誕生日パーティーに誘われました
リズベットと婚約をしてちょうど三か月、今日も僕はリズベットと天蝎宮の庭園でお茶をしている。
婚約当初のリズベットは表情も変えず、冷たい視線ばかりを向けてきて針のむしろ状態だったけど、今では……うん、全く表情は変わらないね。
それでも、『ヴィルヘルム戦記』で“氷の令嬢”としてあれだけ持ち上げられているだけあって、間違いなく綺麗だ。
ハア……彼女も、笑えばもっと可愛いと思うんだけどなあ……。
「ルドルフ殿下、浮かない表情をなさっていますが、どうしたのですか?」
「っ!? い、いえ、その……ちょっと考え事を……」
「……そうですか」
いけない、ボーッとしている場合じゃないよ。
この三か月で、少しだけ僕もリズベットの機嫌というものが分かるようになってきたけど、僅かに口を尖らせている彼女は、間違いなく拗ねている。
……よくよく考えてみたら、これまで誰にも相手にされないか、あるいはロビンのように侮蔑を向けるか、そのどちらかだったのに、今ではリズベットとマーヤだけが、この僕に接してくれている。
将来僕を暗殺する女性と、何者かの間者というのが、何とも僕らしいけど。
「こ、今度はどうして笑っていらっしゃるのですか」
「す、すみません!」
ますます不機嫌になったリズベットの言葉に、僕は反射的に直立不動になった。
うう……ちゃんとリズベットに集中しよう。
「こ、こちらのお菓子も美味しいですので、どうぞお召し上がりください」
少しでも機嫌を取ろうと、僕は色鮮やかなマカロンと小さなショートケーキを皿に乗せ、リズベットに差し出すと。
「もう……」
と、彼女は腑に落ちないといった様子で皿を受け取る。
でも、いくつも手にとっては口に放り込んでいるところを見ると、機嫌は直ったみたいだ。よかった。
「ルドルフ殿下も、リズベット様の扱いに慣れたようですね」
マーヤ、そういうことを耳元でささやくのはやめてくれないかな?
多分、今の僕はすごく微妙な顔をしているに違いない。
「……ところで、その……本日はルドルフ殿下にお願いがあります」
「僕に、ですか……?」
どこか意を決したように話すリズベットに、僕は思わず身構える。
そのお願い、絶対にろくな事じゃないと見た。
「はい。実は一週間後、私の誕生日でして……」
「誕生日!?」
思っていたほどろくな事じゃなかったけど、つまりリズベットの誕生日を祝えってことだよね?
どうしよう。一週間でリズベットが満足できるようなプレゼントを用意することができるかな……。
だけど、このまま彼女と婚約を続けざるを得ない状況を考えると、少しでも機嫌を取って関係改善を図る上では、この誕生日は悪い話じゃない。
ただし、僕が失敗しなければ、だけど。
「それで、殿下には私の誕生パーティーに、婚約者としてご出席いただきたいのですが……」
上目遣いで僕の顔を覗き見るリズベット。
普段の凛とした姿とは違い、アクアマリンの瞳から不安のようなものが見て取れた。
だけど……正直なところ、僕的には普段の冷たい印象とのギャップで、胸が高鳴ってしまっている。
「そ、その、僕でよければ喜んで」
「っ! あ、ありがとうございます!」
リズベットは身を乗り出し、先程と打って変わって瞳を輝かせた。
そんなリズベットに魅了されながらも、僕は違和感を覚えてしまう。
どうして彼女は、そんなに喜んでくれるんだろう……。
だってリズベットは、『ヴィルヘルム戦記』では確かに暴君のルドルフが言い寄っても顔を背け、決して心を開いたりはしなかった。
実際、帝国の全てを差し出そうとしたルドルフに対し、むしろ憐れみを向けるほどに。
なのに、目の前の彼女はこの僕に対して、間違いなく心を開こうとしてくれている。
最初は冷たい印象しかなかったけど、彼女のことを知るにつれ、ただ不器用なだけなんだと思わせるほどに。
それが余計に、僕を惑わせる。
◇
「では、一週間後を楽しみにしております」
「は、はい、どうぞよろしくお願いします」
馬車に乗り込んでからも、確認するかのようにそう話すリズベット。
そんな彼女の様子に、僕も悪い気はしない。
リズベットを乗せた馬車が、ようやく見えなくなると。
「……マーヤ」
「はい」
「すまないが、今から告げるものを大至急用意してくれ。絶対にだ」
「かしこまりました」
僕の意図に気づいたマーヤが、恭しく一礼した。
そして迎えた、一週間後のリズベットの誕生パーティー当日。
「…………………………」
「ど、どうぞよろしくお願いします……」
ファールクランツ侯爵邸の玄関の前で仁王立ちするリズベットの父、“ドグラス=ファールクランツ”侯爵に出迎えられた。
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