再び現れた英雄
「あ……う……」
「っ! ルドルフ殿下!」
僕は意識を取り戻して目を開けると、心配そうに覗き込む、リズベットの美しい顔が視界に入ってきた。
それに、やけに後頭部が柔らかくてふわふわした感触があるんだけど。
「リ、リズベット殿……僕は一体……」
「まだ動かれてはなりません。あなた様はお父様との立ち合いの末、意識を失われたのです」
「あ……」
そうだった。
僕はリズベットとのことを認めてもらうため、ファールクランツ侯爵と立ち合いをして、そして……勝利したんだ。
ま、まあ、最後は侯爵のお情けなのは間違いないんだけど、勝ったものは勝ったんだし、あの最後の表情だって、僕のことを認めたと受け取って間違いないはず。
だから、これからは気兼ねなくリズベットと逢えるんだ。
……今までも、リズベットとは皇宮で毎日逢っていたことは、とりあえず置いておこう。
「そ、それで、ファールクランツ閣下はどうされたのですか?」
「あのような方のことなど、どうでもよろしいではないですか」
侯爵のことを尋ねた途端。リズベットは口を尖らせてプイ、と顔を背けてしまった。
どうやら、まだ怒っているらしい。
でも、怒る理由が僕のことを思ってなんだから、嬉しいに決まっている。
だから。
「リズベット殿、ありがとう……」
「あ……は、はい……」
リズベットの細い手を握って感謝の言葉を告げると、彼女は頬を赤く染め、頬を緩めた。
「さあて……それじゃ、そろそろ僕も起きるよ……っ!?」
「あっ!」
痛む身体を起こし、ようやく僕は理解する。
ひょ、ひょっとして、リズベットは膝枕をしてくれていたのか……!?
「あ、あわあわあわ!? も、申し訳ありません!」
その事実を知り、僕は慌てて土下座をした。
いくら婚約者であの時の女の子だと分かったとはいえ、こんな関係になったのはほんの数時間前の話なんだ。
たとえリズベットがしてくれたこととはいえ、いくらなんでも調子に乗り過ぎだ。
でも。
「…………………………」
リズベットが、あからさまにムッとしている。
これは、僕が膝枕をしてもらっていたから……ではなく、慌てて飛び退いて土下座したから、ってことでいいのかな? いいんだろうな。
「……どうやら、まだ動くのは無理みたいです。申し訳ありませんが、リズベット殿の膝を、その……お借りしてもよろしいですか?」
「! は、はい!」
リズベットの表情は一変し、パアア、と最高の笑顔を見せてくれた。
やっぱりこれが正解だったみたいだ。
「あははー……い、いいのかな……」
「ふふ、もちろんです」
僕は再び膝枕をしてもらい、ご機嫌な様子のリズベットを見て苦笑した。
◇
「さ、さすがにもう大丈夫です」
「そうですか……」
膝枕をして十五分ほど経過し、僕はいい加減身体を起こすと、リズベットは肩を落とす。
もちろん僕だってずっと膝枕をしてほしい気持ちはあるけど、今日は彼女の誕生パーティー。いつまでも主賓がいないままというわけにはいかない。
なので。
「さあ、リズベット殿はホールにお戻りください。僕はパーティーが終わるまで、外で待機しておりますので」
「っ!? い、一緒にはいてくださらないのですか!?」
僕の言葉に、リズベットが困惑の表情を浮かべた。
「はい。さすがにこの顔では、君にも、ファールクランツ閣下にも迷惑をかけてしまいます」
そう言って、僕は苦笑する。
招待客は僕の顔を見て何事かと思うだろうし、傍にいるリズベットも変な目で見られてしまうからね。
「そ、そんなことを言うような方々こそ、退場なさればいいのです! 殿下がお気を病む必要はございません!」
「それでも僕は、君がこの誕生パーティーでみんなの祝福を受けてほしいんです。それが、僕は何よりも嬉しいですから」
そう……僕がそんな祝福を受けることは、永遠に望めない。
なら、婚約者の……いや、未来の妻となるリズベットも、同じ思いをすることになってしまうだろう。
だから、せめて婚約したことを公表していない今だけは、受けるべき祝福を受けてほしいんだ。
僕のようなつらい思いを、できる限りしてほしくないから。
「……このパーティーはすぐお開きにします。ですから、ほんの少しだけお待ちくださいませ」
僕が折れないことを悟ったリズベットが真剣な表情でそう告げた後、ホールへと入っていった。
本当は僕のことなんて気にせずに楽しんでほしいけど、彼女もまた折れないことは知っている。
あはは、僕達って案外似た者同士かも。
史実では『ヴィルヘルム戦記』において二人の仲を引き裂く暴君と、その暴君を暗殺する令嬢だったんだから、本当に面白いなあ。
だけど……うん。前世の記憶を取り戻し、歴史を変えようと決意して本当によかった。
そのおかげで、僕は大切なあの日を守ることができ、リズベットと再び出逢うことができたのだから。
なので。
「……リズベット殿に二度と姿を見せるなと言われたのに、まだいるなんて随分と厚顔無恥なんだね」
「…………………………」
そんなに睨んでも無駄だよ……ヴィルヘルム=フォン=スヴァリエ。
僕達は絶対に、引き裂かれたりはしない。
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