビンも、僕の婚約者に粘着するの、本当にやめてほしい。
「それと」
「まだいるの!?」
「ルドルフ殿下に、アリシア妃殿下の使いの者が」
「っ!? そう……」
アリシア皇妃の使いが僕のところに来た、ということは……。
「リズベット殿、すみません。少し予定を変更します」
「どうされたのですか……?」
「おそらく、アリシア妃殿下の用件というのは、例のロビンの一件の時の、あのことでしょう」
「あ……」
そう……ロビンがリズベットに夜這いをかけようとしたあの時、アリシア皇妃に提示した三つのお願いの一つ。
ファールクランツ侯爵の後ろ盾を餌に、フレドリクと手を結ぶこと。
ロビン同様、フレドリクもまた今日の新年祝賀パーティーのために皇宮に戻ってきている。
特にフレドリクにとっては、皇位継承争いで有利に立つためにも、自分の派閥にいる貴族達との関係を強固にするとともに、他の陣営からの引き抜きのために会場で奔走しているに違いない。
だからこそ、アリシア皇妃は僕とフレドリクを引き合わせたいと考え、僕に使いを出したんだ。
まあ、彼女もまさか第四皇子の僕が、パーティーに参加しないなんて、思ってもみなかっただろうし。
「そういうことですので、僕はアリシア妃殿下に……いえ、フレドリク兄上に会ってきます」
リズベットにそう告げ、僕は自分の部屋に戻ろうと踵を返すと。
「でしたら、私もご一緒いたします」
「リズベット殿も!?」
い、いや、今から準備ともなると、それこそ時間がかかってしまい、アリシア皇妃とフレドリクがいるパーティーが終わってしまう。
物理的に、間に合わないと思うんだけど……。
「ご心配いりません。こんなこともあろうかと、リズベット様のお仕度の準備は整っております」
「マーヤ、さすがですね」
マーヤが恭しく一礼し、リズベットが満足げに頷いた。
「ルドルフ殿下、お聞きになられたとおり、私もご一緒できます。それとも……私がお傍にいると、ご迷惑でしょうか……?」
アクアマリンの瞳を潤ませ、上目遣いで見つめるリズベット。
いや、こんなの断れないんだけど。
「も、もちろん構いませんが……その、会場にはヴィルヘルムやロビンがいます。それでも、よろしいのですか……?」
「はい。私にとって最も優先されることは、愛しのルドルフ殿下ですので」
リズベットは胸に手を当て、ニコリ、と微笑む。
ああもう、嬉しくて仕方ないんだけど。
「分かりました。支度を整えしだい、すぐにこの部屋に戻ってまいります。リズベット殿の準備が終わりましたら、一緒に会場へ向かいましょう」
「はい!」
リズベットと頷き合うと、僕は大急ぎで自分の部屋へと戻り、他の侍女達を捕まえて支度に取りかかる。
いくら僕は男で手間取らないとはいえ、リズベットと一緒に会場に行くんだ。なら、決して彼女に恥ずかしい思いをさせないようにしないと。
ということで、僕はリズベットの髪の色と僕の髪の色を基調とした、黒と銀の衣装に着替えた。
うん、これなら問題ないかな。
――コン、コン。
僕は部屋を出て、リズベットの部屋の扉をノックすると。
「殿下。あと少しで終わりますので、今しばらくお待ちください」
「分かった」
マーヤの言葉に従い、部屋の前で待つこと十分。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
僕は部屋の中へ入り、リズベットを迎えに……っ。
「ルドルフ殿下……」
婚約者のあまりの美しさに、僕は声を失ってしまった。
リズベットは琥珀色のドレスに身を包み、長く艶やかな黒髪をハーフアップにまとめている。
そして……左手の薬指には、誕生日にプレゼントした淡い青色の宝石をあしらった指輪も。
「い、いかがでしょうか……?」
…………………………はっ! み、見惚れている場合じゃない!
リズベットを不安にさせてしまっているじゃないか!
「もちろん、とても素敵です。それこそ、女神さえも裸足で逃げ出してしまうほどに」
「あ……ふふ、ありがとうございます」
僕の言葉に、リズベットが頬を染めて微笑んだ。
うわあ……駄目だ、どうしても彼女に釘付けになってしまう。
本当に、こんなにも素敵な女性が僕の婚約者だなんて、奇跡なんて言葉で片づけられないよ……。
「殿下、ではまいりましょう」
「へ……? は、はい!」
ああもう、また見惚れてしまったよ。
でも、さすがに二回目ともなるとリズベットも気づいたみたいで、僕の情けない反応にも嬉しそうにしてくれた。
僕はリズベットの手を取り、アリシア皇妃とフレドリクの待つ会場へと向かった。
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