はじまりの物語
大切なお願いです!
どうかあとがきまでご覧くださいませ!
「ルドルフ殿下。最後なのですから、もっとちゃんと身だしなみを整えませんと」
鏡に向かって着替えていると、マーヤが呆れた表情を浮かべ、ふう、と息を吐いた。
ええー……僕、いつもどおりなんだけど。ちょっと理不尽。
「ハア……分かったよ。それより、また『殿下』って呼んでるよ」
「あ……失礼しました、ルドルフ様」
マーヤが舌を出し、おどけてみせる。
専属侍女にそんなあざとさは求めてないから、普通にしてくれないかな。
すると。
――コン、コン。
「ルディ様。そろそろお時間ですが、支度は整いましたか?」
瞳と同じ淡い青色のドレスを身にまとったリズが、おずおずと部屋に入ってきた。
うん、今日もあまりの綺麗さに見惚れてしまい、息をすることも忘れてしまいそうになるよ……って。
「リズベット様、聞いてください。ルドルフ様ときたら……」
おのれマーヤめ、リズに告げ口するつもりか。
「いやいや、マーヤがこだわり過ぎなんだって」
「いいえ、ルドルフ様が」
僕とマーヤは、争うようにリズに訴える。
お互い、遅れてしまった言い訳に必死なのだ。
「ふふ、まだなのでしたら、私はこちらの服があなた様にとてもお似合いになるかと思います」
「それにしましょう。マーヤ、頼む」
「お任せください!」
リズの鶴の一声で、僕とマーヤはテキパキと着替えを済ませた。
あ、もちろんリズには後ろを向いてもらったとも。恥ずかしいし。
「その……いかがでしょうか?」
「ルディ様、素晴らしいの一言に尽きます。素敵です。最高です」
「わっ!?」
ううむ、リズに抱きしめられてしまった。嬉しい。
というか、ヴィルヘルムとの戦い以降、こうやってやたらとリズのスキンシップが多くなったような気がする。
ただ、最近はリズのほうがほんの僅かに身長が高くなったので、弟をあやしているみたいな感覚がほんのちょっとだけ無きにしもあらず。
い、言っておくけど、ほんのちょっとだけだからね。ほんの一、二センチだけだよ。本当だよ。
「で、では、まいりましょうか」
「はい!」
僕はリズの手を取り、玄関へと向かうと。
「ルドルフ殿下」
「ルドルフ公子」
「ルドルフ」
アリシア皇妃、カタリナ皇妃、それとフレドリクが待ち構えていた。
そう……僕はいよいよ、この皇宮から……天蝎宮から出ていくんだ。
十五年間過ごしてきたここを離れるんだから、嫌な思い出ばかりではあったものの、寂しくもある。
何より……あの日リズと初めて出逢った、大切な場所もあるから。
なお、皇帝もオスカルも、当然ながらこの場にはいない。
オスカルに関しては帝立学園で今頃授業を受けているだろうし、皇帝は僕の顔なんて見たくもないだろうからね。
それどころか、もし僕が皇宮に居座ったままなら、間違いなく暗殺を仕掛けてくると思う。
このことに関しては、ファールクランツ侯爵からも警戒するように言われている。
ほんの僅かな時間であっても、油断ならないと。
本当は侯爵と一緒にすぐにでもファールクランツ家に行けばよかったんだけど、僕だけでなく一年間皇宮で一緒に過ごしてきたリズの支度もあり、最後の後始末をしていたのだ。
「ルドルフ殿下……寂しくなるわね」
「アリシア妃殿下、僕はもう皇子ではありません。ですので、ただ“ルドルフ”とお呼びください」
「そ、そう? なら……ルドルフ」
アリシア皇妃が、少し恥ずかしそうにしながら僕の名前を呼んだ。
何というか、可愛らしい女性だなあ。
「カタリナ妃殿下も、僕はスヴァリエ家とは縁もゆかりもないわけですから、『公子』は不要です」
「ウフフ、そうね。ルドルフ」
こちらは、淀みなく僕の名前を呼ぶ。
ウーン……やっぱり皇宮内で一番したたかなのは、カタリナ皇妃ではなかろうか。
「ルドルフ。私は、これからもお前を頼りにしているぞ」
「あ、あははー……できる限り頑張ります……」
ルドルフ派閥もなくなったので、過度に期待するのはやめてほしいなあ。
一応、ファールクランツ侯爵家の後継者ではあるけど。
「ルドルフ様、そろそろ……」
「あ、うん。皆様、お見送りいただき、ありがとうございます。その……また、遊びに来てもいいですか?」
「っ! もちろんよ! いつでもいらっしゃい!」
僕の言葉に、アリシア皇妃がパアア、と笑顔を見せた。
本当に、実の母親のベアトリスとは大違いだよ。
でも、その笑顔の裏側で、これからベアトリスに苦痛を与え続けるのか。
生かさず、殺さず。
「では、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
三人に見送られ、僕達は皇宮を後にした。
◇
「ふふ……色々、ありましたね……」
「はい。色々ありました……」
馬車の中、僕とリズは隣同士に座り、微笑み合う。
一年半前、毒殺されかけて生死を彷徨って目覚めた時、ただの村人だった前世の記憶を取り戻した。
あの、『ヴィルヘルム戦記』の全てとともに。
暴君としての歴史を変えようと、足掻いて、もがいて、その中でかけがえのない女性と再び出逢えて、結ばれて。
そして、英雄ヴィルヘルム=フォン=スヴァリエとの戦いを経て、本来歩むべきルドルフの人生を取り戻したんだ。
「あ、お父様とお母様がいらっしゃいますね」
「あはは、本当ですね」
車窓から見える屋敷の玄関には、腕組みをするファールクランツ侯爵とにこやかに手を振るテレサ夫人……いや、これからは義父上と義母上になるんだったね。二人が、僕達の到着を待ちわびていた。
「ルディ様……私は、世界一幸せです、だって、愛するあなた様とご一緒になれるのですから」
「僕もです。世界一素敵なリズと一緒になれて、こんなに素晴らしい家族まで……」
今まで家族なんてなかった僕にできた、新しい家族。
皇帝が僕の存在を排除しようと考えている以上、これからも危険が付きまとうことは間違いない。
それに、ヴィルヘルムと繋がっていたルージア皇国も、『ヴィルヘルム戦記』どおりなら、虎視眈々とバルディック帝国を狙っているはずだ。
だけど、僕は絶対に幸せな未来をつかんでみせる。
世界一大好きなリズとの、幸せな未来を。
「うむ、待っていたぞ」
「うふふ、ようこそファールクランツ家へ」
「よろしくお願いします。義父上、義母上」
僕は、ルドルフ=ファールクランツ。
――暴君になるはずだった、元第四皇子だ。
◇
これは三百年前、西方諸国の混乱期において活躍した、後に英雄と呼ばれた男の叙事詩。
〜『ルドルフ戦記』第一章 飛翔〜
お読みいただき、ありがとうございました!
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内容の加筆は当然のこと、リズベットがさらに可愛くヤンデレに、マーヤは色々とやらかしております(もっとやれ)
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