愛しい御方と添い寝を ※リズベット=ファールクランツ視点
■リズベット=ファールクランツ視点
「っ!? ルドルフ殿下!」
お父様が負けを宣言すると同時に、その場で倒れ込んでしまったルドルフ殿下の元へ、私は必死に駆け寄りました。
もう……もう……こんな無茶ばかりして……っ。
あの日もそうでした。あなた様は、最低の皇子であるロビン皇子の指示で従者達に暴行を加えられても、私を守ろうとして、決して折れなくて……。
「本当に……あなた様は、どうしようもない御方です……っ」
微笑みさえ浮かべるルドルフ殿下を抱きしめ、私はそんなことを呟きます。
どうしようもなく、この私のためにその身を犠牲にしようとする御方。
「……それでお父様、果たしてここまでする必要があったのでしょうか?」
私は自分でも驚くほど低い声で、お父様に詰問しました。
たとえお父様であっても、私のルドルフ殿下をこのように傷を負わせたのです。絶対に許しません。
「む……やり過ぎてしまったことは認めよう。だがな、ルドルフ殿下の置かれている立場を考えれば、愛娘を預けるに足る御方なのか、父として試さぬわけにはいかない」
「ですがっ!」
もっともらしいことを告げるお父様を、私はキッと睨みつけます。
何より、私をダシに使うなんて、認められません。
あの時の男の子を……ルドルフ殿下をお守りすると決めたあの日から、既に私の覚悟は決まっているのですから。
「……いや、違……わないか。最初はそのような思いもあり、試そうとした。だがそれ以上に、私の武人としての血が騒いでしまったのだ」
「それは、どういう意味でしょうか……?」
「手合わせをして分かったが、ルドルフ殿下は磨けば光る原石なのだ。確かに剣さばきや身体の使い方など、およそ素人のものであった。それでも、私は殿下の可能性を感じずにはいられなかった」
そう言って、お父様は頬を緩めます。
お父様はお世辞を言えるような性格ではありませんので、その言葉は本当なのでしょう。
何より、武に対して常に真摯であるお父様が、そんな嘘を言うはずがありませんし、才ある者を見出した時に過剰なまでの指導を行ってしまうことも承知しています。
そのせいで、私も苦労しましたから。
「だが……だからこそ、ルドルフ殿下が不憫でならない。私に打ち込んできた気迫といい、王として優れた才能を持ち合わせているがゆえに」
「…………………………」
お父様も、このバルディック帝国で最も力のある貴族の一人。
当たり前ですが、ルドルフ殿下の出自も、これまでの皇宮での振る舞いも、そして、周囲からどのように扱われているかも、全てご存知なのでしょう
「クク……これは、いよいよ私も日和見をしているわけにはいかぬか。何せ、大事な娘と息子のことだからな」
「あ……お、お父様……」
「ルドルフ殿下の手当てをしてあげるのだぞ」
そう言うと、お父様は訓練場を後にしました。
でも……お父様が、殿下のことをお認めくださった。しかも、『息子』とまでおっしゃられたのです。
私は、それが心から嬉しかった。
とはいえ。
「……こんな目に遭わせたことは、絶対に許しませんが」
お父様が出て行った先を見つめ、私は怨嗟を込めて呟いた。
◇
「これでよし、と」
私は自分の部屋にルドルフ殿下をお連れした後、怪我の手当てをいたしました。
顔や身体にはたくさんの痣ができ、腫れてはおりますが、幸いにも骨に異常はなさそうです。
「すう……すう……」
「ルドルフ殿下……」
痛くてつらいはずですのに、ルドルフ殿下は安らかな寝息を立てておられます。
本当に、愛しい御方……。
私はルドルフ殿下のお顔が可愛らしいあまり、思わず手を伸ばしてその頬に触れてしまいます。
ふふ、柔らかくてすべすべしていて、いつまでも触っていたくなりますね。
すると。
「んう……」
「っ!?」
い、いけません、危うく起こしてしまうところでした。
もちろん、起きてその琥珀色の瞳で見つめてほしいという思いがありますが、殿下のお休みになられる姿など、滅多に見られる機会などないのです。
今のうちに、思う存分堪能しておきませんと。
ということで、私はルドルフ殿下としたかったことを、一つ一つ叶えることにいたしましょう。ええ、そうしましょう。
「まずは、膝枕を……」
ルドルフ殿下を起こさないように、そっと頭を私の太ももに乗せますと……あ、殿下が少し口元を緩めました。
ひょっとして、私の太ももを心地よいと感じてくださったのでしょうか。だったら嬉しいですね。
私はひとしきりルドルフ殿下の白銀の髪を撫でた後、いよいよ次の段階へ進もうと思います。
そう……殿下との添い寝です。
口づけまでとなると、さすがにやり過ぎだと思いますし、その……できれば、口づけは殿下からしていただけると……って、そうではありません。
とにかく、目を覚ましてしまわれる前に、早く済ませてしまいましょう。
私はゆっくりとルドルフ殿下の頭を下ろし、隣に寝そべります。
も、もう少し近くまで……。
少しずつにじり寄り、とうとう私はルドルフ殿下の寝息がかかる距離まで顔を近づけました。
こ、これは、たまりませんね……って!?
「お母様!?」
「あらあら、見つかってしまったわね」
あろうことか、お母様がこの部屋を覗き見していたではありませんか。
「もう! もう! どこかへ行ってくださいませ!」
「うふふ、そうするわね」
にやにやと含み笑いをしながら、お母様は部屋の扉を閉めました。
見られてしまったことも致命的ですが、お母様のことです。絶対にまだ部屋の前にいるはず。
ハア……これでは、せっかくの殿下との添い寝の続きができませんね……。
そのことに肩を落とし、私は恨めしそうに部屋の扉を見つめました。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!