母との決別
第二部完結まで残り2話!
「母上……」
「っ! ルドルフ……ッ!」
皇宮の地下牢へやって来た僕は、鉄格子の向こうにいる、ベアトリスと相対した。
ここには、僕だけでなく、リズとファールクランツ侯爵、それにアリシア皇妃もいる。
一方のベアトリスは、とても母親が実の息子に向けるものとは思えないような、そんな視線を向けてきた。
こんな姿を見れば、本当は会うべきじゃなかったのかもしれないと思う。
でも……僕が、新しい人生を歩んでいくために、必要だから。
前世の記憶を取り戻す前の、恋い焦がれていた母親と、決別するために。
「母上、あなたの口から教えてください。僕の本当の父親は、スヴァリエ公爵なのですか……?」
既に出ている答えを、僕はあえて尋ねた。
別に、僕はあんな皇帝の血なんて欲しくはないし、スヴァリエ公爵が父親だと言われても、そんな実感は皆無だけど。
「……ええ、そうよ。オマエは、あの御方の子供よ」
「では、僕を身籠ってから、皇帝陛下に近づいて愛人になり、産んだんですね。陛下の息子として」
「そうよ、そうよ」
もうやけになっているのか、ベアトリスは吐き捨てるように肯定の言葉を繰り返すのみ。
「あなたは何故、こんなことをしたんですか? どうして、スヴァリエ公爵に加担したんですか?」
「決まってるじゃない。あの御方に、迎えに来てもらうためよ。私を、皇妃として」
「っ!?」
突然、ニタア、と口の端を吊り上げたベアトリスに、僕は思わずたじろいでしまった。
「あの御方は……ヨーラン様はおっしゃったの。私を皇妃に……妻にしてくださると。あの薄汚い女がいない今、ヨーラン様の寵愛を受けるのは私だけだもの」
ベアトリスの言う『薄汚い女』というのは、おそらくスヴァリエ公爵の正妻……つまり、ヴィルヘルムの母親を指しているのだろう。
そういえば、ヴィルヘルムの母親がどうなったのか、知らないな。機会を見て調べてみよう。
「ですが、そんな上手くいくと思いますか? 自分の野望のために利用し、皇帝陛下に愛人としてあてがった者を、果たして皇妃として迎え入れるでしょうか」
「…………………………」
僕はベアトリスに現実を教えるため、あえて問いかけた。
だけど、この女も本当は理解しているのだろう。何も答えず。ただ唇を噛んでいる。
「いずれにせよ、あなたは利用されたんです。そして、スヴァリエ公爵の野望は潰え、実の息子によって無様に死んだんです」
「っ!? オマエが……オマエがヨーラン様を殺したのかッッッ! このケダモノ! 人殺し! 鬼! 悪魔!」
ベアトリスが勢いよく立ち上がり、鉄格子の隙間から僕に向けて手を伸ばした。
憎悪の視線を向け、怨嗟の言葉を吐いて。
「死ね! 死ね! ヨーラン様じゃなく、オマエが死ね! オマエなんか……オマエなんか、生まれてこなければよかったのよ!」
とめどなく吐き出される、ベアトリスの僕への罵詈雑言。
僕はただ、それを黙って受け続けている……って。
「リズ……?」
「あえて、ベアトリス、と呼び捨てにさせていただきます。まず、あなたに感謝の言葉を。ルディ様をお産みいただき、本当にありがとうございます」
そう言うと、リズは深々とお辞儀をした。
先程から散々『死ね』と叫ぶベアトリスに対し、これ以上の皮肉はないかもしれない。
「ア、アンタ……ッ!」
「私はルディ様と出逢えたことで、至上の喜びと幸福を手に入れることができました。これらは全て、あなたがスヴァリエ公爵の陰謀に加担し、皇帝陛下を誘惑して愛人に収まったおかげです」
ベアトリスの言葉を遮るように、胸にそっと手を当て、リズは微笑みさえ浮かべて感謝と皮肉の言葉を次々と述べていく。
アクアマリンの瞳に、怒りを滲ませて。
「不安でしょうけど、ご安心ください。ルディ様は、これから私と一緒に幸せな日々を過ごします。なので、あなたはどうか、絶望と苦しみを味わってこの世界から消えてください」
「あ……う……」
あまりにも冷たい言葉の数々に、さしものベアトリスも打って変わり、言葉を失ってしまった。
「ウフフ、任せてちょうだいな。ベアトリスには、それはもう素晴らしい苦痛を味わわせて差し上げるわ。これから何日、何か月、何年と」
「ヒッ!?」
アリシア皇妃の仄暗い笑みに、ベアトリスが軽く悲鳴を上げる。
ひょっとしたら、ようやく自分の置かれた状況を理解したのかもしれない。
それに、ベアトリスに対して最も憎悪を抱いていたのは、僕ではなくアリシア皇妃だ。
なら、この女の生殺与奪は、アリシア皇妃の手に委ねるのが正解だろう。
「ね、ねえ! ルドルフ……私達、親子よね……?」
鉄格子にしがみつき、微笑みを引きつらせてそんなことを宣うベアトリス。
でも、残念ながら親子の絆はもうないんだ。
あなたが、自ら手放してしまったから。
「失礼します」
「っ!? 待って! お願い待ってちょうだい! ルドルフ! ルドルフウウウウウウウウッッッ!」
踵を返し、地下牢を後にする僕の後ろで、ベアトリスの悲痛な叫びがこだました。
お読みいただき、ありがとうございました
「暴君皇子」につきまして、次でいよいよ第二部完結!
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どうぞお楽しみに!
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