極寒に吠える愚かな豚 ※ロビン=フェルスト=バルディック視点
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■ロビン=フェルスト=バルディック視点
「うう……さ、寒い……っ」
窓から差し込む隙間風に、俺は毛布にくるまり、寒さに耐える。
ここナルリクの塔は、一年中冬が訪れる極寒の地。夜であっても昼のように明るく、季節や時間を感じることができず、この苦しみがまるで無限のように感じてしまう。
「どうして……どうしてこの俺が……っ!」
俺はただ、愛するリズベットを手に入れたかっただけなのに。
俺はただ、“穢れた豚”であるルドルフを皇室から消し去ってやりたかっただけなのに。
「それもこれも、母上がいけないんだ! あんな奴の肩なんか持って、俺をこんなところに閉じ込めて!」
思い出しただけで、怒りでどうにかなりそうになる。
あろうことかルドルフと手を組み、今までフレドリク兄上に尽くしてきた俺を切り捨てたんだ。
「フレドリク兄上も! オスカル兄上も! 俺がこんなところに閉じ込められていることを、何とも思わないのか!」
そうとも。今まで尽くしてきた俺を、どうして助けに来ない。
フレドリク兄上だって、俺が派閥にいたおかげでオスカル兄上に対抗できたんだし、オスカル兄上だって、俺が母上とフレドリク兄上を裏切ったおかげで、次期皇帝の座に近づいたんだ。
「……まあ、オスカル兄上に関しては、本当に俺の兄上なのか疑わしいけどな」
皇族なら全員持つ琥珀色の瞳を、ただ一人持ち合わせていない兄弟。
実は第二王妃のカタリナが、使用人との間に作った不義の子ではないかとささやかれているのは、もはやバルディック帝国では周知の事実だ。
だから、まだ母上やフレドリク兄上についていた時は、あの男もルドルフ同様、皇室にとって不要な存在だと考え、オスカル……の取り巻きの連中に嫌がらせをしてきた。
本当はオスカルの奴を直接懲らしめてやりたかったが、アイツは曲がりなりにも俺の兄に当たるからな。仕方なく、勘弁してやった。
……言っておくが、決してオスカルが怖いわけじゃないからな。
「クソッ……クソッ……ここを出たら、絶対に復讐してやるぞ! ルドルフッッッ!」
憎い“穢れた豚”のことを考え、思いきり歯噛みする。
ここから出ることさえできれば、俺の派閥の連中を使ってルドルフの奴を攫い、俺が味わった苦しみ……いや、それ以上の目に遭わせてやる。
骨を折り、舌を切り、爪を剥ぎ、耳を削ぎ、目を抉り……って、いや、片目は残してやらないと。
そうじゃないと、リズベットが俺の手で悦ぶ姿を見せつけてやることができないからな。
ああ、そうだ。リズベットも、俺に再び逢えて涙を流して喜ぶに違いない。
馬鹿な皇帝のせいで、ルドルフなんかの婚約者になってしまった、俺のリズベット。
この俺の手で、絶対に救い出してやる。
――ガン、ガン。
「食事です」
ナルリクの塔の守備兵が、一日一回しかない食事を持ってきた。
フン……俺は皇族だというのに、今日もパンとスープ、それに質素な肉一枚か。
「たまには俺が喜びそうなものを持ってこい。この無能が」
「っ! ……そういえば、ご存知ですか? ロビン殿下の派閥が解体され、全てオスカル殿下の派閥に吸収されたそうですよ」
「っ!? どういうことだ! 誰がそんな勝手な真似を許した!」
この俺に向かって下卑た笑みを浮かべる守備兵に、俺はつかみかかる。
そんなふざけたこと、この俺が許すはずがないだろう。
「しょうがないですね。殿下は皇位継承権も剥奪されましたし、聞いたところによると廃嫡されるとのもっぱらの噂ですよ」
「ば、馬鹿な……」
この俺が、廃嫡……だと……?
四人の皇子の中でフレドリク兄上と並び、最も高貴な存在である、この俺が……?
「まあ、あれだけのことをしでかしたんです。諦めるんですな、この、無能皇子が」
「き、貴様ああああああああああああああッッッ!」
とんでもない不敬を働いた守備兵に殴りかかるが、その前に部屋を出て行ってしまい、俺の拳は空を切った。
「クソッ! クソッ! クソオオオオオオオオオオオオッッッ!」
俺は、この真っ白な夜に向かって吠える。
この俺を蔑ろにした、全ての者への憎悪を込めて。
その時。
「っ!? あ、あなた様は!?」
「悪いけど、通してくれるかな?」
聞き覚えのある声が、先程の守備兵を話をしている。
間違いない。この声の主は……。
「オスカル兄上!」
「やあ、元気にしてたかい?」
鉄の扉の窓から、オスカルがにこやかな表情で話しかけてきた。
は、はは……やはり、この俺が必要なんだな! そうだとも! 俺はバルディック帝国の第三皇子、ロビン=フェルスト=バルディックなんだからな!
「オスカル兄上! 早く俺をここから出してくれ!」
「そうしたいのはやまやまだけど……悪いが、もう少しだけ待ってくれないかな?」
「ど、どうして!?」
「実は……」
オスカルは、事情を説明する。
スヴァリエ公爵がクーデターを起こし、その子息であるヴィルヘルムと共にファールクランツ侯爵の手によって粛清されたこと。
ルドルフは皇位継承権を捨て、皇宮を出てファールクランツ家の婿養子になること。
「……とまあ、色々とごたごたがあって、今はこちらにまで手が回らないんだ。もちろん、落ち着いたらすぐにでもここから出られるよう、皇帝陛下に嘆願するつもりだよ。お前は、僕のたった一人の弟だからね」
「オスカル兄上……!」
やはり、俺にはオスカルしかいない。
この際、不義の子であるかどうかは二の次だ。
「アハハ。心配しなくても、お前の気持ちはこの僕が一番理解している。だから……ルドルフも、リズベットも、お前の好きにできるように、ちゃんと用意して待ってるよ」
そう言うと、オスカルはニコリ、と微笑み、踵を返すと。
「それじゃ、またね」
従者の初老の男を連れて、部屋の前から去って行った。
「ハ……、ハハ……、ハハハハハハハハハハハハハッッッ! 待っていろ! ルドルフ! 貴様には絶望と苦しみを! リズベットには愉悦と快楽を! この俺が……この俺が、叩き込んでやるッッッ!」
その時を思い浮かべ、俺はナルリクの空に向かって哄笑した。
そう……俺は、興奮のあまり気づかなかったんだ。
――不義の証であるオスカル兄上の黒曜の瞳が、琥珀色に輝いていたことを。
お読みいただき、ありがとうございました!
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内容の加筆は当然のこと、リズベットがさらに可愛くヤンデレに、マーヤは色々とやらかしております(もっとやれ)
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