穴があったら入りたい
「リ、リズベット殿、その……申し訳ありません……」
天蝎宮に戻ってくるなり、僕は顔を真っ赤にしながら深々と頭を下げた。
ああ……穴があったら入りたい……。
「そんな、おやめください。ルドルフ殿下が謝られるようなことは、何一つございません」
「で、ですが……」
逆に恐縮するリズベットに、僕はますます頭が上がらなくなる。
くそう、ロビンが愚かだということは十二分に知っていたはずだったけど、ここまでどうしようもないのは想定外だ。
「……お二人とも、どうかなさったのですか?」
「「あ……」」
少し不機嫌な様子で尋ねるのは、留守番をさせられていたマーヤだ。
最初は僕達と一緒に皇宮内を回ろうと思ったんだけど、リズベットから『来ないでください』と明確に拒否されたのだ。
まあ、僕も処女宮の庭園へリズベットを連れていく予定だったので、二人きりになりたかったこともあり、リズベットに賛同したら、見事に拗ねてしまったわけだ。
「そ、そのー……実はロビンと出くわして、ひと悶着があったんだよ……」
「そうですか。この私がご一緒でしたらそんなことはなかったというのに、お二人とも災難でしたね」
「「…………………………」」
マーヤはかなりご立腹のようで。
「いや、悪かったよ。今回はどうしても二人で行きたかったところがあったから、しょうがなかったんだ。次はちゃんとマーヤも一緒だから」
「そうですよ。いつまでも拗ねていないで、そろそろ機嫌を直しなさい」
「……仕方ありませんね」
僕が謝ったことで、マーヤはようやく溜飲が下がったようだ。
この専属侍女、意外と面倒くさい。
「それで真面目な話、ロビン殿下と遭遇したのは理解しましたが、一体何があったのですか?」
「それが……」
僕は処女宮での出来事について、かいつまんで説明する。
特に、弟の婚約者に横恋慕する、その気持ち悪さを強調して。
「うわあ……ロビン殿下、終わっていらっしゃいますね」
「だろう?」
こんなにもマーヤと心が通じ合ったのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。
やっぱり、普通はそう思うよね。
「ですが、これはリズベット様が美しいからこその悩みでもありますので、ルドルフ殿下としては鼻が高いのではないですか?」
「そ、それはまあ……」
でも、リズベットの美しさを知っているのは、僕一人で充分なんだよ。
他の男連中は、リズベットを見るな……って。
「リズベット殿?」
「あ、あう……恥ずかしい……」
リズベットは真っ赤になった顔を、両手で覆ってしまった。
そんなリズベットも、僕は可愛らしくて仕方ない。
特に彼女は、普段はクールで凛としているからね。
こうやって恥ずかしがる姿のギャップがなんとも言えず、僕の心を鷲づかみするんだけど。
「とにかく、色々な意味でロビンは要注意だ。絶対にアイツを、リズベット殿に近づけてなるものか」
「殿下、お任せください。このマーヤ=ブラント、ロビン殿下が二度とリズベット様を拝めないようにしてみせます」
マーヤが胸に手を当て、恭しく一礼する。
どうやってそんなことをするのか気になるところだけど、僕としては彼女がすごく頼もしく思えた。
「で、ですが、これでロビン殿下と手を結ぶ、という選択肢はなくなりました」
ようやく落ち着きを取り戻したリズベットが、会話に加わる。
それでも、まだ耳が赤いところをみると、恥ずかしさは残ったままみたいだ。
「いえ、最初からロビンは選択肢に入っておりませんよ。第三皇子と手を結んだところで、大して意味がありませんし、何より……ロビンは同じ母親を持つ、第一皇子のフレドリク兄上についていますから」
といっても、手を結ばない最大の理由は、あの日を含め、リズベットに対して手を出そうとしたからだけど。
そんな奴、絶対に願い下げだ。
「今のお話ですと、ルドルフ殿下は第二皇子のオスカル殿下と手を結ぶ……そういうことですね?」
「いいえ、違います」
リズベットの言葉に、僕はかぶりを振って否定した。
「で、では……」
「うん。僕は第一皇子の、フレドリク兄上と手を結ぼうと思っている」
「「っ!?」」
僕の答えを聞いたリズベットとマーヤが、目を見開いて息を呑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!