一緒に暮らすなんて聞いてない
「これ……なに……?」
決意を新たにしたリズベットとのお茶会から十日後、早朝から突然始まった天蝎宮の模様替えに、僕は目を白黒させていた。
僕、こんなことを指示した覚えはないんだけど。
すると。
「ルドルフ殿下、おはようございます。本日はお早いお目覚めですね」
「おはようマーヤ。部屋の外がこんなに騒がしくしていたら、嫌でも起きるよ。それで、これについて説明してくれると嬉しいんだけど」
「それはお答えできません」
ええー……一応僕、この天蝎宮を管理している主だよ? 最近、僕とマーヤで立場が逆転しているように感じるんだけど、気のせいかな? 気のせいであってくれ。
「それより、せっかく早起きされましたので、支度を整えていただきましょう。ええ、そうしましょう」
「ちょっ!?」
マーヤにグイグイと背中を押され、僕は部屋へと戻って着替えを……させてもらえないんだけど。
「ええとー……マーヤ?」
「何でしょうか?」
「どうして僕は、朝からお風呂に入っているのかな?」
「決まっています。リズベット様にお逢いなさるのですから、しっかりと整えていただきませんと」
んん? リズベットとは毎日逢っているけど、さすがにここまでしたのって、あの初めて面会した時くらいだよね?
なのに、今日に限ってどうして?
「うふふ! リズベット様も殿下に見惚れてしまうこと間違いございません!」
「そ、そうかなー……」
僕は首を傾げつつ、マーヤにされるがままになっていた。
まあ、リズベットが喜んでくれるなら、それに越したことはないからね。
ということで、お風呂で身体を清めた僕は、マーヤがチョイスした服に身を包む。
これも普段着ではなくて、まるでパーティーにでも出席するかのような出で立ちだ。うん、さすがにこれはやり過ぎだと思う。
「さすがはルドルフ殿下! これでリズベット様も惚れ惚れなさること間違いなしです!」
「そ、そうかなー……」
僕は首を傾げつつ、鏡を見つめた。
まあ、リズベットが喜んでくれるなら、それに越したことはないからね。(二回目)
「じゃあ、朝食を食べに食堂へ……」
「ルドルフ殿下、本日の朝食はもう少し後です」
「ええー……」
まさかお預けを食らうことになるとは思ってもみなかった。
いや、なんで?
「それよりも、そろそろ玄関にまいりましょう」
「玄関?」
はて……今日の僕、朝から外出する予定なんてあっただろうか?
というか、僕が外出する用事なんてファールクランツ邸に行くくらいしかないし、リズベットとはそんな約束をしていないんだけど。
「リズベット様も、それはもうお喜びになること間違いなしです!」
「そ、そうかなー……」
僕は首を傾げつつ、玄関へと向かった。
まあ、リズベットが喜んでくれるなら、それに越したことはないからね。(三回目)
すると。
「あれ? あの馬車は……」
玄関の前の道を通り、一台の馬車がこちらへと向かってくる。
あの車体にあの意匠……間違いなくファールクランツ家の馬車だ。
でも、リズベットがこんな朝早くに来るなんて珍しいな。
いつもは大体十五時頃に来ることが多いのに……って!?
「ど、どういうこと!?」
僕は馬車を指差しながら、思わず叫んだ。
だ、だって、よく見たらファールクランツ家の馬車が何台も連なっているんだけど!?
でも、驚く僕をよそに馬車は真っ直ぐこちらへと向かってきて、先頭の馬車が僕の目の前に横付けされる。
「ルドルフ殿下、おはようございます」
「う、うん、おはようございます……」
僕は目を白黒させたまま、にこやかに微笑むリズベットの手を取って馬車から降ろした。
「そ、その、この馬車は一体……」
「? マーヤからお聞きになられておりませんか?」
おずおずと尋ねる僕に、リズベットは不思議そうな表情を浮かべる。
え? どういうこと?
僕は慌ててマーヤを見ると……あ、目を逸らされた。
笑いを堪えながら肩を震わせているところを見ると、どうやら確信犯みたいだな。
「ハア……本当に、マーヤったら……」
「それで、事情を教えてくださると助かるのですが……」
マーヤの仕業であると察したリズベットは、溜息を吐く。
そんな彼女に、僕は改めて尋ねると。
「これから帝立学園に入学するまでの約一年間、私はこちらの天蝎宮でルドルフ殿下と一緒に暮らすことになりました」
「ええええええええええええ!?」
僕は驚きのあまり、仰け反って絶叫した。
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